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第64回講談社児童文学新人賞佳作受賞作のご紹介

昨年の講談社児童文学新人賞で佳作を受賞した2作品、福木はるさんの『ピーチとチョコレート』と五十嵐美怜さんの『15歳の昆虫図鑑』が11月14日に同時発売されました!
佳作だからとあなどるなかれ。どちらも大幅な改稿を経て、歴代の大賞作品とくらべても遜色がないほどの作品になっています。

『ピーチとチョコレート』紹介ページ(講談社)

まずは福木はるさんの『ピーチとチョコレート』をご紹介。
物語の主役は、太めの体型がコンプレックスの中学2年生・萌々(もも)。萌々は体型のせいでいじめられたり蔑まれたりすることがないよう、空気を読んで道化役を演じることで教室でのポジションを確保して、自分を守ってきました。
そんな萌々がひょんなことからヒップホップ・ラップ教室の講師と出会い、教室に誘われます。
ヒップホップってなんだかワルそうなイメージ。そんなふうに感じてためらっていた萌々でしたが、太った体型を気にせずあるがままの自分をさらけだして歌うヒップホップ歌手の動画に心を動かされ、ヒップホップの世界に飛びこみます。
通いはじめたヒップホップ教室には一匹狼のクラスメイト・莉愛の姿もあって、萌々はヒップホップに親しみながら、莉愛との交流を深めていくのですが、あるできごとがきっかけで莉愛との友情に亀裂がはいり…。

先日いただいた『ピーチとチョコレート』の見本を読んで、心の底からびっくりしました。
物語のおおまかな筋や登場人物の設定は変わっていなかったのですが、新エピソードの追加とテーマの扱いかたの絶妙なアレンジによって、応募原稿とはまるで別物のようにとびきり魅力的な作品に変わっていたからです。
応募原稿がこれだったら確実に大賞に推していました。正直なところ、選考会のときには、この作品を出版レベルにまで修正するのは相当大変なのではないか、とか失礼なことを考えていたので、まさかここまでおもしろくできるなんて、と福木さんの改稿スキルに脱帽しました。

非常にさわやかな読み味の物語で、ヒップホップにのめりこんでいく萌々の様子は、読んでいるこっちまでわくわくします。
親友とのすれちがいや裏切りに悩み、傷つきながらも変わっていく萌々。その姿には胸が震えます。
そして萌々のラップが炸裂するクライマックスは圧巻です。ぜひ実際に作品を読んで、その圧巻のパフォーマンスを体感してください。

『15歳の昆虫図鑑』紹介ページ(講談社)

もうひとつの佳作受賞作・五十嵐美怜さんの『15歳の昆虫図鑑』は、5人の中学3年生を主役にしたオムニバス形式の連作短編集です。
各章で主役を務めるのは、友達に気を遣いすぎてがんじがらめになっている真優、同性の友達にときめいてしまうことに戸惑う健都、退屈な田舎と決められた将来にうんざりしている航平、SNSで出会った相手と寂しさをまぎらわす咲、他人の気持ちがわからない虫好きの吉岡。そんな5人の成長や気づきを、昆虫をモチーフに描いた物語です。私の『給食アンサンブル』シリーズと同系統の作品ですね。

作者の五十嵐さんは児童文庫ですでに多くの作品を書かれているので、文章も構成も堅実です。
物語の内容もまさに正統派のYAといった趣で、出版にあたっては全編に細やかな修正が施され、その誠実で丁寧な物語のつくりに、さらに磨きがかけられたように感じました。
物語のモチーフとなっている昆虫の使いかたも、応募原稿のときより巧みになり、特に「コセアカアメンボ」の章は、昆虫のエピソードを知ったあとの真優の変化が魅力的でした。
悩める主人公たちの描きかたも繊細でリアリティがあり、彼らに共感する10代の読者もきっと多いのではないかと思います。

それからこの『15歳の昆虫図鑑』、各章の文量的にも内容的にも、そのうち試験で頻繁に出題されるようになりそうな予感がしています。再来年あたり、中学入試の出題校数ランキングで上位にランクインしていたりするのではないでしょうか。

8月に出版した大賞受賞作、まひるさんの『王様のキャリー』といっしょに、この『ピーチとチョコレート』と『15歳の昆虫図鑑』も多くの方々に手に取ってもらえることを願っています。そして受賞者の3人のこれからの活躍を心から応援しています。

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