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誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」ドナルド・A. ノーマン

学生の頃、ユーザインタフェースの勉強をしていた。今ならUIやUXと呼ばれるもの。NTTドコモの「i-mode」が一気に広まっていた。主流のガラケーやフィーチャーフォンと呼ばれる、折り畳み型でナンバーキーがついている携帯電話からWebなどのネット利用ができる(「i-mode」の説明をしないといけない時代になっていると思って書いてみる)。自分で「i-mode」向けWebシステムを作って、操作のしやすさや、わかりやすさを分析する、改善する。そういう研究テーマで卒論を書いた。

私が所属した研究室は、先生が新しい学科を新設する担当をされており、研究室に顔を出す機会が減っていので、作ったシステムは「研究室在席確認システム」とした。自分で操作する必要があるものの、携帯電話でポチポチと操作すれば、今誰が研究室にいるのかが一覧表示される。ちょっとした画像も用意をして、閑散状態をグラフィック表示するなんて機能も追加していた。Web2.0が登場する前の話だ。世間はT-Cupという掲示板サービスやジオシティーズといった無料「ホームページ」開設サービスが人気だった。よく使われていたperlという言語を付け焼刃程度に勉強して、システムを組んだ。このシステム、改良を加え続けていたこともあって、実際に活用した者は、誰もいなかった。

本来、グラフィックの研究室だったので、先行となる先輩の研究はない。自分でやりたかった研究を、先生が認めてくれた。
「やりたいんでしょ? じゃ、しょうじゃないじゃん。わかりました。」
と言ってくれた。今でも忘れられない言葉だ。言った以上、やるしかない。取り組むテーマは、その研究室としてはゼロから始めるものとなった。

いろいろ情報を仕入れて出会ったのが「人間中心設計」だった。人間中心設計という言葉は、日本語で読むイメージが分かりにくい。でも英語で聴けばわかりやすい。「Human Centered Design。」ヒューマンセンタードデザイン。ヒト主体のデザインとでも言えばいいかもしれない。「利用者が主体のデザイン」をする方法論、やり方、考え方。PCDAという言葉を知っている人なら、そういうタイプのものだと思ってもらえればいい。利用者が使うものは、利用者の目的に合わせる。使ってもらって、悪いところは改善する。そういうやり方そのものを指す。そもそもエンジニアリング領域として取り組むから、感性工学や美的センスといったことまでは扱わず、ユーザの目的を達成する道具としてのシステム設計と、その最適化がテーマだ。まだブラウン管の時代だったし、参考となる文献もクルマの操作や銀行のATMといった機械の使いやすさが多かった。

設計・デザインというと、アートにも近い気もするかもしれない。前述のとおり、基本的に別モノだった。なんとなくデザインするのは止めよう、道具は使ってもらって価値がある、使ってもらうためのデザインを考えましょう、やってみて試そう、改善しよう、ということだった。

研究テーマには「ユーザビリティ」という言葉も使った。だけれど、「ユーザビリティ」の定義は、いい加減なもの。なんとなく「使いやすさ」。使いやすさって、個別に状況で違ったりする。誰にとっての使いやすさか? 何をするための使いやすさか? そんなのは色々だ。

人間中心設計や、ユーザビリティを知りたくなったとき、「使いやすさって何だろう?」ということを、考えるに最適な本がドナルド・A・ノーマン先生の「誰のためのデザイン?」だ。

その筋では大変有名な伝説の書で、まったく堅い本ではく、新しいモノの見方、考え方を知りたいと思って読むと、得るものは大きい。ものごとを多角的に見たいタイプの人に強く薦められる。

ユーザインタフェースと聞くと、パソコンをマウスで、iPhoneなんかだとタッチパネルで、みたいな話だと想像するんだと思う。だけど、使いやすさの研究はもっと前から存在していた。

もともとの研究対象は機械(マシーン)なんです。新しい機械(道具)って、使い方がわからない、伝わらない。ツイッターとかフェイスブックとか、人に説明するの難しいのと同じ。そういうこと。調べていると出てくるのは、電話機。FAX。まだあるのが不思議と言われる代表選手のFAXも、やっぱり使い方がわかりにくいものだった。

そんなわけで、ノーマンの「誰のためのデザイン?」は、FAXとか自動車とか、道具の使いやすさについて触れている本だと思ってほしい。GUI(グラフィカルユーザインタフェース)の話は始まらない。その前提となる、人と機械の関係についての論考を巡らせる。おすすめの本です。

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