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短編・ショートショート

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小説を載せていきます。
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ワナビがワナビに捧ぐある闘いについて

ワナビがワナビに捧ぐある闘いについて

編「読んだよ、まあ、久しぶりにしちゃ書けてるほうなんじゃないかな」

僕「ありがとうございます、じゃあこれで新人賞m」

編「甘ったれるなぁ!!!!お前、本当に勉強してんのか?なんだこのラストは!『ヒロインが結ばれた幸せで飛び降り自殺する』!?聞いたことねぇよ!そんなラブコメ!!馬鹿か?お前馬鹿なのか!?」

僕「ラブコメだって言ったって、オリジナリティを出さなきゃ!だからこそなんですよ!敢えて!

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不眠症の街

不眠症の街

「なあ、愛ってなんだと思う?」

 後ろのコンビニで買ったペヤングが出来上がるのを待っているとき、おもむろに達也が言った。

「随分難しいことを訊くね、それはお前のほうが明るいんじゃないか?結婚してるわけだし」俺はそう言ってからアルコールが回った頭で考える。「そうだなぁ、あー、そりゃ、まあ、あれだ――」

「――人がそれを『ある』と信じたいもの、あるいは『信じている姿そのもの』なんじゃないのか?」

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嵐の前

嵐の前

「さあ、じきに来るぞ」

 翼を無くしたペガサスがぼくに言った。ぼくは窓を開けて乾いた静寂に包まれた空を見上げた。そこには何もなくて、それだけが全てだった。

 頭蓋骨に響く「あらゆる憎しみをエネルギーに!」という声が、何らかの予感とともに心を通り過ぎていく。煙草を吸っても苦いだけだったけど、それでも吸っていないよりはマシだった。

 窓を閉めてそこにもたれかかった。ペガサスはあくまで己のプライド

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性なる酒場の挽歌

性なる酒場の挽歌

「終電無くなったな」

「んあ、そして酒もない」

「酒は頼めば出てくるだろ」

「キャバクラ行くか?」

「行かねえよ」

「斎藤がアフターでクラミジアもらってきた話、まだ信じてんのか?」

「ちげーよ、カノジョいるだろが」

「あー、あのキス魔の」

「言うな」

「いつだったか、間違えてキュウリとキスして、『ねえ、よだれ白いよ、病院行きな』ってカマした女だろ」

「あのときは俺が病院に行きた

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量子都市

量子都市

   よし、これで――。

   安藤先生、なにをされるおつもりですか。

安藤 飯島君、私はもう疲れたんだ……。そして人間も疲れている。私と同じように――だから、あとは「この都市」にすべてを任せようと思うんだ。

飯島 「この都市」? この量子コンピュータたちですか?

安藤 そうだ。私もこの都市と一緒になる。そして、世界中の人間も。すべては一となり、一がすべてになる。そうすれば……争いも、競争

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死ぬほどいい女

死ぬほどいい女

 川上レイは非常なナルシストだ。いや、そう断じるのは彼女にとって失礼だろう。なぜなら、レイは事実、めちゃくちゃな美人なのだから。そして彼女はそれを自覚しているにすぎないのだから。

 様子も良ければ性格も明るく快活で、それでいて彼女と話せば人はすべからく怜悧な印象を受けるであろう。その性格ゆえ、五分も一緒すれば相手はぽっとほだされてしまうというわけだ。しかしレイは動かない。そこでさらに相手はレイに

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EMANON

 私に名前は無い。あったとしても必要ない。私はいつも誰かの代わり。別に私でなくてもいい。たとえるなら数学でいうx。

 たとえば会社。末端の私は、誰でもいい。でも、誰かが居なければいけない。会社という組織ならば、私以外の誰にでも当てはまる。

 友達。

 私にも友達はいる。

 でもたとえば遊びに誘われたときに私が断ったとしても、その友達は別の誰かを探す。私でなくてもいい。

 恋人。

 私に

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昨日と同じ今日、今日と同じ明日

昨日と同じ今日、今日と同じ明日

 日付が変わった。おれは家で夕飯を兼ねた晩酌をやりつづけていた。トリスクラシックのハイボールをひたすら飲んでいた。まるでそういう業務かのように。もやし炒めの盛られていた皿にはもう何もなかった。一時間前に寝る前の薬を飲んだが、眠気はやってこない。そもそも眠りたくなかった。

