エンデュランススポーツの補給戦略について
今シーズン、いや、今シーズンに始まったことではないが、補給ではいろいろな失敗をしてきた。というよりも、エンデュランススポーツにおける失敗は、そのほとんどが補給の失敗といってもよいのではないだろうか。
その他の失敗には、ウェアリング、シューズ等、用具に係る失敗や、体調管理、ピーキング等、自身の身体に関する失敗もあるが、用具については経験を積むにつ入れてこなれてくる、逆に言うと改善が比較的容易で明確、後者は失敗が致命的すぎるのと、(風邪などひくことは)一定程度アンコントローラブル、運によるところもある、というものになる。
その点、補給戦略はその間くらいに位置づけられるだろう。改善できそうな気もするが、その時の体調にも左右されるため、自身の体調の把握と、理論に基づく綿密な計画、そして当日の気候、疲労度合いを考慮した柔軟な予定変更(幅を持たせた計画)が必要となる。
一見、経験により克服できる課題にも見えるが、用具に関する課題よりも変数が多いため、克服は一段難しく、また、距離、運動強度によっても変わってくるので、レース特性に応じた戦略が必要となる。
~ハーフマラソン(1時間~1時間半くらいまで)
これは、比較的簡単だ。この距離、時間による失敗はほとんどが事前の食事に関するモノだろう。要するに、スタート時間に近い時間に食べ過ぎて胃もたれしたり、おなかが痛くなったりしたというものだ。
これに関する戦略は、簡単だ。レースの3時間前には食べ終わる(ほとんどが朝スタートなので、スタート時間の4時間前には起きて朝食、3時間前には食べ終わる)、そして、その後は水分を取ったり、ゼリー飲料を取ったり、スタート30分前にはカフェインと糖質を含んだエナジードリンク(翼が生えるやつとか)を飲んだりといったところで体内にエネルギーを蓄積していく。そして、おなかが空っぽの状態でスタートする。
この時間で終わるレースの運動強度は高い。最高心拍の85%以上で推移することが多いだろう。つまりそのほとんどを糖質代謝に頼ることになる。しかし、体内には1500kcal程度の糖質は蓄えられているので、1000kcal/hの消費であれば、ゴールまで突っ走れる計算になる。気持ちが後ろ向きになる、少しの痛みが出る、多少の空腹感が出る、等の時のために、カフェイン入りのジェルを1つか2つ持っておくと安心だ。これで十分。事前の作戦はあまり必要なく、必要であれば、レース終了予定時刻の30分前以降に補給を取ればよい。
フルマラソン(2時間~4時間)
この距離については、非常に難しく、これまで何度も失敗し、いまだに成功していない。いわゆる、30キロの壁、というやつの存在だ。キロ4ペースで2時間走ると30㎞、750kcal/hの消費で、体内の糖質が枯渇する計算になる。十分にこの運動量、運動強度は出る競技特性だ。この競技特性の面白さ(難しさ)は、糖質枯渇となる閾値の時間までは、あまり苦しくない、ということである。体内の糖質が枯渇するまでは、余裕しゃくしゃく、天まで走っていけるような気分だが、突然の不調に襲われ、そのまま動けなくなり、ひどい場合には糖質枯渇を原因とする、低体温症になる。
この距離の対策は難しい。糖質を取り続ける、脂質代謝を上げる、体内に蓄えられる糖質の量を増やす(1500kcal→2500kcalとなれば完走できる)、というのが回答になる。1000kcal足りないのであれば、途中でそれを取ればいいことになる。100kcalのジェルを10個、つまり、4kmに1つの計算になる。結構忙しい。手っ取り早いのはこれだが、マラソン、というところに焦点を絞れば、代謝の効率化を目指して地道なトレーニングをする、というのが王道だろう。これは単純に、一度の練習継続時間を伸ばすのが効果的だが、ライフイベント的に難しい人も多いと考えられる。それがこの競技の難しさ、面白さだ。
また、いくら代謝を高めたところで、それは糖質枯渇までの時間を伸ばすというだけなので、マラソンを走りきれたとしても、50km、60kmと距離を伸ばしていくと、いずれ枯渇する時期が訪れる。100kmマラソンの世界記録などは、(その人としては)運動強度を落として、100kmを走る間、糖質が枯渇しないようにしている、ということになるだろう。
ウルトラマラソン以上(10時間~40時間超)
この領域になると、運動強度は、確実に低強度だ。この領域で競技をする場合には、確実に苦しくない。むしろ、こんな強度でいいのか、と思うくらいに楽なはずだ。それが時間がたつにつれて、じわじわとボディーブローのように辛くなってくる。それは、関節であったり、筋肉であったり、はたまた眠気であったりと、その人のその時一番弱いところに出てくる。
この運動強度で重要なのは、とにかく食べることだ。エネルギー不足が一番よくない。エネルギーが不足すると、筋分解が進み、筋肉や関節の痛みが悪化する。だから消化器系が許すのであれば、とにかく食べることだ。前半の胃腸が元気なうちに、脂質やたんぱく質などの後半になって必要なもので、かつ消化に労力が必要なもの、後半になってきたらとにかく炭水化物で動き続けるエネルギーを補充する。食べた後に眠くなったり、胃が重くなったりして一時的にパフォーマンスが落ちることは気にしなくていい(トップ層は知らないが、アマチュア層では)。一時的にパフォーマンスが落ちた、と思っても、十分に体内にエネルギーが補充された状態であれば、そのエネルギーが使用され始めれば立ちどころに元気になり、そして筋疲労や損傷が最小限で済む。これは後半になればなるほど利いてくる。この領域の最適解は、「とにかく食べろ」だ。間違いない。
ジェルやゼリー飲料で補給することも間違いではないが、歯の知覚過敏が出るので、継続性と、痛みによって食べるのが億劫になってしまうので、結果としてエネルギー不足に陥ることもあるので、なるべく固形物などの普段食べているもの、食べてテンション上がるもの、おいしいと感じるもの、がお勧めだ。
以上、ざっくりではあるが、競技時間、運動強度別に補給戦略を整理してみた。やはり一番難しいのは中間領域、マラソンなどの完全な有酸素運動ではなく、一部解糖系の領域が含まれる運動だろう。自身の脂質代謝特性を把握したうえで、トレーニングと補給のバランスをとる必要がある。
超長距離については、補給し続けられるか(体調と精神力、面倒くさいという気持ちとの戦い)というところが問題になる。
自分自身がいろいろな距離のレースに出ているので、それぞれのレースでの課題を感じ、まとめてみた。
雑食系なので、その距離に特化した補給戦略を極められていないのが難点だが、こうして比較できるのはひとつ面白いと思う。