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気持ち良く生きるってこういうことさ!~映画ダンジョンズ&ドラゴンズ感想

 映画D&D公開前後にnote記事を色々と書いてきましたが、いずれも本題はガイド記事であっててんぐ自身の映画そのものの感想は書いてなかったなと思い至りました。
 というわけで、今夜はてんぐの目から見た、映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の、おもにエドガンを軸にした感想を、色々と述べてみたいと思います。

異世界ダンジョンの向こうにタトゥーインの双子の夕陽を見た

 ハッキリ言って、2020年代の世相は暗いです。
 不景気にコロナに憎悪扇動の横行、そして戦争。右を向いても左を向いても実社会を見ても陰鬱ですし、Twitterなんてさらにそう。
 こんな世間の空気って、かつてベトナム戦争の傷を抱え込んだまま苦しみ、生きる指針すら社会から見失われかけたの70年代のアメリカ社会もそうだったんじゃないでしょうか。
 そんな70年代に生まれた作品が、あのスターウォーズEP4でした。

 誰も見た事がない、しかし誰もがもう一度見たいと思っていた光景と物語、そして高揚感がスターウォーズにはあった、それゆえにスターウォーズに熱狂した、とはリアルタイム世代の証言として語られるところです。
 そして、「アウトローたちの誇り」を見た時の高揚感を振り返ると、それはスターウォーズEP4リアルタイム世代が感じたものに近いんじゃないだろうか。そんなことを感じます。そして、原作ゲームの誕生は、スターウォーズ公開とほぼ同時期、1974年でした。

 剣と魔法の異世界ダンジョンを擁するフェイルーン大陸の光景と、フォースとブラスターやセーバーの銀河の片隅タトゥーインの双子の夕陽が沈む砂漠は、実は極めて近しいものなのかもしれません。

道を外れたヒーローが出会った現在、未来、過去、そして今

 主人公エドガンは世のため人のため圧政者や邪悪と戦う秘密結社“竪琴手”ハーパーズの一員でした。おそらく、現役時代のエドガンは才知と気高さにあふれていたでしょうし、彼の手によって救われた民も大勢いたはずです。
 しかし、彼は掟を捨て盗人稼業に転じている、というのは最初のトレーラー公開の段階で察しがついていました。
 しかし彼が道を外れたのは、決して我欲のためではなかったのです。
 悪を倒して家路につき、最愛の妻子と共に囲む食卓に出るのは具のないスープ。
「どんなに正義の味方を気取っていても、家族にこんなものしか食わせられない男が俺だ」と自分を責めるのに充分な光景です。
 でも、奥さんはそんな夫を全く責める気がないのに、それに気づかず彼は掟を曲げてしまった。彼が望んだのは栄耀栄華でも贅沢三昧でもなく、妻子の為に具の入ったスープを当たり前に食卓に並べられる暮らし、ただそれだけだった。しかし、その行いが悲劇を呼び込み、最愛の人を失った彼は組織に背を向け盗人になる。
 トレーラーを見た時は、ここまで重く、そして普遍的な背景だったとは思わなかったです。
 ここから始まる彼の盗人稼業は、言ってしまえば「自分の人生への八つ当たり」だったように思います。
 大きな痛みを感じたとき、自分以外の何かのせいにしたくなるのが人情です。エドガンにとってそれはパーパーの掟であり、それに従っていた過去だったのでしょう。
 それでもなお、その第一の目的は遺された娘キーラを養い、共に生きるため。どこまで行っても「誰かのため」が行動原理のエドガンに、自然と好感と共感が湧いてきました。
 そんなエドガンのもとに現れたのが、3人の人物。
 属していたコミュニティである部族を掟破りの恋ゆえに追われ、今度は部族への未練から酒におぼれて恋を失ったホルガは、エドガンの現在と共通する存在です。だからなのか、ホルガもまたキーラを我が子のように愛します。彼女にとっては、「自分のせいで失われた、得られるはずだった幸せ」の象徴がキーラだったのかな、とも思います。
 彼女とエドガンがすぐに兄妹のようになり、同時に恋愛感情を全く抱かないままキーラを挟んで両親になる空気感は本当に気持ち良かったです。他ジャンルからの引用になりますが、中国ドラマ「家族の名において」の凌和平と李海潮のふたりのパパを連想しました。まあ、ホルガの場合は「食費ごまかしやがったらお前の肉を食材にするぞデカ唇」ショートソード相当の包丁持って脅してそうですが。

 しかし、どんな理由があっても、盗人の道、嘘つきの道を行く限り堕落の可能性は避けられません。エドガンがこのままその道を歩んだ先の姿こそが、今回のヴィランコンビの片割れ詐欺師フォージ。
 エドガンのプランニングやパーティメンバーを動かしたように、フォージもまた都市国家ネヴァーウィンターを乗っ取る過程で策をめぐらし人を動かしていったことでしょう。エドガンがフォージと対決すること、そしてその勝利の代価を投げうったことは、自分がフォージのようになる運命を完全に断ち切るために必要なことでもあったのでしょう。
 このフォージを演じるヒュー・グラント。試写会のすぐ後にAXNで見始めたドラマ「英国スキャンダル」でのジェレミー・ソープを演じる姿が「これ映画で見たぞ」ってくらい重なりました。具体的には、胡散臭いくらい爽やかな笑顔孔雀の羽根みたいに両手をバッと広げる姿(てんぐはこれを「ヒュー・グラントの構え」と呼称します)とか。

