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それは、語りたくなるビール。いつも変わらずそこにある、GARGERYの物語。 #ブランドインタビューリレー
ブランドづくりにおいて、「ストーリー」の重要性はいたるところで語られています。しかし、そのほとんどは「人に語りたくなる」という意識が抜け落ちてしまっているように思います。
語られないストーリーは、もはや物語とは言えません。
そんなことを考えていたとき、思わず人に語りたくなるビールブランドを見つけました。
「#ブランドインタビューリレー」の第二弾は、人に伝えたくなる物語で多くの人を惹きつけるビールブランド・GARGERYのブランド戦略について、マーケティング責任者の別所さんにお話を伺います。
※取材協力:COCKTAIL WORKS 東京
(今回、撮影&インタビュー場所として店舗をお借りしました。オーセンティックなバーで、GARGERYの雰囲気にもぴったりの素敵なお店でした。)
1.ビール業界の常識を覆すブランド「GARGERY」ができるまで。
2.「語りたくなる要素」を散りばめて、飲みに行きたくなるビールへ。
3.たった3、4年でブランドなんてできない。GARGERYのブランド哲学。
4.常に「人が帰る場所」であるために。GARGERYは変わらない存在であり続ける。
1.ビール業界の常識を覆すブランド「GARGERY」ができるまで。
▲GARGERYの特徴でもあるオリジナルグラスは、思わず人に話したくなってしまう要素のひとつ。
最所:本日はありがとうございます。早速ですが、GARGERYは小売販売はされていないんですよね。飲食店でしか飲めないビールというのは少ないのではないかと思いますが、なぜそうした戦略をとられているのか教えてください。
別所さん:もともと、GARGERYはキリンビールの社内ベンチャーから始まりました。新規事業企画担当者の社内公募で選ばれた二人が、社長の佐々木と私でした。
そのときに「作りたてのビールを宅配したい」という考えをもっていた佐々木(現・ビアスタイル21代表)と「個性あるビールをスタイリッシュに飲める場所を作りたい」と考えていた私のアイデアをぶつけ合って、喧々諤々の議論の中から生まれたのが、ガージェリーのもとになるアイデアです。
最所:「作りたてのビールを宅配したい」というのは面白い発想ですね。
別所さん:佐々木は当時からビールは鮮度が一番大事だという考え方を持っていたんです。一般的にビールは、容器に詰めると酸化による劣化が進み、香味がどんどん落ちていってしまうんですね。
だから一番おいしく飲んでいただくには、作りたてのビールを各家庭に宅配するのが一番だと。とはいえ、毎日受注生産で瓶ビールを詰めて宅配するのは現実的ではありません。そこで、飲食店にできたての樽を毎日お届けするというアイデアが生まれました。
さらに私自身も、大手ビールメーカーのビールが画一化していることに疑問を感じており、個性のあるビールを提案したいと思っていました。
そして、個性あるビールを昔ながらのビアガーデンやパブで飲むものではなく、モダンでスタイリッシュな空間で飲む洒落た飲料として演出したいと考えていたのです。
そうした2人の思いが重なり、飲食店向けに昨日詰めたばかりの新鮮な樽詰ビール・GARGERYを届けるという事業がはじまりました。
2.「語りたくなる要素」を散りばめて、飲みに行きたくなるビールへ。
▲GARGERYのアイコンでもあるリュトングラスと初期のPOP。現在は「ガージェリーカード(フライヤー)」にかたちを変え、年に1、2回新しいものを作成している。
最所:GARGERYと言えばこの特徴的なグラスだと思うのですが、専用グラスを作られた理由を教えてください。
別所さん:「リュトングラス」と呼んでいるオリジナルグラスは、ベルギービールのブランドから着想を得たものです。
GARGERYは飲食店専用のブランドで、さらに初めは樽のみで展開する計画だったので、缶や瓶のように名前を覚えてもらう「容器」と「ラベル」がありませんでした。そこで、ブランドごとに専用グラスを用意しているベルギービールから着想を得て、一度見たら忘れられないグラスを作ろう、と思ったのです。
最所:台座とグラスが別れる、というのは非常に面白いアイデアですよね。はじめて飲んだ時とても驚きました。
別所さん:このグラスの形は、古代ヨーロッパで使われた動物の角を使用した酒器をイメージしています。角の形にすると、そのままでは立ちませんので、台座が必要になります。
また、GARGERYのコンセプトはユングの「元型」という言葉で、これは本能的に人類が持っている心の源、といった意味なんです。GARGERYも、人の心の奥底に根ざしたような、最後にはここに戻って来るような、そんな存在でありたいと思っているブランドなんです。このリュトンのデザインは、グラスを台座に戻す動作が、自分の心の深い部分に戻っていくということに見立てることができ、ブランドコンセプトを象徴していると思っています。
また、このデザインは人によって様々に解釈を膨らませることができます。例えば、グラスを台座にちゃんと戻せないほど酔っ払ったら、飲むのをやめて帰りなさいよ、というメッセージにもなります。
GARGERYを飲むお客様は、そういうスマートな飲み方ができる大人であって欲しいということになりますが、こういう会話がお店とお客様のコミュニケーションを深めることに繋がるのです。
最所:グラスの形だけでこんなにも語ることがたくさんあるなんて…!
