食べることから、見つけたこと。
「今まで生きてきた中で一番おいしかったもの」をそれぞれのキッチンで、料理して、どんなことが気になったか?学生ひとりひとりに聞いてみると、
「夕飯がすごく楽しみで、いつもおいしい!おいしい!って母に言ってたんですけど、私が作ったものを母がおいしい!と言ってくれて、すごく嬉しかった。初めて食べさせることの喜びを知ったんです。」とか、
「豚汁を作るのに、めちゃくちゃ時間がかかったんですけど。スーパーで里芋が3種類あって、どれが豚汁に向いてるのかわからないのが一番困った。」
「旬でないものを食べようとするから、値段が高くなるんじゃない?」
「私が混ぜたハンバーグの残りを母がいつも通りに味付けして夕飯に出したら、父が、いつもと違う!と言ったんです。料理ってまったく同じものは作れないんですね!」
「初めて料理をして、zoomで繋いでみんなと作ってる時、めっちゃたのしかった。けど、考えたらうちは家族がリビングでテレビを観ている間、母はいつも一人でごはんを作ってて、さみしいじゃん!って思った。」
「ケーキ作るのが好きで毎月、彼氏にホールでプレゼントしてるんですけど。何を作るか考えるところから始まって材料を買いに行って、作って、どうやって渡そうか?とか。料理って作っている時間だけじゃないんですよ。」
など、22人全員ちがう。
ここから、学生はそれぞれの気づきを何かしらの形にした。今回は発表する日に京都大学人文科学研究所准教授の藤原辰史さんと非常勤講師の沼野さんをzoomでお迎えし、講評していただいた。(なんて贅沢な!)
スィートポテトを作った坂野さんから発表。
「幼稚園のとき、お弁当のおかずで一番好きだったスィートポテトを作りました。サツマイモを裏ごしたり、作るのがとても大変だった。私はこれまでパクッと一口で食べていて、食べることと作る手間の割が合わないと思ったんです。調べたら、噛むことは虫歯予防になる、大脳に刺激を与えるなど、いろいろなメリットがあり、私は噛む回数について考えました。」
*坂野さんが作った動画です。
噛む回数が減るとあごが発達しなくなり、輪郭が変わっていく。小顔もいいけど、噛まなくなるの、どうなんだろう?と言う投げかけに、藤原さんからは、「噛むことと調理は繋がってると言うことを気づいたんだね。歯の動きは、包丁で刻む、石で叩くと同じ。料理は噛むことの延長なので、そう言う風に考えていくことはとても大切。」「病気の人は噛まなくなると、意気消沈してしまうので、噛むことの人類学を続けてください。」
このプロジェクトを始めたきっかけは、私の祖母が自分で噛んで食べられなくなった途端に亡くなってしまったことがきっかけだ。噛むことの人類学へ繋がったことは面白い。坂野さんが噛む回数に興味を持ち、よく噛まないお父さんをどう説得するか?いろいろ調べた結果、噛むことは人間がどうやって調理をして食べ物を口に入れてきたか?の歴史を知ることになって、この先どうなるの?と考えたのは面白かった。私は宮城県にある奥松島縄文村資料館を訪ねたとき、縄文人の人骨が展示されていて「当時の人はよく噛んで食べていたようで、歯がすり減って、平らになってるんです。」と説明を受けたことを思い出した。調理がままならないから硬いものを歯で噛み砕いただろうし、歯は繊維をちぎったり、ハサミ代わりにも使える自前の道具でもある。
さて、次の久保田さんは、今まで生きてきた中で一番おいしかったものとして、『初めて夜帯のアルバイトをした日に食べた、母が作った豚汁』」を選んだ。料理をしたことがない彼女がzoom画面越しで苦戦していたことを私も覚えている。
「豚汁を作るのに、めちゃくちゃ時間がかかってしまったんですが、一番困ったのはスーパーでどの食材を使っていいか?わからなかったことです。いくつか、解決策を考えてみました。」
(問題)食材の知識がゼロだと、どれを選んだらいいのかわからない。スーパーへ行くと、じゃがいもだけで6種類もあって、名前だけではその品種がどんな料理に適しているか?がわからない。
【解決策1】
スマホを使って簡単に調べられる事典のようなアプリを考えた。
↓
その場で知りたいのは、その品種が『なにに向いているのか』という情報。ただ、自分がスーパーに買い物へ行くと、他のお母さんたちは、サッと必要な食材を選んでいくのに、私はずっと売り場に立っていてじゃまだと思った。その場で考えられる時間は少ないとしたら、アプリは現実的でないかも。
【解決策2】
①精肉売り場は、肉の切り方や部位によって「カレー・シチュー用」と書いてある。じゃがいもも、品種名と値段の他におすすめの料理を書いてあったら、その場で“瞬間的”に理解できるはず。
②もっと良いのは、カリスマ主婦のような「先生」が売り場にいて、聞けば「それが作りたいなら、これ。」と答えてくれる。
藤原さんからは、「スーパーマーケットは大学のようなところです。AIよりカリスマ主婦にいて欲しいですね。これはもう、スーパーにこの企画を売り込みましょう。」とのアドバイス。沼野さんからは「おせっかいは、大事です。」
久保田さんは、初発の想いを忘れずに解決策を考えた。でも、それが自分のモヤモヤを解決できたか?と言うと、まだ他にもありそう、と言ったことがとても良かった。
これから、学生の気づきを少しずつ紹介していくので、楽しみにしてください。
*発表当日、学生のデータが集まったのが開始2分前。授業中にもデータを送ってくる人はいるし、wifiはつながらない。そんな中、笑顔で対応してくれた藤原さん、沼野さんには感謝しかありません。
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