ショートショートの駅 The Station of Short Stories

5分で読める1500~2000字ほどのショートショートを投稿中。

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#8 世界の終わりをファミレスで

   ある郊外の住宅街に、ひっそりと建っている古めかしいファミリーレストラン。  築50年以上は経っているであろう外観だ。  看板にはこうある。 「カフェ&レストラン 異人亭 SINCE 1960 」  日本で最初のファミレスが1970年開業だから、それよりも10年も古い。  午前11時。そろそろお昼時だ。  先日、仕事をやめて毎日ぶらぶらしている新庄ゆりは、散歩中に偶然見かけたこのファミレスの扉を開けた。 「いらっしゃいませ。おひとりですか?」  赤い着物に

    • 一流の爆弾魔【ショートショート#30】【457字】

       俺は、モニターを食い入るように見つめていた。モニターには不審な男が映っている。何日も洗っていないであろうギトギトの髪を帽子から覗かせていた。その男は、こそこそと何かを高層ビルの各階に設置していく。 「たのむぜ。木っ端微塵に吹き飛ばしてくれよ」  そのビルは昼間にもかかわらず静まり返っている。時折、外で地響きのようなズーンズーンという音が聞こえてくる。男は額の汗を拭きながら慎重に爆薬をセットしていった。 「さすがだ。この状況で顔色一つ変えないとは……」  そして、男が後ろを

      • 降りてはいけない駅 後編(ショートショート#29)【1500字】

        「いやぁぁぁぁっ!」  真依はスマホを思わず放り投げた。 「何なの……誰なのよ……」  耳を塞いでいても着信音が絶え間なく響いてくる。うずくまって頭を抱えているとメッセージの着信が止んだ。  真依は恐る恐るスマホを拾い上げる。衝撃でガラスがひび割れてしまっている。ため息をついてカメラロールを立ち上げた。 「私が何をしたっていうのよ……」  ついさっき撮影した数十枚の写真のサムネイルをスワイプする。よかった。データは消えてない。 「あれ……?」  そのうちの一枚

        • 降りてはいけない駅 前編(ショートショート#29)【1600字】

          「え、ちょっと待って」  真依の目の前で電車の扉が閉まった。彼女は、無情にも走り去っていく車両を呆然と見送るしかなかった。  スマホのカメラを手に構えながら、しばらく口を開けたままでいる。振り返って〈九泉駅〉と書かれた駅名標を確認する。それは、真依の利用している都営地下鉄のどこにも存在しない駅だった。  荒木真依は、高校時代から軽音部に所属していて、カバー曲に飽き足らず作詞作曲にも手を染めている。そのマジメすぎる姿勢からメンバーと衝突することも珍しくない。今日も、練習を

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          コドモダマシ(ショートショート#28)【1200字】

           視察団をのせた銀色の宇宙船が、緑の惑星に降り立った。彼らは、宇宙の植民地を見回り、環境や農業に異常がないかを確認する任務を担っていた。  降り立ったのは、黄金の小麦畑がどこまでも広がるプランテーションの一角だ。団長の壮年の男は、地平線まで広がる小麦畑をながめて、にっこりと目を細めた。 「どうやら順調のようですね」部下の男が言った。無言で頷く団長。  すると、畑の中から小さな顔がひょっこりとあらわれ、続いて小さな子供たちが次々と視察団の前に姿を見せた。 「歓迎してくれ

          コドモダマシ(ショートショート#28)【1200字】

          ハロウィンの怪/吸血鬼に恋を応援される話(ショートショート#27)【2600字】

           俺はため息をつき、目の前の小石を蹴とばした。  夜の繁華街は、魔女やゾンビや狼男の笑い声で充満している。いまは、派手な仮装に身を包んだ若者たちが浮かれ騒ぐハロウィンの夜。そんな中、俺はただ一人、普段どおりの格好をしていた。  向かっている先は、大学のOBがやっているバーだ。  今日は、そこで仲間たちとパーティをする予定なのだ。最近気になっている女の子も、参加することになっている。にもかかわらず、コスプレもせずにそこへ向かっていた。  パーティの日取りが決まったのが、

          ハロウィンの怪/吸血鬼に恋を応援される話(ショートショート#27)【2600字】

          秋、消息不明(ショートショート#26)【2400字】

           日曜日の朝、秋が姿を消した。秋とは、小学校三年の息子の名前である。私が子ども部屋へ起こしに行くと、ベッドはきれいに片付いていて、愛用のリュックも消えていた。  すぐさま夫を叩き起こして、緊急会議を開催するも、心当たりはないらしい。こっそり家を抜け出して、友達の家に泊まっているだけだろう、と不機嫌そうに夫は言う。  話し合うこと小一時間、私はあることを思い出した。  ……そして現在。  私たちはミニバンに乗って高速道路を爆走している。助手席には夫。外は悪天候で、小雨が

          秋、消息不明(ショートショート#26)【2400字】

          殺し屋ファンクラブ(ショートショート#25)【2100字】

             ようこそ、お越しくださいました。さあさあ。どうぞ、こちらへおかけください。  さて、今回のご依頼の結果をご報告します。佐藤様。あなたは1ヶ月前にあるターゲットの暗殺を依頼されましたね? ターゲットの名前は、高橋涼介。  彼は、最近人気のある某男性アイドルグループのリーダーだそうですね。ええと、グループ名は、「The Beast(ザ・ビースト)」。ずいぶんと野性味のあるネーミングだ。  とにかく、あなたは彼の暗殺を私に依頼した。動機は何でしたか。  そうそう。彼は