別所さん:語れることは他にもたくさんありますよ。
実は台座を真上から見ると、GARGERYのロゴが浮かび上がるようになっています。
GARGERYの名前は「大いなる遺産」に出てくるジョー・ガージェリーからとっているのですが、彼の仕事は鍛冶屋なんですね。
でも、実はロゴに出てくる鍛冶屋は彼ではないんです。
このロゴに描かれているのは、ケルト神話に出て来る鍛治の神様なのです。彼は武器を作るだけではなく、ビールづくりの名人で、そのビールを飲むと不老不死になると言われていました。ブランド名とロゴマークで二つの物語が重なり合っているんですよ。
最所:ロゴにまでそんなストーリーがあったとは!
別所さん:GARGERYはこうした語りたくなる要素をたくさん散りばめているので、お客様とお店のコミュニケーションのきっかけとしても重宝していただいています。1回では語りきれないほどたくさんのネタがあるので、足を運ぶたびに新しい発見があるという楽しみもあります。
最所:GARGERYといえば、短編小説が載っているオリジナルフライヤーも印象的ですが、これはどのようにして生まれたのでしょう?
別所さん:営業して飲食店に置いていただけるようになっても、お客様に注文していただかなければ意味がありません。しかし、GARGERYを置いていただくようなバーやレストランには、一般的な訴求用のPOPを置いていただくことは空間イメージの観点から難しい。
そこで、場の雰囲気を壊さずにGARGERYを訴求するアイテムとして、私たちが「これは」と思った作家さんとイラストレーターさんに依頼して、GARGERYをテーマにした短編小説とイラストを作っていただくようになりました。
今も1年に1、2回は新しいシリーズを作りつづけています。
最所:私もはじめて目にしたとき、思わず読みこんでしまいました。また、角田光代さんや小川糸さんなど、著名な方々が寄稿されている点も驚きでした。
別所さん:予算の関係もあり、すでに大きな賞を取っていらっしゃるような作家さんにお願いすることはできませんでしたので、当時これからの活躍を期待されていた方々に声をかけてきました。GARGERYで書いていただいたあとに芥川賞や直木賞を受賞される方も増え、一部では「GARGERYは新人作家の登竜門だ」と言われているとか、いないとか(笑)。
角田さんにはじめて書いていただいたのは2004年の「あの人がくるまでのあいだ」という作品なのですが、2016年にダメ元でもう一度書いていただけないかと打診したんですね。
そのときにはもう様々な賞をとられている人気作家さんだったので難しいかと思っていたのですが、なんとご快諾いただき「いつか旅立つときに」という作品を書き下ろしていただきました。
実はこの2つのストーリーは12年の歳月を経て繋がっているのですが、さらに裏話があるんです。
初期からガージェリーストーリーとフライヤーのプロデュースをしていただいていたパートナーの女性がいるのですが、2016年にちょうどご出産を予定されていて、そのお祝いも兼ねて「いつか旅立つときに」では子供をテーマに書いてくださったんですね。
12年越しのその心遣いに、私たちも感動したエピソードです。
最所:そのお話を聞いて、私も感動してしまいました…!そしてこうしたエピソードのひとつひとつが、GARGERYのブランドを作り上げているのだろうなと感じます。
別所さん:こうしたストーリーをきっかけに、「GARGERYを飲みに行ってみようかな」と思ってもらえることが一番嬉しいですね。
GARGERYは飲食店に育てていただいたブランドなので、私たちのビールをフックに飲食店に足を運んでくださる人を増やしていきたいと思っています。
3.たった3、4年でブランドなんてできない。GARGERYのブランド哲学。
▲GARGERYを展開するビアスタイル21のマーケティング責任者・別所さん。普段からGARGERYの取扱店には積極的に足を運ぶ。
最所:GARGERYの取扱店はどこもオーセンティックで素敵な飲食店が多いイメージですが、なにか基準などはあるのでしょうか?
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