 レキソタン五ミリ一錠、リスペリドン三ミリ一錠、デエビゴ五ミリを二錠、ラツーダ二十ミリを二錠にサイレース二ミリを一錠。この五種

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HOPELESS

HOPELESS

 ちょっと待ってくれ、酒を用意するから。俺はね、酔わないと喋れないんだよ。ああ、これ? チューハイだよ。スーパーのプライベートブランドの。安くてすぐに酔える。俺のエナジードリンクだよ。ハハハ。ストロングゼロなんて高級品だよ。ストロングゼロが五百ミリリットルで二百十円だろう? そう、税込みで。そうそう。これは税込みで百三十円だからね。度数は九パーセント。まあ、中になにが入ってるかなんて知ったこっちゃ

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不思議な犯罪

不思議な犯罪

 1

 都内のあるビルの谷間で、歳は三十代半ばと見られる男の死体が発見された。争った形跡はなく、かといって自殺かと思えば、遺書も見つからなかった。死因は死体の状態からしてビルからの落下だと考えられた。しかし手がかりはなにもなく、原因もわからぬままで、ただただ不思議な死であった。

 不思議といえば、男の身元がわからないということもある。男はスーツを着て革の鞄を持ったまま落下したと考えられているが

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女は二人だけでも姦しい

女は二人だけでも姦しい

 吐き気とともに目が覚めた。起き上がり時計を見ると、いつもより十分早かった。それでももう、昼前だ。まあ、どうせ毎日日曜日だし、時間通り起きる必要はどこにもないのだが。

 口の中はウイスキーとゲロの臭いで充満している。頭痛もする。カーテンを開けると、わたしを馬鹿にするかのように青空が広がっていた。それから便所に行き、ゲロを吐いてから脱糞した。多少は気分がマシになった。

 冷蔵庫からミネラルウォー

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君が教えてくれるすべてのこと

君が教えてくれるすべてのこと

 静寂が叫んでいるようだ。一見矛盾しているようで、末端は繋がっているのかもしれない。

 朝起きたときにいつも思う。ああ、またやかましい光が世界を照らしている、と。そして夜になると、約束通りに死なないでなんとか眠れそうだ、とそう思っている。

 昼間が嫌いだ。様々な情報がノイズとなって脳を侵食する。だから外に出るときはサングラスをして耳にはイヤホンをつける。そして、なるべく静かに夜を待つ。ここでい

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僕が人間であるために

僕が人間であるために

 深淵と、目が合った。

 僕を僕たらしめるすべてのものが壊れていくなか、深淵が僕を抱擁した。そこには温もりは無く、安心感も無い。愛情なんてあるはずがない。あるのはただ、絶望。底の底にある絶望。しかし僕にはそれが必要だった。それしか無かった。

 そのとき、僕は笑っていた。

「どうですか?」

 診察は主治医のその一言から始まる。どうもこうも毎日やるべきこともなくただ死ぬのを待っているだけの人生

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ジョイントを巻く女

ジョイントを巻く女

 窓から外を眺めていると、道を歩く人たちが足早になるのに気がついた。鞄から折りたたみ傘を出して、忙しなく広げている人もいる。

「降ってきたみたいだな」

 俺は視線を戻して正面に座っているタツヤに言った。タツヤはストローで、ほとんど残っていないオレンジジュースをすすりながら窓の外を見た。それから「ああ……」と気のない相槌を俺によこした。

 そうしている間にも雨はどんどんと勢いを増し、やがてスコ

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