
#9 2023年上半期、最高の一問
アクセスしていただきありがとうございます。
気がつけば7月。2023年も下半期に突入しました。
少し気は早いですが、今回は2023年の上半期に起こった主な出来事を振り返ってみます。
1月、箱根駅伝で駒澤大学が優勝、前年の出雲駅伝と全日本大学駅伝と合わせて学生駅伝三冠達成。
2月、日本で飼育されていたパンダ、上野動物園のシャンシャン(香香)と和歌山県アドベンチャーワールドの永明(えいめい)、桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)が中国に返還。
3月、WBC(ワールドベースボールクラシック)で侍ジャパンが2009年以来の世界一奪還。
4月、日本銀行の新しい総裁に植田和男が就任。
5月、G7広島サミット開催。
6月、将棋の藤井聡太が名人戦を制し史上最年少での七冠達成。
いずれのニュースもクイズのネタとして掘り下げられそうなものをピックアップしました。では、上半期に放送されたクイズ番組を振り返ったとき、特筆すべき最高の一問は何か。強いて挙げるならば、5月22日放送の『ネプリーグ』(フジテレビ)の「ハイパーボンバー」を推薦いたします。
5月27日放送の『ハモネプ』告知のため、その番組の出演者で構成されたチームに出題されたのは、一般的にアルファベット三文字で何と略される言葉か答える問題。例えば、格安航空会社はLCC(Low Cost Carrier)、アメリカ連邦捜査局はFBI(Federal Bureau of Investigation)、排他的経済水域はEEZ(Exclusive Economic Zone)というように答えていきます。その中で難易度が比較的高いとされている⑩番の問題は「ポリメラーゼ連鎖反応」。聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、この数年、誰もが一度は経験したことがあるはずです。案の定、これが最後まで残ってしまい、解答者は折り返しでアンカーとなった一番枠、原田泰造。“ポリメラーゼ”という単語から一文字目を“P”と推理するも、残り二文字が解らずストップ。片っ端からアルファベットを埋めていく作戦に出ますが、無念のタイムオーバー。その直後、原田とともに二番枠のチョコレートプラネット・長田庄平が何かに気づいた様子で、すかさず“PCR”と解答。そう、正解は新型コロナウイルスの感染拡大で広くその名が認知された検査方法「PCR」(Polymerase Chain Reaction)です。
長田「オレら今までポリメラーゼ連鎖反応やってたのか」(スタジオの笑い)。
実は広辞苑第七版には「PCR法」と「ポリメラーゼ連鎖反応法」という見出し語で記載されています。
ポリメラーゼとはDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)などの核酸を合成する酵素の総称です。人の細胞やウイルスなどの生物もDNAとRNAの遺伝子で構成されていますが、塩基と呼ばれる配列がそれぞれ異なるため、もしヒトがウイルスに感染していれば、感染した部分の遺伝子の配列が変わります。その変化したところからウイルス特有の遺伝子を見つけるのが、PCR法です。遺伝子は高温になるほど配列が増えていきます。その増えた分、ウイルスに感染した遺伝子を発見しやすくなる、という仕組みです。


新型コロナウイルスは図2のRNAウイルスであるために、一度一重らせんのRNAから二重らせんのDNAに合成した後に、図4で紹介しているRT(リアルタイム)-PCR検査にかけられます。高温に熱せられた遺伝子は2倍、4倍、8倍と倍増していく際、図4の蛍光検出が一定以上に増えると、陽性判定を受けることになるのです。




日本国内で初めて感染者が確認されておよそ三年半。その間、ニュースやワイドショーで早急なPCR検査の拡充が声高に叫ばれた時期もありましたが、その“PCR”が一体何を意味しているのかは二の次とされた感さえあった状況を経て、上記の問題が出題された放送日は、厚生労働省が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、外出自粛の要請や入院勧告などの厳しい措置を取ることができる「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ扱いとする「5類」に引き下げられてちょうど二週間が経過した日でもあります。出題された形式、タイミング、誰かに喋りたくなる要素、すべてが絶妙なバランスを保っていた、2023年上半期の「最高の一問」と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
これから下半期、クイズ番組でどのような良問が出題されるのか、そして夏の大きなイベントに位置付けられている、『東大王』(TBS)の「クイズ甲子園」や『第43回全国高等学校クイズ選手権』、通称『高校生クイズ』(日本テレビ)の放送を控え、予選会が始まっています。全国のクイズを愛する高校生たちの活躍が、どのような盛り上がりを見せてくれるのか、期待しましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。よろしければ“スキ”登録お願いいたします。
その他の参考文献・記事
『日本大百科全書 ニッポニカ』 小学館
『ブリタニカ国際大百科事典』 ブリタニカ・ジャパン
また時事通信、NHKのニュースサイト、北海道大学病院のHPを引用いたしました。