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赤ん坊が親の背中越しにこちらを不思議そうに眺めては、どこか不安げに親の方へ向き直すのを…
今日はね、かぼちゃのパイを焼いて来たの。ロージーが言うと、焼きたてのあまぁく香ばしいか…
り、り、りと鐘つき虫の規則正しい音が好き勝手に騒ぐ朝。気が付くと僕は、水たまりの中にい…
剣菱さんには一風変わった癖がある。故に、彼女に指が10本ある日は珍しい。今日は残った指の…
肉が食べたい。突然湧き上がった想いに突き動かされる形で、近所のファミレスに駆け込んだ。…
小指の先を、小さく刻んで、刻んで、食べてもらうと、その人のレプリカが生まれるらしい。今…
「あまり綺麗な死に方ではなかったな」 己の死体を見下ろしながら誰ともなしに呟いた。真っ先に地面に叩きつけられた頭はスーパーのグラムいくらの安売り肉くらいに砕かれて散らばっている。 筒井は己の死体をそのままに、かつての故郷である隣町までぷかぷかと向かった。地に足つかない歩き方は始めこそ違和感があったものの、体力の消費もなくどこまでも歩いていけるような気持ちにさえなった。ただし、想像していたような、自由自在に空を飛び回る事は叶わず、ヒト科生物の歩く仕組みと同じように歩いたり走
こっちを向いて。そう思いながら毎日見つめていた、あの人が、どうやら昨日死んだらしい。 …
こみ上げる胃液を喉の奥へ押し戻す。取り返しの付かない事をしてしまった。部屋の中には今、…
明日は汽水の命日である。 汽水は老作家であった。物事をうがって見る様な眠りかけの目をし…
えりちゃんはキス魔だ。家に帰るとおかえりの声より先にキス。お台所で突然のキス。お風呂に…
粉砂糖には体温を下げる効果がある。今日未明、閑静な住宅街で、凍死した男女の遺体が見つか…
あゆたさん(多分読み方はこれでいいはずだ)の日記はもう3年ほど投稿されていない。最後の投…
スポットライト症候群《シンドローム》というものがある。一度スポットライトを浴びてしまうと、その快感を忘れられず、もう一度、舞台へ立たずにいられない病気である。かつては、スポットライト症候群はただの俗語、病気でもなんでもないと言われていた。2800年、ある大スターが、引退後、壮絶な見た目になって再び舞台へ上がるまでは。 アルフォンス・グレゴリウスは二十九歳の美しい青年だった。切れ長の鋭い目つきは見るものを圧倒させ、彫刻のような肢体は蠱惑的だった。共演した恋人役の女や男がア