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ズブの素人がオーケストラを録音して、ミックス・マスタリングの沼に足を突っ込むまで

こんにちは。日曜ドラマー、つい昨日から音屋に入門したマナセです。

今回はタイトル通り、自らが企画した演奏イベントを収録して、ミックスして「これなら聴けるな」のレベルの音源を作ってみた記録となります。

まぁなんというか、ちょっとした音のDIYですね。こういうの好きです。

例によって「自分はこうやってみた」の記録でしかありませんので、本当はもっといい方法があったり、知らずにアンチパターンを踏んでいる可能性もあります。ご参考までにご笑覧ください。

私のスキルレベルとしては、「GarageBandにwav/mp3を読み込んで、カットやレベル調整などを行ったのち、音源ファイルを書き出すことはできる。」「コンプレッサという言葉は知っているが実態はよくわかっていない」「職業ITエンジニアなので、プラグインやDAWの操作に拒否感はない」くらいのノリです。


今回のお題

先日2024/08/10 に、主催したイベントが無事に終了しました。参加してくださった皆様、本当にありがとう!

こちらはなんちゃってオーケストラ編成(※)にてALI PROJECT の曲を演奏するオフ会、通称「蟻オフ」でして、今回は然るべき関係者から許諾を得た上で、「演奏してみた」的な動画をインターネットの海に放り込みたい所存です。

要は演奏を録音・録画していくわけですが、せっかくなら良い音で残したいですよね〜。

音をいじれる知人は何人も思い浮かぶものの、以前からチャレンジしてみたいと思っていた領域。せっかくならこれを良い機会と捉え、物は試し!ということで果敢に挑んでいきます。

※なんちゃってオーケストラ編成
弦楽器五部にサックスやユーフォニアム、曲によってはエレキベースも加えた不思議な編成です。これも一つチャレンジングな音楽作りでしたね。

でも楽しかった

立てていた録音計画

どれくらいリッチに録音するかはケースバイケースかと思いますが、今回は以下の制約条件がありました

  • 100平米の練習室である

  • 予算の都合でたくさんマイクを立てることはできない

  • PA環境は用意せず、オーケストラの生音をそのまま拾う(エレキベースの音をライン入力することもしない)

ということで、基本方針、指揮者の後ろに三脚を立て、センターマイク一本、男らしく(?)勝負する方針に決めていました。

使用したもの

ハードウェア

メインマイク:
TASCAM DR-40X を用いました。メルカリで安く手に入りました。コイツは本体のマイク以外にも、外付けマイクを接続すると4chまで録れる優れものです。今回は本体のマイクのみを利用。

サブマイク:
遠景の動画をiPhone14で収録するついでに、コイツをつけて「あわよくばこっちの音声もサブで使えないかな〜」と思って仕込んでおきました。今回はこの思惑がいい感じにハマり、いい音源が作れました。

ワークステーション:
MacbookPro(M3チップ)です。メモリは32GB積んでおり、OSはMacOS 14.5(sonoma)でした。特にストレスなく音源を編集できましたが、今回の作業にここまでのスペックは不要かもしれません。

ソフトウェア

DAW:
Presonus社のStudio One(6.6)をDemo版(30日トライアル)で利用しました。永続的に利用可能なPrime版でも今回と同じことは実現できるはずです。
私は以前からGarageBand使いだったのですが、後述のプラグインたちがGarageBand非対応だったため、導入することになりました。

プラグイン:
Studio Oneに付属するプラグインを駆使して編集を頑張るのも一つの手でしたが、今回は科学とお金の力を使ってショートカットを図ります。

音屋の友人に相談したところ、「お前がやりたいことはプラグイン買ったらいい感じにできる」とのことで、iZotopeの以下の製品を紹介してもらいました。

Netron 4(ミックスのツール)
https://www.izotope.com/en/products/neutron.html
Ozone 11(マスタリングのツール)
https://www.izotope.com/en/shop/ozone-11-advanced/

これらのソフトウェアはAIで波形を解析し、最適な設定を音源に施してくれるという機能があり、まさに今回の私のように「詳しくはないけど、とりあえずいい感じにミックス・マスタリングしたい」ユースケースにはぴったりに見えました。

その場でiZotopeは頻繁にセールをやっていると聞きましたが、大変幸運なことに、上記製品のセット商品がクロスグレード版で安く手に入ることがわかりました。

クロスグレード版のため、下位グレードに相当する何らかの有償ソフトウェアを所有していることが利用の条件でしたので、以下のサイトを参考に、下位グレード最安の「VEA(Voice Enhancement Assistant)」プラグインを購入し、合わせて上記製品を導入することにしました(今回、VEAは利用していません)。

VEAが4,899円、Neutron+Ozoneが28,800円ですので、合わせて33,699円の投資です。安くはありませんが、NeutronもOzoneも単体でこのエディションを手に入れようと思うと軽く十数万が飛ぶ計算ですので、このキャンペーンに乗れたのは幸運だったかと思います。

