フロレンティア13 スイス LUGANO(ルガーノ)Ⅱ

イタリア行きの国際列車の中、コンパートメントには俺の他は初老の女性1人いるだけだった。もうすぐイタリアの国境ルガーノに到着する。俺は目的であるイタリアへの入国スタンプをもらう為、この同じコンパートメントの女性に尋ねてみた。
『すみません、どうやってパスポートにスタンプもらうんでしょうか?』
するとこの女性、あきらかにアジア人である俺をいぶかる様子で何も答えることなく車掌を呼ぶのだった。
「この男が・・・」

『いえ、ちょっと待って下さい。俺はただどこで入国スタンプがもらえるか聞いただけで・・・』

「降りなさい」
車掌は厳格な態度で俺に詰め寄った。

『はあ・・』
その時イタリアに入る手前、国境スイスのルガーノの駅に列車は到着し、俺は降ろされ駅構内にある派出所に連れていかれた。それでも俺はもしやここでパスポートにスタンプを押してもらえるのかとも最初は思おうとしたが、俺ひとり連れていかれているのだからやっぱり違うのだろうと甘い考えを捨て始めた。

『すみません、どこでパスポートにスタンプを押してもらえるのですか?』
中年の警官は俺をいちべつしてパスポートを取り上げ、中を見る。
「ほう、中国人じゃなく日本人か?イタリアに行くのかね。で、滞在許可証はあるかね?」
『え、滞在許可書ですか?いえ、ないですけど。』
「ない?」
そう、このPermesso di soggiornoと呼ばれる滞在許可書があればこんなところまでに来る必要ない。だから俺がそんなものを持っているはずがなかった。

「イタリアには入国できないね」
『え、どうしてですか?俺はイタリアに住んで学校に通っています。』
「じゃあ学生ビザがあるはずだろう」
俺は何も答えることができなかった。

「・・・学校はどこかね」
『FIRENZEにあるCentro ponte vecchio scuola ですが』
「ちょっと待て」
この警察官は地図とリストのようなものをだし、調べている。
そして次に彼が発した言葉に俺は耳を疑った。

「いや、存在しないね」

『そ、そんな 学校はちゃんと存在しますよ。俺は嘘など言ってない』
イタリアにはもう入国できない。俺は目の前が真っ暗になった。



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