
100日後に死ぬワニが炎上したのは「アンダードッグ効果」を見誤ったせいだという説
アンダードッグ効果とは
アンダードッグ効果という単語があります。アンダードッグ効果は認知バイアスの1つで、弱者を応援したくなる心理です。アンダードッグは負け犬と訳されます。
代表的なのはスポーツで負けてる方のチームを応援したくなる現象です。勝負事以外では、直向きに活動する無名のアイドルを応援したくなるような現象も当てはまると思います。
100日後に死ぬワニが炎上した理由
アンダードッグ効果について調べていて頭に浮かんだのが「100日後に死ぬワニ」の炎上騒ぎです。
100日後に死ぬワニは きくちゆうき さんが原作の4コマ漫画です。ツイッターで1日1回掲載され、100日からカウントダウンするように連載されました。作品自体の論評は省略しますが、私を含めて多くの人の心に刺さる素晴らしい作品だと思います。
問題は最終回掲載日に起きた出来事です。最終回と共に書籍化に映画化、グッズ展開など多くの収益化が発表されたのです。
多くのメディアがこの現象を分析していますが、評価は概ね「タイミング」の悪さを指摘しています。エンディングの最中に露骨に営業をかけられたら感動から醒めてしまいます。
タイミングの悪さという指摘はその通りだと思います。私はそれに加えて、この作品への評価は「アンダードッグ効果」が働いていたからだと考えました。
何が「アンダードッグ」だったのか
アンダードッグ効果が何かは先述の通りです。では100日後に死ぬワニという作品は何がアンダードッグだったのでしょうか。
2つあると思います。ひとつは主人公である「ワニ」がアンダードッグです。自身に死が迫っていると知らずに日常を過ごすワニに対して悲哀の感情が集まり、アンダードッグとして形成されました。
もうひとつは作者自身です。作者はプロのイラストレーターなのでご本人を「アンダードッグ」と評するのは失礼とは承知しています。重要なのは「無料配信」を「毎日」行ったことです。この健気な奉仕精神を匂わす行動に、読者は勝手に無名アイドルと同様の作者像を描いていたと思います。その作者像そのものがアンダードッグとして形成されました。
100日後に死ぬワニは「主人公」と「作者」のそれぞれに対する多重のアンダードッグ効果よって人気を集めた作品でもあったと見れます。
アンダードッグではなかったという勘違い
「100日後に死ぬワニ」はアンダードッグだと思われていました。しかし、100日目に数々の収益化が発表された時、読者の多くは作品の裏に大きな広告代理店の姿を想像してしまいました。
アンダードッグだと思っていた作品が、実は巨大組織による勝ち馬だったと思い込んでしまったのです。この時点で作品を通じて働いていたアンダードッグ効果が切れてしまいました。
人は好印象から悪印象に急激に振り切れると、必要以上に悪印象を抱いてしまいます。これはゲインロス効果と呼ばれる現象です。
アンダードッグ効果で形成された評価が裏切られ、ゲインロス効果によって増長された結果として、炎上してしまったと考えられます。
ちなみに連載当初から仕込まれていたという説は東洋経済オンラインの記事で否定されています。
本作品は広告代理店との関係は無く、何ヶ月も前から巨大組織が集まって仕込んだような“プロジェクト”でもないという。
(中略=経緯詳細)
つまり“途中から”は、総合広告代理店ではないものの、企業の運営、プロデュースにより、その後のメディアミックスに向けての動きが進んでいたことになる。
アンダードッグ効果は必ず「終わり」がある
アンダードッグ効果を利用する際に気をつけなければならなさそうなのは「終わり」がある点です。
アンダードッグを応援して人が集まっても、結果として成り上がってしまってはアンダードッグでは無くなってしまいます。あるいは、成り上がれなくては消滅します。いずれにせよ、必ずどこかで終わります。
アンダードッグ効果の終わりが見えたらどうしたら良いでしょうか。それは逆の現象に戦略を立て替えます。逆の現象というのは先日の記事にも書いた「バンドワゴン効果」です。
100日後に死ぬワニの失敗についても、注目が最も集まる100日目にバンドワゴン効果を活用しようという戦略はある意味間違っていなかったと思います。しかし、結果論としてはアンダードッグ効果が想定以上に効いていたため反感が強くなったのだと考えられます。
上手くいき過ぎるというのも考えものですね。
アンダードッグ効果を利用する際は「何がアンダードッグ」で「いつ終わりを迎えるのか」「次の手はどうするのか」よく意識するとよさそうです。