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大切な親友と過ごした長い一日

他の高校よりも少し早く、
通常授業が元通りに始まる私の学校。

そんな憂鬱な夏休み明け初登校前日に
親友から連絡が来た。


“明日学校終わってから会いたい”

ノイキャンのイヤホンをつけても聞こえてくるほどの、叩きつけるような大雨が降っている夜だった。








次の日、
学校が終わった私は、制服のまま学校を飛び出して、すぐに彼女の家まで向かった。


台風が直撃するのかしないのか、ハラハラとした思いを抱えながら傘を差す。

テカテカと光るコンビニで買ったビニール傘は、親友を待つ時間を過ごすのには少し心許ないサイズだった。




まだ夏休み真っ只中の親友は、
登校初日を迎えた私が
思わず嫉妬してしまいたくなるほど
可愛らしい服装で現れた。

涙やけした真っ赤な目をこすって玄関を出てきた彼女。

それでもいつも通りのメイクを施して、頑張って笑う彼女の姿を見た時、この子はずっと気を張って生きてるんだな、と苦しくなってしまった。



そんな親友は私の前では絶対に涙を見せずに、ただ悲しかったことをつらつらと言葉にするだけだった。

泣くことを遠慮されているなんて思いたくなくて。でもそうやって誰の前でも遠慮してしまうほど彼女は優しいから、彼女のそういう無理してしまう部分をわたしが癒せたらな、と思っていた。



雨も止んだから、わたしは温泉に行こうと彼女を誘った。

親友の家と私の家は割と近い。

自転車で走って20分のところに温泉があるから、私の自転車に乗って行こう。と提案して、
ふたりで一緒に私の家までゆっくりと足を進めた。

ゆっくり。

一日中ご飯が喉を通らなくて、何も食べられていないこと。

でもいまはサイゼに行きたいこと。

去年の夏に浴衣でした弾丸川越旅行。

幸せな思い出をふたりで、歌にするみたいに口ずさんでいたら、彼女の笑顔も、本調子になってきたような気がした。


家に着いたらわたしは入浴グッズを手に取って自転車のカゴに置いた。

「乗って。」

お嬢様育ちの親友をとても驚かせてしまった。

それでもわたしは無理やり彼女の腕を私の腰に巻きつけ、走り出した。

「出発進行!!!」

私たちは人生ではじめて2ケツをした。
警察官にバレないようにって。

地元だからもちろんふたりとも交番の位置は完璧に把握している。

ここからは歩こう!とか
歩いたほうが早くない?とか
そんなバカみたいなことを言いながら、一緒に温泉まで自転車を走らせた。

都会には珍しく、銭湯ではなくしっかりした温泉を提供している地元のお風呂屋さん。

なぜか44℃に設定されていた(ちゃんとふたりで冷ました)露天風呂に浸かりながら、一緒に未来のことを話した。

わたしはこの親友がいればとりあえず未来の話が出来るなあ、と思った。

未来の話って口に出すのは怖い。

大学を卒業しても一緒にいられる未来を、勝手に描いてくれる彼女のことが大好きだ。

お風呂上がり。
お揃いのフェイスパックをつけて、いっしょに飲み物を買った。

彼女は牛乳で、わたしはコーヒー牛乳。

そっと乾杯をして、無言で飲み干した。

綺麗になった彼女の肌からは、涙の跡が消えていた。




温泉の暖簾を捲って外に出る。

雨上がりの生ぬるい湿気を纏った空気が、今日は少しだけ気持ちよく感じた。

もう暗くなっていた空を見上げながら
自転車をゆっくりと押す。

“帰りは自転車に乗らずにゆっくり歩こうよ。”

彼女からの提案だった。

お風呂上がりの、あのすーすーした気持ちいいにおいが、風でよく香る。

歩いて正解だったなあ。

同じ匂いになった私たちは、次に会う約束をしてお別れをした。



長い一日だった。



毎年夏休み最終日は自殺を考えるのだが、
今年は自殺しなくてよかった。と
思わず声に出してしまうほど幸せな一日だった。




あなたが苦しいときはわたしが支えるよ。
わたしはあなたのために絶対に死なないから、
あなたを救わせてほしい。





大切な人全員が楽しく生きられますように。

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