推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります② プロット編
こんにちは、久住四季です。
今回は小説のプロットの作り方を紹介します。前回の記事がまだの方はこちらからどうぞ。
なお、以下の文章では敬称略とさせていだきます。なにとぞご了承ください。
目次
1. 基本は起承転結
2. 「つかみ」を用意する
3. 謎は「フェア」に解決する
4. 具体的なページ割り
5. イメージは「自由な山登り」
1. 基本は起承転結
プロットとはご存知の通り、物語の展開における重要な出来事をまとめたもので、ストーリーの設計図と言われたりします(なかにはこのプロットを作らずに、頭から終わりまでライブで書き切ってしまう天才もいるそうですが、僕には到底無理ですね……)。
プロットの一番典型的な構成は、やはり「起承転結」じゃないでしょうか。僕も小説を書くとき、まずはこの「起承転結」を基本にして考えることが多いです。
起 物語の始まり
承 その続き
転 逆転
結 結末
という具合ですね。
ただこれだけではあまりにざっくりしすぎていて、ストーリーの基本と言われてもイメージしにくいと思うので、もう少し具体化、細分化してみます。こんな感じでどうでしょうか。
起 ある「問題A」が起こる
ある「問題A」を解決しようと試みる
承 その結果、さらなる「問題B」が起こる
さらなる「問題B」を解決しようと試みる
転 様々な葛藤や苦悩を抱える
それを乗り越える
決 解決する
このほうが起承転結それぞれのパートの因果関係が明確で、何が起きてどう進行していくのか、イメージしやすくなったと思います。
※注.もちろんプロットの構成は「起承転結」だけじゃなく、「実はこれまでの出来事は序章に過ぎなかったんだ!」的展開の「起承転・承転結」だったり、「終わったと思ったらまだドンデン返しがあった!」的展開の「起承転決・転決」など、各パートの組み合わせを変えるだけでも、まだまだバリエーションがいくつも考えられます。ただここではもっともオーソドックスな「起承転結」を例として採用し、話を進めます。
ちなみにこの構成はミステリに限らず、どんな物語を書く上でも共通して使えるものです。起の「問題A」の部分に何を当てはめるかで、物語の種類やジャンルが変わります。
例えば恋愛小説なら、「問題A」には「好きな相手に恋人がいる」とか。ファンタジーなら、「仕えている国が滅亡する」とか。
このように、物語とはつまるところ、
「どんな問題を、どのように解決するのか」
だと捉えることができます。
そしてミステリの場合、往々にして「問題A」には「事件」や「謎」を当てはめます(もちろんこれは必ずじゃありませんし、僕もそうしなかったことは何度もあります)。
ためしに「問題A」に「殺人事件」を当てはめて、さっきの構成でストーリーを展開してみると、
起 殺人事件が起こる
事件の現場や関係者を調べる
承 その結果、関係者全員にアリバイがあったとわかる
アリバイを崩すべくさらに調べを進める
転 全員を調べてもアリバイが崩せそうにない
解決の糸口が見つかる
決 解決する
といったプロットを作ることができます。
えー、ただですね。……正直この話、おもしろいと思います?
いや、おもしろいという人はいるかもしれませんし、実際このプロットでおもしろく書けてしまう作家もいるでしょう。ただ、僕は正直これで読者の興味を最後まで持続させる自信はありません。
では、どうするのか? 「つかみ」を作ります。
2. 「つかみ」を用意する
「つかみ」とは、文字通り読者をつかむ要素です。何でも構いません。とにかく読者に、「おっ?」とか「なにそれ?」とか「あ、おもしろそう!」と思ってもらえそうなものです。
と、ここまで来て、すでに僕の新刊『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』(メディアワークス文庫)を読んでくださった方はピンと来ているかもしれません。
そう、実は作中、語り手で作家の月瀬純(つきせじゅん)も、担当編集者の翁長美也子(おながみやこ)からこの点をくどくどと指摘されます。以下抜粋。
「ただ普通に事件が起きて、手続き通りにそれを解いてというだけじゃ、読者はまず手に取ってくれません。謎がものすごく不思議であるとか、主人公が一風変わったお仕事をしているとか、ラストで秘められていたテーマが鮮やかに描き出されるとか――そういった華やかな個性、これという作品の魅力がほしいんです」
いやあ、胃が痛くなりますね。
ともあれ、まさにこの指摘の通りです(自分で書いておいて言うのもなんですが)。
例えば島田荘司作品のような、幻想味の強い「魅力的な謎」や「あっと驚くような解決」は、ミステリの「つかみ」としてまさに王道中の王道です。いわゆるお仕事モノや妖怪モノに代表される、一風変わった「お仕事」や「怪異」もいいと思いますし、ミステリ的な仕掛けと連動して人間の愛や友情、あるいは悪意ややるせなさが描かれたり暴かれたりする趣向にも、ぐっと来ます。
こういった「つかみ」によって、より作品の個性を際立たせるわけです。
ちなみに僕は、
『トリックスターズ』シリーズ
「魔術が存在する架空の現代日本を舞台にしたミステリ」や、
『星読島に星は流れた』
「二、三年に一度というペースで必ず隕石が落ちてくる孤島での殺人事件」
といった作品を書いています。これらは「特殊な設定」や「風変わりな舞台」を「つかみ」にしているわけですが、そもそも順序が逆で、まずそれらを先に思いついたから書いた、というものです。
このように、まず「つかみ」となるアイディアを先に用意して、それを元にプロットを考えるほうがまとまりやすいかもしれません。
ちなみに、「つかみ」が一つである必要はまったくありません。ただ、なるべくですけど短い言葉でスパッと説明できるものがいいです。
3. 謎は「フェア」に解決する
