逢いたい菜【ショートショート#40】【440字】
その八百屋に昴が寄ったのは、奇妙な野菜を見かけたからだ。『逢いたい菜』という小ぶりな青梗菜のような野菜だ。一緒に食べた相手と相思相愛になれる幻の野菜らしい。片思いしてる同僚の樹里を思い浮かべて、まさかと思いつつ夢心地になった。
ルームシェアしている友人に食われぬよう冷蔵庫の奥にそれを隠す。週末に樹里を招いて中華炒めにして振る舞うつもりなのだ。
その日、滅多に料理しないルームメイトが夕飯を作ったというので、昴は喜んでその五目焼きそばを口にした。細かく切った青菜に気づいた時には遅かった。
「へぇ良かったね! 応援するよ!」
お互いに離れようとしない昴たちを見た樹里は、素直に祝福してくれた。
効果は一生続きます、と店主が告げる。おいおい、嘘だろ……。
「もし別れたいのなら『つれない菜』という野菜もございます。ただしウチでは取り扱ってませんね」
「どこに売ってるんだ」
「『逢いたい菜』が標高二千メートルの断崖絶壁でしか採れないのに対して、『つれない菜』は海底二千メートルでしか採れない海藻の一種なんですよ」