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⑤所持金、53セント

スワードでの一人暮らし(キャンプ)にも
慣れてきた頃、
私はとある人物を知ることになる。


彼の名前は和田重次郎


そう、彼はスワードでヒーローなのだ。


アラスカの旅のエッセイはこちらから👇


私が彼を知るキッカケになったのは、
キャンプ場近くの図書館に
通うようになったからだ。
その図書館には、
小さなミュージアムが併設されていた。


もう既に行きたかったトレイルは
全て済ませていたので、
残りの日はゆっくり過ごそうと決めていた。


撮り貯めた映像の編集や
ポータブルチャージャーの充電をしたかった私は、
その図書館で過ごす時間が多くなった。


ここではそれらができるし、
テントの中とは違って解放感もあるし、
綺麗だし、
何と言っても無料だし、
暖房もついていて
長居するには最高の環境だった。



ひとしきり映像の編集が済んだ私は、
興味本位でミュージアムに足を運んでみた。
ミュージアムと言っても、
図書館の一角にひっそりと存在する
といった感じだ。


中に入ってみると、
程よい照明の中に様々な展示物が置かれていた。
アンティークな家具や洋服、
動物のはく製や古い生活用品など展示されており、
私の乙女心をくすぐった。
素敵だなぁ。と、
それぞれをじっくり見ていると、
その展示スペースの一部に目が留まった。




小さなガラス張りの展示ケースの中に、
日本人らしき男性の古い写真が飾られている。


ジュウジロウ ワダ…?



何で日本人が?と不思議に思った。
写真の横に書かれた文章を少し読んでみると、
彼はどうやらスワードに住んでいたらしい。



ここでは彼について詳しくは説明しないが、
ミュージアムで書かれていた
彼のバイオグラフィーを元に、
彼がどのような人物だったのか
少し触れてみたい。



和田重次郎

1875年に四国で生まれる。
幼少期はとても貧しく、
父親を4歳で亡くしている。
アメリカへ行くという野望があった和田氏は、
16歳でサンフランシスコに渡る。
アメリカへ来たものの、
誘拐され捕鯨船で3年間の強制労働を課される。
北極圏での漁が多かったため、
現地のイヌイットから言語や狩猟、
スノーシュー、犬ぞり等を学ぶ。
3年の労働が終了すると、
彼は北極へ戻りイヌイットと暮らし始める。
アラスカで金鉱発掘が盛んになり、
和田氏はアラスカに渡り、
そこから人生のほとんどをアラスカで過ごす。
スワードでアイディタロッド犬ぞりレースの
開拓に携わり、様々な偉業を遂げる。
62歳の時に心臓発作により、
サンディエゴのモーテルで亡くなる。


まさか自分が訪れた地で、
こんなにすごい日本人の冒険家に出会うとは
思ってもいなかった。
野心を持って単独アメリカへ渡り、
生きていくスキルを身につけ、
現地民と生き、
歴史に残る偉業を成し遂げたのだ。
スワードへキャンプをしに来ただけの
誰かさんとは大違いだ。



私はその後、彼のことを調べてみた。
どれも目を見張ることばかりだったのだが、
その中で印象に残ったのは、
彼のサクセスストーリーではなく、
次の一文である。


”亡くなった時の所持金はわずか53セントだった”


強い衝撃を受けた。
なかなか上手く眠れない。
それくらい考えさせられた。


多くの人々が
今ある安定を継続したいと思っていることだろう。
本当はやりたいことがあっても、
仕事だったり
家庭だったり
年齢だったり
色々な事情があって
上手く行動に移せないことが多いのが現実だ。


こんな私も将来を考えて怖くなったことが
幾度となくある。
ニートで
社会不適合者で
アル中 + 中年独身女。
"将来の夢は冒険家です"
誰がどう聞いても、
不安にしかならない要素ばかりだ。



時代は違えどそんな中、
リスクを背負って晩年まで
自分らしく生き抜こうとした和田氏に、
私は強く心を打たれた。


冒険家になりたい。


私は今でもそう思っている。






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