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フロイト入門まとめ② 誘惑理論の放棄
コレの続きです。中山元著『フロイト入門』のまとめ第二弾。
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第三章 夢とヒステリー
第二章では、無意識の存在を示す重要な現象として「神経症の症状」と「失錯行為」の二つが語られました。次に検討するこの「夢」というのも、同様に無意識の存在が大きく関与してできたものなのです。
「神経症」とは、想起することが不愉快な心的な外傷を抑圧しようとする無意識の働きと意識との葛藤が身体的に症状として表現されたもので、「失錯行為」もまた、無意識のうちに抑圧された欲望と意識との葛藤が、日常生活のうちに生み出した現象。そして第三の現象である「夢」とは、我々が日々無意識のうちに抱く欲望とそれを抑圧しようとする意識との間で、一つの妥協として作り出されるものと言える。
フロイトはこの「夢」を分析することに、神経症の治療を行うための重要な手がかりを見出します。
夢解釈の歴史
まずは夢解釈の歴史について。
古代において夢というのは「人間の行為を導く神の贈物である」と信じられてきたものであり、それに対して現代では生物学的な手法によって「夢」が科学的に研究されるようになりました。
1900年に発行された『夢解釈』という書物の第一章でフロイトは、このように古代の夢理論と現代の夢理論とを対比させており、さらにこの書物の内容を要約した1901年の論文『夢について』の中で、現代の夢理論における三つの流れを指摘しています。以下はその要約です。
哲学者の理論
第一は古代の理論を受け継いだもので、主に現代の哲学者たちが信奉している「夢の生の根底にあると考えられているのは、心の活動の特別な状態である」とするもの。これは夢の”哲学的”な理論。
医者の理論
第二は医者たちが信奉している医学的な理論であって、「夢を引き起こす原因は、眠っている人に外部から与えられる刺激であるか、眠っているうちにその人の内的な器官が動き始めたために与えられる感覚的な刺激や身体的な刺激である」としています。これは夢の”医学的”で”生理学的”な理論。
一般大衆の理論
第三に挙げられるのは一般大衆の流れで、「夢は未来を予言するものであり、そこに意味がある」という考え。これは古代のギリシア以来「夢判断」として重要な流れを形成してきたもので、夢を解釈するためには、夢がその人に何を語ろうとしているかを明らかにする目的で謎解きをするか、夢の象徴を分析する必要があると考えるもの。これは夢の”解釈学”の理論。
これら三つの流れの中でフロイトは、治療を目的とした精神分析において夢を解釈するには、第三の「一般大衆の理論」の考え方が最も適切だとしています。ただしこの『夢解釈』という書物は伝統的な夢占いや夢判断とは違い、夢を「無意識が告げる一つの謎として解釈していく」手法と実例を示すことが目的で、その際にフロイトは、夢の現象というのは夢を見た主体の無意識の表れであり、あたかも神経症の症状であるかのように分析する必要があると指摘しています。
誘惑理論の放棄とフロイトの自己分析
当時フロイトが神経症患者の治療を本職とした医者だったことは前回の記事でも触れましたが、その際に彼が特に重視したのは「誘惑理論」と呼ばれる仮説でした。
フロイトが精神分析を行った患者の多くが幼児期に近親の者から性的な誘惑を受けた記憶を語るため、それが神経症の原因になっていると考えこの理論を提起。1896年から1897年にかけてフロイトは、神経症発症の原因の多くは基本的に父親からの誘惑や性的な濫用によるものだと主張しました。
しかし彼はまもなくこの誘惑理論を放棄することになります。分析を重ねるにつれて、そのすべての人々の肉親が、特に父親がそのような倒錯者であると考えるのは妥当ではないと感じ始めたのです。そして何よりもフロイト自身、自らが神経症に病んでいることを自覚していたものの、自分の父親がそのような倒錯者であるとは信じられなかったのです。
そこでフロイトが取り組んだのは、自分を分析することでした。ただここでフロイトは自己に精神分析を実行して自分の無意識を直接分析することを諦め、無意識の産物である「夢」を分析することに。それによって自分の神経症の原因を突き止め、父親による誘惑という自分の理論が正しいのかどうか考察することを試みたのです。
結果としてフロイトは前に述べた「誘惑理論」を放棄せざるを得なくなるのですが、この分析によって分かったのは「患者たちは子供の頃に両親から性的に誘惑されたのではなく、反対に子供が両親に性的な欲望を抱いたことが、こうした偽りの記憶を作り出す原因となっている」ということ。そしてこのような偽造された記憶は、幼い子供と両親との関係につきものである「エディプス・コンプレックス」が生み出したものだと発見し、結論付けました。
最後に
エディプス・コンプレックスについてはまた次回以降に。文字数の関係でまだ決めかねていますが、フロイトが提唱した「第一局所論」や「第二局所論」などの心のモデルについてもまとめたいと思っています。
以上です。読んでくださった方ありがとうございます。