「年齢不詳系雑誌」が増えている理由
先週書いた『紙とWebにおける決定的な違い』に続き、またもや雑誌の話。
最近雑誌を見ていると、対象年齢が広くなり、年齢という境界が曖昧になってきたように感じる。
この傾向は『"ワンテーマ"の時代』を書いた3年前から感じていたことではあるけれど、雑誌を読んだ感想を毎月言語化するようになってさらに確信を深めたことでもある。
中でも、変化をもっとも強く感じたのがminaだ。
minaはもともとカジュアル派の20代女子向け雑誌で明確なタグラインはなかったのだが、2019年4月号から突如として『minaを読んでよい週末を。』をタグラインに設定し、毎号『週末』という大テーマを軸に作っている。
例えば4月号の特集は『なに着て、どこ行く?』、5月号は『ベージュ服とフルーツサンド』、最新号は『週末デニムと和スイーツ』だ。
私は普段その雑誌がターゲットにしているペルソナのライフスタイルを考察する上で、着まわしコンテンツやシチュエーション別お悩み解決コンテンツのキャプションを参考にしているのだけど、minaは『週末』を軸にしはじめてからいい意味でターゲットのライフスタイルが見えなくなった。
普通の雑誌であれば『学校でも浮かない』『プレゼンの日は気合いをいれて』といった記述があるが、週末に関しては大学生だろうと社会人だろうとほぼ同じ条件なので、平日に何をしているかという前提が不要なのだ。
また、他の雑誌と異なり、特集テーマに必ず『行き先』がセットになっているのもユニークなポイントだ。
実際に中身を読むと、週末にやりたいことを提案しつつ、そこに行くならこんなコーディネートがいいよね、という順番になっている。
例えるなら、『Hanako』や『OZ』をベースにしつつ、さらにそこに行くときのファッションまで提案しているといったところだ。しかも本人だけではなくリンクコーデの要素も取り入れるなど、インスタネイティブである20代が出かける本質的な理由を汲み取ったコンテンツになっている。
ファッションがカジュアルなのとモデルが20代前半なのでさすがに30代までカバーすることは難しいだろうが、今後のテーマによっては年齢問わず刺さる可能性も十分にあるのではないかと思う。
さらに、年齢不詳系雑誌の先駆者といえば、『暮らし系女子』を提唱し2018年に発行部数No.1に輝いた『リンネル』だろう。
公式にも10代〜70代という幅広い読者層が強みとしており、ファッション雑誌にしてはファッションにまつわるページが30P前後と極端に少ない。
今年3月には住宅もプロデュースしており、ファッションよりも暮らしやインテリアへの関心が高いのが特徴だ。
中身を読む限りボリュームゾーンは30〜40代だと思われるが、リンネルもキャプションでシチュエーションに言及しないスタンスであり、仕事やライフスタイルが誌面からだけでは見えづらい。
広告に子供服ブランドが入っていることはあるものの、『ママ』の設定は一切見えないし、オフィスシーンも出てこない。美容ページも、アンチエイジングといった年齢を感じさせる言葉を極力使わず、あらゆる年代に対応している。
『暮らし』という比較的年齢に左右されづらいテーマを中核に置いているからこそ成せる技だとも言える。
また、最近読んで面白かったのが『SENS de MASAKI』だ。
これはモデルの雅姫さん責任編集のもと『センスを磨く暮らしの教科書』をテーマにしたムック本だが、半年に一回ペースの発行ですでに10冊が刊行されている。
芸能人やモデルのライフスタイル本は数多くあれど、こうして定期的に発行する雑誌スタイルは珍しい。
逆に雑誌の観点からみても、1人のミューズを中心において誌面全体を作り上げる形式はかなりチャレンジングだ。
雅姫さん自身が今年47歳とアラフィフ世代なのでメインのターゲットはおそらく40代以上だが、こちらもライフスタイルを中心にしていることもあって2、30代が読んでも遜色ない内容になっている。
一方で、こうした流れと逆行するかのように『ママ』を前面に出す雑誌も増えているように思う。
ただこれは年齢というよりも子供がいるかどうかでライフスタイルが大きく変わるからであり、特にmama girlを読んでいて印象的だったのはママの年齢を25歳・30歳・35歳の3つに区分し、想定読者を幅広くとっていたことだ。
25〜35歳という10歳の開きは、これまでの雑誌であればヤングからミセスへとひとつ上の雑誌に移行させる前提で考えられてきたはずだが、『ママ』というライフスタイルと『ガーリーなものが好き』というテイストさえ合致していれば同じ雑誌で対応できるようになってきたことの証左でもある。
こうした変化について考えながら思い出したのが、先日TEDで観た『ソーシャルメディアとジェンダーの終わり』と題したトークだ。
これまで顧客セグメントは『F1』『F2』といった言葉に代表されるように、年齢と性別によって把握されてきた。
もちろんその中で多少のバリエーションはあるとはいえ、あくまで『20代女性』『30代女性』といったベースとなる区分けがあった上でのバリエーションだ。
このトークのスピーカーであるジョハナ・ブレクリーは、SNSの台頭によって顧客を理解するために必要なのは『何を好むか』のデータになった、と話している。
なぜならば、その人が20代男性か40代女性かに関わらず、SNSを通して同じものが好きだというだけでつながることができるからだ。
そしてこの流れはメディアのみならず、ブランドにも普及していくだろうと思う。
参考:ブランドとメディアの境目がなくなっていく時代に
私たちはもはや『年齢』『世代』という大きなくくりだけでは、顧客を理解できなくなっていく。
そして顧客が『何を好んでいるか』を見抜くことこそが、今後求められている力なのだろうと思う。
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