 強いて違いを挙げるとするなら、法の裁きを逃れた代わりに自分の人生にエンドマークを打たれてしまったソープに対し、アウトローたちに敗れ正真正銘のヒーローに捕まり投獄された代わりにキャラクターとしてはまだまだ再起可能なフォージ、というところでしょうか。というか、てんぐだったら出したいもん、このヒュー・グラント似の詐欺師。脱獄くらい他にも手を尽くしてできるでしょうし。

 ホルガがエドガンの現在、フォージが未来とするなら、過去とリンクするのが、クソ真面目くんかと思いきや蓋を開けたら徳の高さと剣技とセクシーさで全観客を魅了した聖騎士ゼンク。おそらく「NPCとしてうちのセッションで出したい!」ランキングはフォージすらブッちぎり最上位に君臨しそうです。
 でもエドガンだけは頑なにゼンクを毛嫌いしてます。人々のために見返りを求めず奉仕と献身を絶やさず、ハーパーの拠点となる漁村に暮らすという姿は、どう見ても自分の現役時代を極端な形で投影したもの。それはエドガンにとっては心中穏やかにはなれっこないです。
 でも、そんなゼンクとの出会い、そして自分すら信じられなくなった自分自身の言葉を信じると請け合う姿は、間違いなくエドガンの荒みかけた心を昔の側に引き戻したことでしょう。

 これらの出会いを経たことで、エドガンは自分自身と向き合う勇気を得た。その証拠がキーラへの謝罪の言葉(これは実際に映画を見て聞いてほしい。一番ってくらい好きなセリフでした!)であり、これを言えたことでエドガンは正しく自分の過去全てを受け入れ、そしてクライマックスにあの決断を後悔なく下せたのだと考えます。

気持ち良く生きるということ、正しい生き方ということ

 ファンタジー世界であれ現代社会であれ、人間が生きる上で遭遇する出来事や決断や葛藤は共通するところは案外多いものです。
 その共通するところひとつひとつに対して向き合い、丁寧に描き、そして2時間少々の上映時間の中で、それらに決着をつけ起承転結を整える。
 そんな真面目な作風だから、数多くのコメディパートでは声を出して笑えましたし、アクションシーンではハラハラドキドキし、そして精神的なドラマに感情移入できました。
 そんなこの『アウトローたちの誇り』から感じた世界観をあえてまとめるならば、それは「気持ち良く生きるってこういうことさ!」ということでした。

 間違えても、失敗してもかまわない。
 失敗し続けるということは諦めるという本当の失敗には陥ってないということ。
 だから失敗し続けながら歩き続けようぜ。

 あのアウトローたちのそんなエールこそ、最高に胸を熱くさせるファンタジーです。

 この記事では上記の通りにエドガンを軸に感想をまとめました。
 でも、気弱な劣等生から腹をくくって真の勇気を獲得した、かの大魔道師ポップの輩とも言えるソーサラーのサイモン。
 数奇な出生と浮世離れした風情の森の乙女(なお作中最強の物理的パワー持ち)ドリック。
 D&D屈指のヴィランを後ろ盾にしながらクライマックスでは「恥かかせやがってブチ殺す!」という逆恨み全開で襲い掛かってきたらパーティ4人に袋叩きにされる(エドガンには打楽器もとい打撃ダメージ+音響ダメージを与える魔法のリュートでぶん殴られる)という愉快な展開を見せたソフィーナなどなどのキャラ。
「これLotRでもゲーム・オブ・スローンズでもなかったよね?」と言いたくなるロケーションの見事さ、アメリカの刑務所を思わせる極北の監獄と赦免委員会の描写やポータルみたいな魔法の杖西部劇のタンブルウィードみたいに転がる桶などの小ネタなどなど。
 気が付いた面白いポイントを語り出せば何文字使ってもキリがないのが映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』です。
 円盤が出たら即座に買う事は確定済みですし、それも強くお勧めします。
 でもなにより、これは劇場でより多くの人に見てほしいです。
 何度でも言いますが、意外に面白いですよ?

おまけ。あるいはこれ問霊だよね?

劇場で笑いが起こる確率No1のこの死体への聞き取り調査パート(なお、これはまだ序の口です)ですが、トレーラーで見た時から頭に浮かぶのが魔道祖師の法術のひとつ「問霊」術でした。

 なんというか、同じ死者への聞き取りでも世界観が違うとこうも展開変わるものですかねえ。
 まあ、魔道祖師の仙師たちも実はこの手のしくじりやってるのかもしれないけど


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