第61回 『オデュッセイア』9歌その4
「こりゃうまい!」
一つ目巨人キュクロプスは、オデュッセウスがお詫びに差し出した美酒をゴクゴク。あまりのうまさに上機嫌。
「昨日の失礼は許してやるゴクゴク。
人間よ。ところでお前はなんと言う名だゴクゴク?」
キュクロプスはオデュに名前を尋ねる。
「私の名は、「誰でもない」と申します」
…古今東西において、そんなふざけた名前があるか。でも、キュクロプスは信じたらしい(嘘でしょ?)。
「そうかそうか「誰でもない」とは変わった名前だね。むにゃむにゃ」
寝る。
「よし! 今だ」
オデュはすかさず火のついた槍をキュクロプスの目のところにぐさっ!
「ぎゃー!」
キュクロプスは大声で悲鳴をあげる。
するとその声に仲間のキュクロプス族が駆けつけた。慌てて隠れるオデュ。
「おいどうした兄弟⁉︎」「うぐぐぐ、目、目がぁ」「誰にやられた⁉︎」
「誰でもない!」
「…なんだよ人騒がせな。帰ろ帰ろ」
去っていく仲間たち。
お分かりだろうか?
オデュが名乗ったふざけた偽名「誰でもない」を信じたため、「誰でもない」とは誰にもやられていない、つまり自分でやったと他の仲間たちは思ってしまった。で、帰っちゃった…。
あまりにも馬鹿すぎて、むしろ可哀想(なぜ「「誰でもない」と名乗る人間にやられた」と言わなかったのだろう)。
そしてオデュ一行は急いで筏へ。
「今だ、逃げろ!」
キュクロプスは視力を失いながらも、やけくそになって追いかける。
「待ちやがれぇー!」
「よし、みんな乗ったな。出港!」
一向を乗せた筏は大海原へ。
キュクロプスも追いつく。が間一髪、海沿いで地団駄を踏むキュクロプス。
無我夢中で放り投げた岩は、一行を乗せた筏のすんでのところに落ちた。
「危ねっ! やぁ〜い、一つ目野郎。俺の大事な部下を食べた罰だ。ざまぁみろ」
ここまで来ればもう安心。気をよくしたオデュッセウスはやりたい放題言いたい放題だったが…、
流石は作者ホメロス。人類最古の物語にして不朽の名作。このままハッピー・エンドとはならない。
英雄も時には愚行をやらかす。
「おーい、一つ目! ここで俺様の本当の名前を教えてやるからよぉ〜く聞け! あのトロイア戦争において我がアカイア軍を勝利へと導いた、英雄の中の英雄…、
イタケーの王オデュッセウス様とはこの俺のことだぁー! だぁー、だぁー、だぁー(エコー)」
…したら、「そうか、お前はイタケーの王オデュッセウスなんだな。お前俺の親父を知らないな。俺の親父は海神ポセイドンだぞ!」
「…え?」
「あの、神の中の神ポセイドンだ。クソ人間なんかの英雄の100倍偉いんだ馬鹿やろう!」
「え嘘? いやいやいや、マジでぇー⁉︎」
『オデュッセイア』第9歌、終わり。
続く。