「モノ」は「コミュニケーション」のためのツールになっていく
小売の世界にいると、「モノからコトへ」は耳にタコができるほどよく聞くフレーズです。
人はモノを買わなくなっている。
それは半分真実だけれど、半分は誤った認識だと私は思っています。
昨日1日を思い出してみて、モノを一切買わなかった人はほぼいないはずです。
何かしら食べるものだって買ったはずだし、無くなりそうな消耗品を買い足したり、あの人がおすすめしていた本をAmazonで買ったり。
洋服や化粧品だって、1年間でひとつも買わなかったという人の方が少ないのではないでしょうか。
百貨店時代に「売る」ということに悩んでいたとき、街を歩いていてふと
「待てよ?この人たちみんな服着てるやん!?ってことは、みんな洋服買ってるやん!!!」
と気づいたことがあります。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、販売の渦中にいる人は「自分が扱っているものが売れない」ことをそのまま「世界全体の人が買っていない」ことだと混同していることが多いものです。
しかし実際には、ユニクロやGUなどの低価格帯に流れているだけで、「洋服を買う」という機会自体はそう急激に減っているわけではありません。
つまり、その数少ない機会において、なぜ自分たちが選ばれなかったのかを考えるべきなのです。
では、今後選ばれるブランドになるにはどうするべきか。
私は、その答えは「コミュニケーション」にあるのではないかと思っています。
人は、昔と違って自分のために使うお金に対しては財布の紐をかたくしています。
SNSで簡単に承認欲求が満たせる今、自分が持っているモノでアピールする必要はないからです。
一方で、「コト消費」の代表として旅行やイベントなどの体験にお金を払うという人が増えています。
しかし、旅行したりディズニーランドでかかるお金は旅費や入場料だけではありません。
むしろ誰かと楽しむものだからこそ、お揃いのアクセサリーを身につけたり、お土産を購入したりと「体験に付随するモノの消費」を楽しむ人が増えているのです。
ちなみに日本で「リンクコーデ」と呼ばれるような、ペアルックほどお揃いにしすぎず一部だけリンクさせるコーディネートは、グローバルで見ても大きなトレンドとなっています。
単に自分のために洋服を買うのではなく、一緒にその場を楽しむためのツールとして洋服を買う。
この流れは今後より一層強まっていきそうです。
また、ギフト需要も根強いものがあります。
お中元やお歳暮といった風習はダウントレンドですが、その代わりにAmazonのウィッシュリストを通したプレゼントや、ベビーシャワー、こだわりの誕生日会など「新しいギフトのかたち」が生まれています。
この2つに共通するのは、購買行動において自己完結ではなく他者の介在が発生しているということ。
自分をよく見せるためではなく、人とつながるための消費がこれからのキーワードになっていくのではないかと思います。
さらに、minneなどのハンドメイドマーケットやマルシェがブームからカルチャーとして根付きはじめているのも、単なるモノの売買ではなく、モノを通した生産者とのコミュニケーションが本質的な価値であると考えると、今後さらに「コミュニケーション」が購買行動の核になっていくことは間違いないでしょう。
海外で政治的な主張をファッションで表現するブランドが増えてきているのも、根底には同じ理由があるはず。
つまり、「モノからコトへ」とは、モノを作らずに無形サービスを提供しようということではなく、コミュニケーションを活発にするというサービス的価値をまとったモノを作るということではないかと思うのです。
もちろん、一方で若い世代ほどシェアへの抵抗がない分、「モノを買う」から「使う権利を買う」という意識が強く、身の回りのものは少なく保ちたいという人も少なくありません。
モノの提供方法は「新品を買う」以外にも、「中古を買う」「レンタルする」といった選択肢を作る必要はあると思います。
ただ、人がいいモノを求める気持ちは不変です。
だからこそ、「売れないから作らない」と短絡的な判断をするのではなく、いいモノを作る技術と精神はそのままに、届け方を柔軟に変えていく。
それがこれからの「売れるブランド」の条件なのではないでしょうか。
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