環境構築

さて、当日を無事に終え、あとは編集を頑張るのみ!ということで、ざっくり以下の流れで作業を進めました。

Studio One をインストール

基本的に公式サイトにある手順通りにインストールする通りです。Prime版を使おうとしましたが、自動的に(?)Demo版(30日トライアル)が適用された雰囲気です。

マスタリングの基礎を学ぶ

GarageBandに甘やかされて育った身なので、まずはStudio Oneの基本的な操作方法を学ぶことに。「Studio One マスタリング」などアホめなキーワードをGoogleに放り込み、引っかかったサイトや動画で学習していきます。最近はこういう解説動画がたくさん出ているので、学習コストは低いですね。

後々、AIを用いていい感じにしてくれるとはいえ、最低限何をしなければならないのか、マスタリングとはどういうものか、上記動画で学習し、なんとなく自分がやりたいことをイメージしておきます。

まずはプラグインを導入してStudio Oneと繋いでみる

さて、Studio Oneがなんとなくわかってきたところで(本当にわかったのか?)、今度はiZotopeのプラグインたちを迎えにいきます。

公式サイトからまずはVEAを購入します。

購入後、メールでシリアルナンバーが送られてくるので、すぐに利用を開始できます。

どうやって利用するねん?ってところですが、ポータルのアプリケーションをMacに導入し、このポータルにシリアルナンバーを入れてアクティベーションし、ローカルマシンにプラグインファイルが落ちてくる仕組みのようです。

ここまでで、一度Studio Oneで利用できるか確認してみることにしました。
要はStudio One側からプラグインファイルを参照できればよい、ということなので、インストール先の /Library/Application Support/iZotope を追加しておきました。

環境設定画面でパスを追加

あとはStudio Oneを再起動してやれば、プラグインを利用できるようになります。

本命の Neutron&Ozone を導入する

大体の流れはわかったので、本命のNeutronとOzoneを同じ流れで導入していきます。購入、シリアル入力、アクティベート・インストールです。パスは追加してあるので、Studio One を再起動するだけで利用可能になりました。

ついでに、使い方も簡単に学んでおきます。こちらは公式の動画。わかりやすくて良いです。

編集開始!

色々悩みましたが、前日に音屋の知人からとりあえずやればよさそうなこととして「ノイズ除去」「ノーマライズ」「イコライジング」「コンプレッシング」とキーワードだけは教わっていたので、その辺を片っぱしからググりつつ、活路を見出します。

今回、ノイズ除去は特に必要がないように思ったのでノータッチです。ノーマライズも波形を見つつフェーダーでゲインをいじった程度のなんちゃって対応です。イコライジング以降はプラグイン頼みになる想定です。

さて、スタート地点は、まずは収録した音声ファイル(wav)と動画ファイル(mp4)をStudio Oneに突っ込み、波形を見ながら力技で縦のラインを揃えるところからです。

以後、この2トラックをいじる方向で試行錯誤しました。Studio Oneは無邪気にmp4を突っ込んでも、そこからオーディオトラックを作ってそのまま音声編集できるのが便利ですね。

まずは回しっぱなしの音源にNeutronとOzoneを適用し、どんな様子になるのか探るところからです。

途中、正解がわからなくなって迷走しそうでしたが、自分が今回実現したいことはシンプルに「音源を良い感じににして聴きやすい・聴きごたえのある状態にする!」だったことを思い出し、正気を取り戻しました

見えてきた方針

色々試行錯誤した結果、以下の方針でやっていくのがよさそう、と結論づけ、作業を進めました

ソースのファイルはメイン・サブで2つ使う
前日音屋の知人に相談した際には「無理にサブマイク側の音源使わなくても良いかもよ。自分なら、そのサブマイク側の音源に役割を与えて、使えそうなら使うくらい」と聞いていました。

実際聴いてみると、メイン側には金管楽器や低音楽器の音が入っており、サブ側は位置の都合、高音の弦や打楽器の音が入っていました。これは狙ったものではありませんでしたが、大変にラッキーでした。

音の広がりを持たせるためにも、今回両方のファイルを使うこととし、まずは両者のファイルのフェーダーをいじってゲインを揃えるところからスタートしました。

曲ごとにプロジェクトファイルを分ける

大きなプロジェクトファイルを作り、部分部分に分けて編集・書き出しすることも考えましたが、後述のプラグイン設定を部分部分で別々に適用するのが面倒に感じたため、収録した曲ごとにプロジェクトファイルを分割することにしました。

この点はもっと良いやり方がある気がしています。

メインとサブをパンニングする

上記で紹介した動画の中で、音声ファイルをM/S分離してパンに振るというテクを応用し、アナライザーで波形を見つつ、ゲインをなんとなくフェーダーで揃えた上で、メインとサブをRとLにそれぞれ全振りしてみました。結果、オーケストラを客席で聴いているときのような、左から打楽器や高音弦の音が、右から低音やその他が聞こえるような音場を作ることができたような気がします。

