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第四回、ホメロスと語り部の歴史。

 …『若い芸術家の肖像』の次にご紹介したいのは、『オディッセイア』なのですが、この際もう少し(いや相当)回り道をしまして…。 

  • 『イーリアス』

 こちらの作品、人類最古の物語(の一つ)と言われています。正確には、今我々が知り得る最古のものという意味です。つまり、本当の人類最古の物語は、誰も知らないし、知りようがないからです。すなわち、

 かつて太古の昔、人類が共同体のようなものを作り、他人と言葉でコミュニケーションできるようになった、その時点で世界のあちらこちらでほぼ同時多発的に作られていたと思われるからです

…つまり…。


人類最初の語り部。約200万年前。

 閑話休題。

 …で、『イーリアス』とは、ホメロスが詠んだ叙事詩です。物語のように語られる詩です。
ホメロスというのは、そもそも架空の人物ではないか、とも言われる、もし本当にいたのなら紀元前8世紀ごろにギリシャにいた、盲目の詩人です。吟遊詩人ってやつです。

 彼が「詠んだ」のです。口述するのです。今で言えば「書いた」になるのですが、当時のギリシャでは詩や物語というのは、書き伝えるものではなく口承するものでした。
なぜならこれは「うた」だからです。
具体的にいうと、これは「韻文詩」というやつで、1行1行が全て(1万数千行!)「6脚韻」でできています(長短短長短短が6回)。
日本だったら5・7・5…。みたいに、文の流れの気持ち良さでできています。
それだったらこちら側としてはやはり「読む」ではなく、「聴く」が適当ではないでしょうか?
この時代、もちろんレコードも録音機もありません。そしてこれは「娯楽」です。
ホメロスが事前に考え、またはその場の即興で、それを詠んで、みんなに楽しく聴いてもらうんです。
何処で?
大衆が集まるとこで。
ちょっと人が集まりやすい公園(?)とか広場とか市とか、そんなところで。偉い人に呼ばれて、とかもあったでしょう。そこで詩人は、手にした竪琴を爪弾きながら詩を詠むんです。
今でいうコンサート(…野外だから…フェ、フェス?)。

現代でも路上ミュージシャンっているじゃないですか? なんとあれは今から2800年も前からある文化なのです!

今みたいに印刷所もなければ出版社もない。それを売る本屋もサブスクもない。だから直接人々に聴いてもらう。そして対価をいただく。それで生計を立てていたんです。
この時代「詩人さん」というのは大変高尚な職業だったと聞いたことがあります。詩人から叙事詩を聴くことは(もちろん生声で)大衆の日々の大きな楽しみになっていたのではないでしょうか。

BC800

 余談になりますが、この盲人が竪琴を伴奏に物語を聴かせるって何かに似ていませんか?
そう、我が日本の琵琶法師です。ウィキで調べたら彼らは平安時代からいたそうです。平安時代は西暦780年頃です。ひょっとしてギリシャから伝承された文化なのでしょうか?

AD780?


 閑話休題。話を少し戻しますと、『イーリアス』は「韻文詩」です。つまり韻を踏んだ詩です。ちゃんと使用する言葉を選び、その言葉の響きが気持ち良いフレーズの連続でできてい…るらしいにです。まさにライミングです。じゃあ…ラップ? 
なんとラップは2800年前からある文化なのです(いやいや飛躍しすぎだろ)!

「ちょっと待て、それギリシャ語だろ?俺らが読むのはそれを訳した日本語だぜ。じゃ意味ないじゃん」

 ですよねぇ〜。確かに。「韻文詩」って、やっぱり「うた」なんですよ。ラップなんです(ん?)。ポップミュージックなんです(んん?)。Jポップの歌詞だって、一応意味は成り立ているでしょうけど、一番大切なのは、メロディとバックの演奏との合致でしょ(ほんとかよ?)。
やっぱり「うた」なんですこれ(言い切ってますけど大丈夫か?)。


AD2023

(余談ですけど、海外のミュージシャンが時々、日本語訳を嫌がるのもここからきてるんだと思われます)


閑話休題。

 で(やっと本題)『イーリアス』です。大長編です。私の手元にある本は…。あ、のちに誰かが、文字にしてくれて、さらに何年もかけて複数の人がそれを改訂編集し、それが印刷され、何度も何度も、また改訂し、また編集し、何せ2800年前ですから、その頃の言葉も文字も相当変化しているでしょうし、それを翻訳家が世界中の言葉に訳し、でこの本、岩波文庫『イーリアス』(上)(下)層ページ数約700ページ!

 (で、これが『ユリシーズ』と何の関係があるのかは、もうちょっとお待ちください)

…続く。

ps:私が持っている岩波文庫、松平千秋訳『イーリアス』では、これ「散文詩」になってます。なのでこれは、ただ物語小説として読まなければなりません(やっぱ韻とか関係ねぇじゃん)。
でもご安心ください。この『イーリアス』、めちゃめちゃ面白いです。

…枝葉を刈り取れば。 



なんか気になったんで少し調べました現在わかっている最古の文献は、今から4600年前(!)、メソポタミア南部で、シュメール語で、粘土板に書かれたそれだそうです。で、その500年後の4100年前、あの有名な『ギルガメッシュ叙事詩』が文字に記された最古の文学だそうです。

…次回『イーリアス』あらすじへ。あっ、言い忘れていましたが、『イーリアス』は『オデッセイア』の前日譚です。




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