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老舗とそれ以外を分けるもの

半年ほど前からずっと考え続けてきたテーマのひとつに『老舗』がある。

老舗と呼ばれるブランドや企業は、いつどのタイミングで『老舗』と呼ばれるようになったのか。
『老舗』を分解するとどんな要素が内包されているのか。

ことあるごとにこの問いを取り出してはこねくり回し、ヒントになりそうな本を見つけては考えを繰り返し、半年ほど経ってようやく暫定的な答えがでた。

そのヒントとなったのが、虎屋社長とエルメス本社の元副社長の対談をまとめた『老舗の流儀』でのこんなやりとりだった。

齋藤氏 エルメスの考え方に、『長きにわたって愛用してもらう』というものがあります。エルメスのものは、お母さんから娘さんへ、二代あるいは三代にわたって使ってもらうことが少なくないのです。
つまり、一過性の流行でデザインを変えることを良しとしては来なかった。バッグの『ケリー』や『バーキン』が、それを象徴していると思うのですが、どちらも五十年くらい、ほとんどデザインを変えていません。
もう少し具体的に言うと、『今シーズンはこの色や素材がトレンドだから作りました』ということを、エルメスはやってこなかった。そうではなくて、職人たちの美的感覚、質に対するこだわりを形にしてきたのです。
黒川氏 たとえば以前、ファッションデザイナーの皆川明さんとご一緒した時、キャンディーのように小さな球形の羊羹に棒を差したもの作っては、というアイデアをいただいたのです。羊羹は型に流し込んで作るので、継ぎ目がほとんど見えない球形にするのが実はとても難しいのですが、職人が一生懸命取り組んで、何とか実現することができました。そうやってできあがってみると、見た目も楽しいし、羊羹の食べ方として新しい提案ができるということで、販売も行いました。お客様からも好評をいただいて、皆川さんも、私どももたいへん喜んだのです。
だからといって、定番商品にするかどうかはまた別の問題で、こういった挑戦のほとんどは、今のところ、期間限定として行なっています。定番商品にできるものがあれば、そうしていきたいと思っているのですが、その場合も、吟味した上で判断しなければなりません。

この両者の『定番』への姿勢と哲学を読んだ瞬間、『なるほど、そういうことか』と自然に合点がいった。

老舗とは、

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