フェーダーを調整しつつ、パンを振る

プラグインは「メイン」にまとめて適用する

私の理解のメンタルモデルが正しければ、プラグインの適用単位は「トラックに個別に適用するか、メインに置いてすべてのトラックに適用する」です。メインとサブの両者の音源それぞれにNeutron/Ozoneを適用して、細やかなミックス・マスタリングを進めることもできるとは思います。が、流石に素人の私には荷が重いです。シンプルに、曲ごとにメインとサブを一緒くたに扱い、そこにプラグインを適用することにしました。

Neutron神、Ozone神のお力に縋る

あとは基本、プラグインにお任せです。ただし、AIが自動でやってくれるとはいえ、全てをそのまま受け入れるとあまり好みの音にはなりませんでした。いくつかのポイントがあったので共有します。

ざっくり、最初にNeutronで味付け(音のイメージ)を決め、次にOzoneで聴きやすさを決める流れです。

Neutron:
アシスタントが自動的に「この音声ならこんな味付けはどう?」と提案してくれますが、マイク一本のオーケストラの音源だと、結局All-PurposeのOtherになります。まぁ、何かの音に特化したものではないのでそれはそう、って感じです。
大きく分けて「Punch(音の輪郭)」「Distort(歪み)」「Width(広がり)」で制御できますが、今回は1つの大きなオーケストラ演奏ファイルですので、Punchの設定は意味がないのでオフ、ギター音源のように歪ませたいニーズもないのでDistortもオフにします。

ちなみに、オケのTuttiを限界まで歪ませるとアホみたいな音になります。地獄のオーケストラかよ。

アホ

閑話休題。大事なのはWidthで、こいつを広げると音場がひろがってステレオ感が強調されます。今回はコンサートホールのような芳醇な音を求めていたので、限界ギリギリまでWidthを広げてみました。

最終的にはこんな感じですね。ジャンルはInstrumentとOtherで差がわかりませんでしたが、まぁ楽器の演奏なので一応Instrumentを選択。Tone Matchは0から100%まで試しましたが、あんまり大袈裟なのも好きじゃないので、デフォルトの50%のままです。

PunchとDistortはオフ、Widthは限界まで上げる

Ozone:
さて、マスタリングです。OzoneもNeutronのように音声ファイルを読み込んで「こんな感じでどう?」を提案してくれます。

面白かったのは、対象とした曲によって判定されるジャンルが変わること。まぁ、当たり前っちゃ当たり前ですが、AI仕事してんなーって感じです。学習させた箇所にも依存するかもしれませんね。Pops・Fork・Rockあたりに判定されることが多かったです。

ジャンルについては、好きなものを選べば良いと思います。今回私は、クラシックアレンジの曲はCinematic(映画音楽的なプリセットですかね?よく調べてません)が好みだったのでこちらを採用、ポップスアレンジのものはPopsとRockを選択してみました。ポップスアレンジでは、エレキベースやドラムスなど、音の輪郭を作る楽器が入ってくるため、別々のプリセットを割り当てるのは必然かと思います。

さて、Ozoneに関しては、Total Balance(イコライザー)とLoudness(マキシマイザー)が主な調整箇所です。前者に関してはそのジャンルのプリセットをそのまま受け入れており、他は触っていません。

一方で、ラウドネスに関しては、今回私はオフにしてしまいました。なんというか、全体的にうるさくてしゃりしゃりした音になってしまって、オンにする場合でも、限界までゲージを下げたい気持ちになっています。

だったらいっそオフにしようか?と思っていたところ、以下の記事を読んではやりオフにすることに決めました。「確かに最終的にはYoutubeに投稿するんだから、そこで調整されることも見込んで、余計なことはせんとこう」な気持ちです。

蛇足ですが、上記記事の主眼はAIとの付き合い方という深遠なテーマだったりします。本記事では本筋から外れるので深く突っ込みませんが、そういうテーマで読める良記事でした。

というわけで、最終的にはこんな感じ。

Maximizerはオフ。それ以外はそのまま

さて、仕上がったお味は?

ここでBefore/After的に音源をお聞かせしたいところですが、インターネットへの公開作業は別途動画が完成してからとなります。公開後にこの記事にも追記する予定ですので楽しみにお待ちください!

まとめ

冒頭で音のDIYと書きましたが、実際やってみて本当に楽しかったですね。AIの力を借りて手軽に良い音にしてもらいつつ、わずかでも自分が持っていると信じたい「理想の音」と現実を行ったり来たりして、素人なりに試行錯誤するのは勉強になりました。

今回は全面的にAI頼りでしたが、今後は、プロの音屋が使うような進め方、則ち「求める音に近づけるため、AIの案を援用しつつ、大事なところはマニュアルで」のスタイルを目指せるよう、少しずつ勉強を進めたいと思います。


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