          殺し屋ファンクラブ(ショートショート#25)【2100字】

          プラネタリウム、冷えてます。(ショートショート#24)【2000字】

           おれが仕事帰りに時々見かける奇妙なのぼり旗がある。のぼり旗といえば、「営業中」とか「ビール、冷えてます」とか書いてあって風にはためいているアレだ。  最寄り駅の繁華街の裏通りに、その変な旗はあった。 「プラネタリウム、冷えてます。」  氷山とペンギンのイラストが涼しげなデザインだが、一体どういう意味だと思う? 店の名前は「BAR PLANETARIUM(バー・プラネタリウム)」。  おれは帰り道に見かけるたびに気になって仕方がなかった。でも、酒に弱いからとか、ボッタ

          プラネタリウム、冷えてます。(ショートショート#24)【2000字】

          愛のムチ(ショートショート#23)【2200字】

          「奥さん、いいですか。私に言わせれば、今の世の中は若者に甘すぎる。引きこもりやニートは甘えです。体罰は時代遅れだと言う人もいるが、そうは思わない。体罰は暴力じゃありません。愛のムチなんです」    ***  閑静な住宅街に、典子が住む一軒家がある。5年前から部屋を出てこない息子と二人きりで暮らす典子は、今日、とある人物と会う約束をしていた。  インターホンが鳴る。モニターには真っ黒に日焼けした白髪の初老の男が映っていた。玄関のドアを開ける。輝くような白い歯を見せて、男は笑

          愛のムチ(ショートショート#23)【2200字】

          異世界転生保険(ショートショート#22)【1700字】

           余命半年と宣告されたとき、コウタは天にも昇るような高揚感に包まれていた。まるで宝くじで三億円当てたような喜びだった。もちろん、医師の前では神妙な顔をしていたのだが。  ***  それから一週間後の夜、マンションのリビングでコウタは一人、妻と娘の帰りを待っていた。  窓ガラスに映った自分の姿がカーテンの隙間からのぞく。少し疲れた表情をした中肉中背の三十代の男の顔がそこにあった。すると、 「ただいま」 「ただいま、パパ」  妻のちとせと娘のカナの声が玄関から響く。ち

          異世界転生保険(ショートショート#22)【1700字】

          推しに届け(ショートショート#21)【2400字】

          「あら、亜実。もう八時じゃない。紅白、観ないの?」  母がキッチンからお盆をもって現れた。  お盆には年越しそばが二つ。母と私の分だ。お出汁のいい香りが一人暮らしのせまい部屋に満ちる。コタツの上に場所をつくるため、散らばった書類を片付ける。 「もう大晦日なのに、まだ仕事?」 「うん。中三のクラスの内申書のチェック。これだけはいい加減なこと書けないし」  書類をまとめて仕事用のファイルケースにしまった。母が部屋の隅のショッピングバッグをちらっと見る。ライブ用にデコレー

          推しに届け(ショートショート#21)【2400字】

          楽園の入居希望者(ショートショート#20)【1900字】

          「お待たせ、待った?」  先輩が向かいの席に座った。  カフェテラスはガラス張りの壁から差し込む光でまぶしい。カフェといっても、普通の店ではない。群馬県に去年建てられた世界最先端の科学施設、その内部に併設された職員用のカフェである。 「全然です。ついさっき着いたばかりです」  本当は待ち合わせ時刻を三十分以上過ぎている。だが、鷹野先輩が時間にルーズなのをよく知っているので何も言わない。研究に夢中になると時間を忘れるタイプの女性なのだ。 「それで、今日だったよね。採用

          楽園の入居希望者(ショートショート#20)【1900字】

          七夕とオアシスの夜(ショートショート#19)【1900字】

           もうすぐ夜の帳が降りようという時に、キャラバンがオアシスに辿り着いた。  だが、長旅の疲れを癒す暇はない。今日は年に一度の星祭りの日だから。  天の川をはさんで遠く離れた二つの星が今日だけは会うことを許される。飲んだり食べたり歌ったりと星空の下で夜を徹して大騒ぎする。  ラクダから降りてそれぞれが宴の準備に入るなかで、ぽつん、と一人の男が佇んでいた。  一人だけ褐色ではなく、黄みがかった白い肌をしている。迷彩柄のパイロットスーツを着て。 「鳥、何をしている。自分が

          七夕とオアシスの夜(ショートショート#19)【1900字】

          #18 続・羅生門【1700字】

          【あらすじ】 仕事を失った下人は、羅生門で出会った老婆の身ぐるみを剥いで盗人になった。だが、盗人の才能がなかった下人は困ってふたたび羅生門の楼に上がっていく……。  「おい、そこの老婆。この羅生門の楼で何をやっているのか。ここは勝手に寝泊りしてよい場所ではないぞ。さっさと出ていけ」  ある日の昼下がりの事である。  羅生門の楼を見回りにきた役人を目にして、老婆は飛びあがった。 「ひっ。申し訳ありません。一晩ここで野宿させてもらっただけでございます。すぐに出ていきますゆ

          #17 ヴァンパイアと梅雨【1600字】

          「どう? 直りそうかい?」  脚立の下から、心配そうに美智子が訊いてきた。 「ええ。あと少しで補修は終わりますよ。もう雨漏りはしません」  脚立に足をかけて、屋根裏に開いた穴をチェックしながら、作業服の赤井が答えた。  赤井は懐中電灯を消して、脚立から降りる。 「野崎さんは下で待っていてください。もう少しかかりますから」 「そんなことできないわよ。梅雨の季節に急な雨漏りで困ってたところに、タイミングよく業者さんが来てくれて助かったのよ。ありがたいわ」  腰のまがっ

          #17 ヴァンパイアと梅雨【1600字】