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家族間の紛争

私の両親と旦那さんの狸は仲が良い。



とはいえ、両親は英語が話せないし、
狸もほとんど日本語が話せない。
いつも私が間に入って通訳をしている。


しかもまだ対面はしたことがなく、
ビデオ通話で話しているだけだ。
だが、まるで本当の息子かのように、
彼らは良好な家族関係を築いていっている。


初めて狸を私の両親に紹介した時、
私はニューヨーク、狸はサンディエゴ、
両親は日本のとある小さな村と、
それぞれ全く違う地域に住んでいた。
私はみんなで話せるようにと、
LINEのグループチャットを作ったのだ。


初めてグループチャットで通話した時から、
狸は私の両親のハートをわしづかみにした。
私は単なる通訳に徹していた。
AIのロボットとはこのような感じなのだろうか?



狸と私の母親は、この現代社会のツールを使って
ハイキングの写真を見せ合ったりしている。
もはや私よりもこのグループチャットを
活用しているのではなかろうか。


狸はグーグル翻訳を使って彼らの会話を理解し、
また自分の意見を述べるために
上手に平仮名でタイピングをしている。
狸もこうやってコミュニケーションを取るのが楽しいらしい。


両親が高齢というのもあり、
最近は1・2週間に1度の頻度で
母親にビデオ通話するようにしている。



そのビデオ通話中に私が少しでも
狸に対して強い口調で言う場面があると、
必ずといっていいほど両親は狸側につく。
「兎はこわいねぇ」とか言いながら、
狸を慰めるのである。
狸は”こわい”というボキャブラリーは習得している。


狸はシュンとした仕草で、
「コワイ デス」
と答えるのだ。
こうして両親から更なる同情を得ようとする。


私はそれを白い目でいつも見ている。
はいはいはい、始まりましたか。



確かに私はたまに口調が強い時がある。
それは認めざるを得ない。
だが両親にせよ狸にせよ、
兎は気も口調も強いと分かっているはずだ。


私にはこの3人が私をネタにして
結束したいだけのようにしか見えない。
社会不適合者(兎) VS 社会適合者(私の両親&狸)の紛争が始まったのだ。


両親は社会適合者である狸を褒め称え、
信頼を見事に得た狸は、
彼らの懐の中に入り込んだ。
兎というテロリストに立ち向かうべく、
着々と準備を進めていたのだろう。



性格の悪い社会不適合者テロリスト(兎)は、
この状況でどう立ち向かうべきか
作戦を練らなければならない。
もう爆弾は落としまくっているため、
両親からの信頼を取り戻すのは難しそうだ。
それならば力づくで従わせるしかない。


私は語尾を強めてこう言い放った。


「良好な家族関係を築くには、
嫁が強い方がいいんだってば!!」


決まった。
私はニヤリとした。



よく言うじゃないか。
旦那は嫁の尻に敷かれた方がいいって。


だが私の言葉は両親に全く響かなかったらしい。
時代は変わったのだ。
今や男が強いとか女が強いとか、
そういう時代ではない。

私は愕然とした。
私が何を言ったところで、
説得力が無いところまできていたのだ。
これは誤算である。
私は破茶滅茶にやってきた自分の過去を恨んだ。



私は白旗を上げざるを得なかった。
狸軍の大勝利である。


このように狸のような高スペックで愛想が良く、
どんな人物や物事に対しても
順応に対応できる人物は、
人気者となり世の中に必要とされている。


はたまた兎のような
社会不適合者のちゃらんぽらん野郎は、
理解してもらえる仲間を得るのが難しく、
社会のはみ出し者となっていく。



家族という小さなコミュニティーですら、
この現実を痛感させられる。


家族の中でもはみ出し者となった私だが、
唯一1匹だけ理解者がいる。


それは猫の梅だ。

猫とは10年以上、苦楽を共にしてきた。
どんな時も私の側にいてくれた猫。
私を支え続けた猫。


私は猫を見つめた。
すると猫は私の目線に気づき近づいてきた。
私にはこの子しかいない。



そうやって笑顔で猫が来るのを待っていると、
狸がソファーから立ち上がった。


狸がキッチンへ向かうと、
猫はスッと方向転換して
狸の後ろついて歩いていく。


狸が
「まだご飯の時間じゃないよ」
と、優しく猫に話しかけている。


あぁ、そうか。
お前は餌に釣られたんだな…


兎の味方はここにはいないようだ。





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