対義語のチカラ、類義語のチカラ。「現代レトリック事典」通読の旅 3週目
筆者は過去、クトゥルフ神話TRPG(ホラー系のアナログゲーム)にハマっていたことがある。自分が実際にプレイすることもあれば、誰かが遊んだシナリオが動画化されたものを貪るように見ていた時期もある。いわゆる名作シナリオを見ていると、身の回りにありふれている物品や事柄を巧みに利用し、プレーヤーを恐怖のどん底に突き落とすシーンがあったりする。こういうのに、ゾクゾクしたんだよなぁ……。
レトリックにも、身の周りにあふれているのに巧みなものがある。意識できれば、読み手をゾクゾクさせられるかもしれない。
今週紹介したいのは、
・対義語は分類できるらしい
・類語法、慣用表現がいっぱい!
の2点。
恐怖を感じさせる瞬間は無いだろうが、興味を感じさせる瞬間が訪れることを目的に、文章を綴ろうと思う。
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対義語は分類できるらしい
まず紹介したい技法は、「曲言法」だ。
例として、「良い」ということを伝えるときの「悪くない」や、値段が「高い」ことを伝えるときの「安くない」があがっている。
そもそもとして、対義語を否定して意味を強く伝える技法があると、意識したことがあるだろうか。言われてみれば身近にある表現ではあるが、意図的にこの表現を引き出せたかと言われると、筆者は自身がない。
他の例としては、「簡単ではない」があがっている。なんとなく、「悪くない」や「安くない」より、「難しい」感が出ている気がする。
事典では考察として、「対義語」にも色々あるということを示している。
①売る 買う
→視点の違い
この場合は、反対語を作っても同じ意味にならない。(売らない≠買う)
②出発する 到着する
→移動の様態
この場合も、反対語を作っても同じ意味にならない。(出発しない≠到着する)
③生きている 死んでいる
→二者択一タイプ
これは反対語と対義語が一致する (生きていない=死んでいる)
④背が高い 背が低い
→段階性があるタイプ
反対語が他方の意味と一致しない(高くない は 低い と一致はしない)
事典ではこの他にも対義語の種類はあるだろうとしている。色や種族についての対義語は、定義が難しい。
ここで、「悪くない」「安くない」「簡単ではない」を考えてみたい。
この3つは、全て④の段階性があるタイプになると考える。
悪い ふつう 良い
安い ふつう 高い
簡単 ふつう 難しい
ただ、この中で「簡単ではない」はほかの2つと比べ対義語(難しい)に近い意味を感じる気がした。これは、簡単・難しいは③の二者択一チックだからなのではないかと思う。テストの感想を聞いた時に、「簡単だった」や「難しかった」は素直に受け入れられるが、「ふつうだった」はなんかひねくれている感じがする。これは、筆者だけだろうか。
このことからも、曲言法として最も機能する対義語パターンは、③の二者択一タイプではないかと考える。どんな対義語ペアが二者択一タイプか、探してみると面白いかもしれない。
メモ キャッチコピー制作にいかすには
コピーを書きたいものについて連想ゲームをした際に、物を表す動詞や形容詞を対義語にして否定する、というアプローチは持っていて損がないかと思った。その特徴が二者択一タイプの対義語をもつ場合は、それだけで言外の意味を感じさせる文字列が出来る。2週目でも対義語について触れる場所があったので、様々な技法のなかで「対義語」「反対語」「ない」はよく用いられるのだと思う。逆にするとどうだろうはまず発想できるようになりたい。
類語法、慣用表現がいっぱい!
曲言法に次いで、曲言法より見覚えがあるのが「類語法」だ。
これは実例を出したほうが納得いっていただけると思う。
やめられない、とまらない! カルビーのかっぱえびせん。
事典内の解説を引用する。
耳馴染みすぎて考えたことがなかったが、「やめられない」と「とまらない」は類語ではあるが同義ではないのである。
並べる類語の数についてもそれぞれについて解説がある。2つだったり、3つだったり、それ以上だったり。数を並べる技法は、他にも似たものがいくつかあるようなので、事典内で出てくるのが楽しみである。
さて、この類語法が火を吹いているフィールド、それが慣表現である。
事典内で登場するものだけで、5つ。
・夢か幻か
・嘘偽りのない
・踏んだり蹴ったり
・なだめたりすかしたり
・至れり尽くせり
これら、よく見たことがあるような表現ではないだろうか。分類できるって、面白い。似たようなものとして、筆者は「願ったり叶ったり」が頭に浮かんだ。他に思いつくものはあるだろうか。みなさんも考えてみてほしい。
メモ キャッチコピー制作にいかすには
慣用表現のもじりや転用は、けっこうお目にかかる頻度が多いと思う。知識として引き出しにためておかないとすぐには出てこないので、収納する際のラベルとして「類語法チック」は有用かもしれない。また、構図は簡単なので、オリジナル類語法は作成しやすそう。事典内には似たオノマトペを並べる例も提示されている。イメージを広げてもらうために有効的に活用したい。
後記
今週読んだのは、この6つ。
・緩叙法
・曲言法
・類語法
・掛詞
・造語法
・ルビ法
今回は取り上げなかった中に、「造語法」がある。新語・流行語大賞で取り上げられるような、新しい言葉を作る、という技法だ。効果的に使えたら、さぞ良い思いができるだろう。その分難しいのは、皆様もご承知のところと思う。
造語法の解説のなかで、ほかのレトリックと連携して新しい語を作るという例が示されている。レトリック事典を読み進めていき、身につけたレトリックを活用して有効な新語を作ること、これが最終目標になり得るな、と感じた筆者であった。
来週は、
二詞一意・押韻法・類音法・音象徴・オノマトペ・強意法
の6つを読む予定。
来週も、よろしくお願いします。