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段図抄の記録/1~21
なにこれ
「昇るように書け、書くように昇れ」
街にあふれる階段を示した図=段図をえさに、寄ってきた言葉を一網打尽にする都市型キャプション文芸。ラジオポトフのTwitter、Instagramに #段図抄 で放流しています。
2022年7月18日~7月24日
1.学習塾
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階段のさらに先、どこまでも上を目指す矢印。ふだんから「こんなに成績アップ!」的なグラフで鍛えあげられた純白の上昇志向。ドアはいつも開け放たれている。
2.集合診療施設
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病院なのかなんなのか。知らない施設ですれちがう知らないふたりが無限の可能性でわくわくさせてくれる一方、わざわざ「階段」を宣言し、それ以外の可能性を封じる強権性も。
3.香辛料
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階段の勾配と矢印の角度が微妙にずれていて、どうりでこの世はぴたりと合うことばかりではない。2階へ急げ。みんなもうスパイスとハーブで頭までしびれている。
4.中央線
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この世は3種類の人間がいる。これから中央線に乗る者と、すでに中央線を降りた者と、まさにいま中央線に乗っている者。最後の者はまさにいま中央線内に乗っているからこの段図にはいない。
5.ふんぞり
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この段図から想像する「胸を反らしてふんぞり返って階段を昇る者」がこの有限会社の社長だという証拠はどこにもない。それを悟った桜の季節。GWは帰省します。
6.ゼロ段目の隅
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これから階段か~。憂鬱でうつむいたその視界に段図。非常口の待つ未来。進みたくないが進まなければならない。昇れないかもしれないが昇らなくてはならない。白いキャンバスの隅にジャストフィットする緑の矢印の先端。
7.くるり希望
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つまずいた先になにもなくてよかったが、じきに段の角が腹を直撃する。もっと早くから段差に注意していればよかったが、まだ諦めてはいない。願わくば、前転宙返りをくるりと。
8.カートゥーン
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崖ではなく階段ではあるが、あこがれのトムとジェリーのようにすこしだけ空中を歩けたのできょうは気分がいい。あしたはチーズの形になろう。
9.連絡通路
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階段を昇る自分の足の裏が鳴らす「ぴた」という音は地下の連絡通路に反響して消えた。
10.直角三角形
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この世はでかい直角三角形。そう言い残し白ヘビはこの世でいちばんの鋭角に旅立った。カクカクした軌跡を参考に人間は階段を発明した。
11.手書き
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階段をきれいに書きたいのは、階段がきれいに書かれたがっているように見えるから。手作りのぬくもりを否定する人が手作りしたものだけを信じてきょうも手を動かす。
12.Nのために
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新潟ニューヨーク野方。もうない。Nで始まる地名が3つしかない世界の階段。昇る人は新潟生まれで降りる人は野方生まれ。ふたりでニューヨークに行くお金を貯めている。
13.下井草
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だって下井草の2階は上井草でしょ? 歯医者の娘は大人のように笑った。ぼくたちがキスをした階段では下井草の法律も上井草の法律も適用されない。
14.表彰台
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つねにいまの自分が1等賞。あの日あたしが突き上げたこぶしは小田急バス職員の労働組合のシンボルマークになった。戦いはこれからだ。がんばれ最新で最強のあたし。
15.現在地
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「え? いま? 階段の中にいるよ。そう階段。塗り込められてんの。黒猫と。怖いよね。うん。行けたら行くわ」
16.落下
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空中に投げ出されながら、あたし階段の数を数えてた。3段か4段かそのくらい。また昇らなきゃって思ってた。落ちたらあとは昇るでしょう? あたしそういうところあるでしょう?
17.白科目眼
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目白だから白い文字なのかよ。知らねえ、と相手はしらを切る。しらじらしい。座がしらける。なめるな。おれの目の黒いうちはぜったい目黒に下車させない。
18.キケン
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180度回転する謎。落ちるとき矢印が2本になる謎。黄色いかばんは魔法のかばんで、次はなんだって起こりうる。世界はいつも危険でいっぱい。
19.パラレルワールド
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おれたちが降りるときあいつらも降りる。おれたちが昇るときあいつらも昇る。おれたちが答えのない間違い探しをしているとき、あいつらもきっと答えのない間違い探しをしている。
20.大いなる力
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人間は力に流される。その方向が自分の進みたい方向と同じならいいが、同じだと思うのはその力が圧倒的だからだ。空白に見えない大きな矢印を書く。
21.扉のむこう
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どうせ昇る階段だろ。開けなくてもわかるよ。開けないと昇れないから開けるよ。降りる階段だったら閉めるよ。だってもう降りたくないよ。でも開けるしかないから開けるよ。ここにはいたくないよ。
所感
思いついたような思いついてないようなあいまいな野心で書いたらわりとおもしろかったです。2500個くらい集まったら楽しそうですね。続ける気持ち無し(今田)