言わずもがなではあるかもしれませんが、ミステリにおいて、事件や謎はきちんとフェアに解決します。ミステリを書く上で一番苦労するのは、やっぱりこの部分じゃないでしょうか。
この「フェア」とは一体何なのか? 一言で言えば、「作中に示された伏線を手がかりに、読者にも答えが導き出せること」だと僕は考えています(ここに高い論理性を求めるか否かは、また別のお話)。
解決そのものが常識的である必要はありません。ただ仮に答えが荒唐無稽なものだとすれば、それを読者に受け入れてもらえるだけの説得力を作中で示せていることが大切です。
「実は作中の記述を手がかりにすれば、読者もきちんと真相にたどり着けたのだ」と示されるからこそ、「あ、そうか!」「やられた!」と楽しんでもらえるわけなので。
突き詰めると、この章だけで記事一回分使うぐらい分量が多くなってしまうんですが、基本的な原則は本当にこれだけだと考えています。
4. 具体的なページ割り
これは、まああくまで余談なのですが。
僕は長編の場合、全部で5から7章ぐらいの小説を書くことが多いです。そしてその各章の中に、10~20ページぐらいの小さな章をおよそ5つから6つ作ります。
白状すると、これはもろに上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』の影響です。文庫をお手持ちの方はぜひ確認してみてほしいんですが、一巻がほぼこの通りのページ割りになっています。
それこそ15歳のときにこれを読んで作家になろうと思い立った僕は、まさにそのきっかけの作品をそのまま真似して、今もそのクセが残ったままなんですね(笑)
「どれぐらいのページや分量がキリがいいのだろうか」と考えている人は参考にしてみてください。
5. イメージは「自由な山登り」
昔の僕は、プロットを細かい部分までかなりがちがちに作り込んでいました。それこそプロットの段階で、各登場人物の台詞まですべて決めているぐらいに。
これはなぜかというと、「すべての登場人物が駒のように無駄なくストーリーに寄与して全体を形作る、そんな物語こそが美しい」というような信仰があったせいだと思います。作家を志したきっかけの『ブギーポップ』が、章ごとに主人公が変わり、最後で各エピソードがパズルのようにぴたぴたと嵌まっていく群像劇だったことも大きかったかもしれません(もちろんそういった物語は今でも好きですが)。
ただ今は少し違って、ある一個の視点からの物語のほうに興味が移った気がします。大きな流れがあり、その中で個人がどうするのか、といったような物語ですね。
なので、今はそれにあわせてプロットも少しゆるめに作って、その後どうするかは主人公に任せます。
僕はこれを、主人公に自由に山登りをしてもらうイメージで捉えています。
「あなたには、今から山に登ってもらいます。ただし、山道にはいくつかのチェックポイント(前述したプロットのことです)があるので、必ずそこは通過してください。それ以外は、本当に自由に登ってもらって結構です。ではどうぞ」
そう主人公にお願いする感じです。こうすると、その主人公が一体どんな人間で、どんな行動を取るのか、明確にイメージが湧きやすいので、気に入っています。
例えば、真面目な主人公ならきちんと山や天気の下調べをして、荷物も事前に準備し、前日にはしっかり睡眠を取るでしょう。当日は体力と時間の配分を考えながら、設けられたチェックポイントを規則的にクリアしていくと思います。
ただ、もし主人公が型破りな人物だった場合、下調べも荷物も準備せず、行き当たりばったりで山に登ろうとするかもしれません。さらに当日は、気になるものを見つけてふらふら獣道に入り込んだり、こちらのほうが近いじゃないか!とばかりに山道をショートカットしてチェックポイントに向かったりするかもしれません。いや、ひょっとするとロープウェイも使うかも。
あるいはこの二人を一緒に山に登らせてみたら、一体どんな話をして、何をやらかしてくれるのか……。
といった具合に、このやり方だとある程度プロットの要請に従いつつも、各人物が自由に動いてくれるので僕は気に入っています(……とは言いつつも、なかなかキャラが勝手に動き出してくれるなんてことは少なくて、大抵は「こいつこういうとき、何考えて、どう行動するんだろ」と唸りながら考えているんですが)。
ただ、なかにはキャラクターがピーキーすぎて、そもそもチェックポイントを通過しようとしない人物もいます。残念ながら、そういう人物は出せない、ということになります。ただそういう人物にしか登れない、別のストーリー、別の山があるかもしれないので、そちらを考案してみるのもいいと思います。
さて、皆様お気づきでしょうか。
僕は先に、物語とは、「どんな問題を、どのように解決するのか」だと言いました。
が、ここで謝らなくてはいけません。すみません。実はそれは嘘です。嘘というのは言いすぎだとしても、それだけでは片手落ちなのです。
なぜならさっきの山登りよろしく、結局のところ物語とは、プロットが同じでもどんな人物を登場させるかでまったく別のものに様変わりしてしまうからです。
つまり物語の正体とは、
「どんな人物が、どんな問題を抱え、どのように解決するのか」
なのです。
というわけで、いよいよ肝心になってくるのが登場人物の作り方になるわけですが。
……といったところで、今回はここまで。
次回「推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります③ 登場人物編」に続きます。よろしければお付き合いください。
『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』
「語り手の作家が、ド変人の探偵とともに巻き込まれた事件を小説化していく」というメタフィクショナルな仕掛けも「つかみ」の本格ミステリです。本記事とあわせて読めば、推理小説の作り方がもうちょっとよくわかるかも。なにとぞよろしくお願いします。
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