「エサで釣る」についての考察
「エサで釣ってるんですよねー」と言われるたびに
「強化を使ったトレーニングです、違うんですけどー!」
と大きな声で言いたいのですが、
「じゃー違いを説明してみろ」
っていわれるとなかなか説明出来ない、結構難しい。
「絶対に違うんだーっ」て思ってるところを考察してみようと思います。
普段やってるトレーニングは、
1、トレーナーがサインを出して
2、イルカが行動を起こし
3、イルカにとって良い事が起きる
するとサインに対応した行動を行う頻度が上昇する。
強化を利用した行動形成と維持です。
これを、イルカの視点でもう少し細かく分解してみよう。
1、a これから起きる事の予兆(サインや状況)を察知して
b 過去の経験と照らし合わせて
c イルカが自分でどうなるかを予測して
d 何をするか自分で決めて
2、a 実際に行動を起こし
b 行動中の状況変化を感じて
c 行動中にこれからどう変化するか予測し
d 継続するか途中でやめるか考えながら行動して
3、a 行動の結果何が起きたかを感じ
b 良い事が起きたのか判断して
c 事前の予想と違いがあったかも判断して
d 予兆と行動と結果を結び付けて記憶し
e 次回の判断材料にする
こんな感じでしょうか。
今度は「エサで釣る」を細かく分解すると、
①相手の不利益になることや嫌がることを
②エサ(相手の欲しがるもの)で隠し
③相手の意志を無視しエサと引き換えに強引にやらせて(選択権無し)
④結果、釣られた側のメリットは少なく(2度と釣られないように学習)
⑤おいしいところは釣った人が全て独り占め
こんな印象です。
「エサで釣る」と強化によるトレーニングの違いはどこでしょうか。
・嫌な事を隠している、判断できないようにしている
・イルカが予想した事と結果にズレがある
・強化が入らず行動の出現頻度は上がらない、むしろ回避を学習?
嫌な事でも、イルカが乗り越えられる、乗り越えた後に素敵な事が待っていた、やってよかった、そんなふうに感じられるような嫌な事なら挑戦する価値はあるし、そのような挑戦なら、嫌な事を隠す必要はありませんね。
イルカの予想と結果のズレについても、予想した以上の良い結果であれば問題はなく、むしろ良い意味でのサプライズ。
エサで釣られても
・やってよかった、楽しかった、ラッキー
・思ったほど嫌じゃなかった、怖くなかった
「次もやってみよう」に繋がれば、そんなに悪者扱いしなくてもよいかもしれません。
しかし、エサで釣る方法で良い結果を見る機会はほとんどありませーん。
・こんなに嫌な事が起こるとは思わなかった
・思ったほど良い事が起きない
・絶対やりたくなかったのにやってしまった
イルカが「もう2度とするもんかー」ってなれば間違いに気づきやすいのですが、イルカも何となく付き合ってくれて、でも隙あらば回避を狙う程度に落ち着いてしまうと、もっと良いやり方があるなんて考えもしなくなります。
「エサで釣る」は思考不要で手軽にだれでもすぐに出来る魅力的な方法、しかも強化を使ったトレーニングにそっくり、まさに落とし穴!
イルカの都合を無視して、行動を引き出すことだけに捉われると、「エサで釣る」の世界に引きづり込まれるかもしれないですよ。
「エサで釣る」には、騙す要素が含まれています。
周囲の状況や人の動きからイルカが予測した結果が、予測通りであることはイルカを安心させる事に繋がりそうです。安心はイルカと人が良い関係性を構築する上で、かなり重要な事だと思います。イルカを騙さない事→安心→良い関係→良い行動、エサで釣らない方がメリットありそうです。
「強化したんですけど、2回目やってくれないんです」
こんなこと言ってるトレーナーさん、どこかにいませんか?
脱出方法ありますよー。