サステナブルな探究学習を目指して。「問いを立て、考える力」とは【海星(三重)連載 後編】
「探究学習を取り入れる目的は何か」ー。自らの進む道を、自らの考えをもって歩んでほしい。その願いのもと、10年以上も前から探究学習に取り組む、三重県四日市市の私立・海星高校。
継続的な探究学習で培われた経験の上に、今年、新たな独自の探究プログラム「地域創生部」が誕生しました。グローバル社会が進む中で、なぜ今、地域創生なのか。プログラムではSDGsを軸に、全ての人が「笑顔」になり、四日市が世界一サステナブルなまちになるアクションプランの提案をミッションに掲げました。
プログラムの最終報告会を経て感じた生徒たちの成長と課題点、そしてさらなる同校の探究学習の発展などについて、中瀬修介教頭と、プログラムを担当する瀬川智紀教諭にうかがいました。
「普段見られない表情や言動」に手ごたえ。共創が生む新たな学び
「普段の学校生活では見られないような表情や能力、言動、そういうものを発表やその準備の過程でたくさん見つけることができました。よい最終報告会になったと思います」と、笑顔を見せる中瀬教頭。その表情からは、生徒たちの成長に確かな手ごたえを感じていることが伝わってきました。
探究プログラム「海星地域創生部」を通して、同校が育てたい生徒像は3つ。
・楽しみながら取り組み、目の前のことをおもしろがる。
・地域での出来事や地域特有の問題に関心を持つ。
・自分の頭で考えて、自分の言葉で語り、発信する。
これらの生徒像をもとに、半年間にわたって生徒一人ひとりがミッションと向き合いながら、地元四日市の課題を自分事として捉え、チームメンバーと協力しながら発表へと取り組みました。
プロジェクトを通して、活動や発表に優劣をつけるのではなく、それぞれのグループが取り組む内容に対して評価することで、プロジェクトに競争ではなく「共創」の雰囲気が芽生えました。
「目指すべき探究学習のカタチに近づけたと思います。今後も進化を続けていきたい」と、プロジェクトを担当する瀬川教諭はさらなる探究に意欲を見せていました。
探究学習で見つける学びのモチベーションを目指して
「これだ! これを海星でやってみよう」
同校の探究学習へのきっかけは、雑誌で見つけた小さな記事でした。2007年に着任した瀬川教諭が見つけたその記事には、都内の女子高が取り組む探究学習の様子がつづられていました。記事から伝わってきたのは「自らの頭で考え、自らの言葉で語る」という探究学習の本質でした。
「いい大学に進学させることがこの学校の目的ではないと私は考えます。中高という大切な時間を通してたくさんのことを学び、人生で一番長い社会人の時間を豊かにしてほしいと願っています。
学びの中で、行きたい大学が見つかり、志望校合格に向かって勉強のモチベーションが上がっていく。それが理想的。そのモチベーションのエネルギーとして探究学習を活用したいと思いました」
記事をもとに、探究学習について調べ、辿り着いたのが教育と探求社でした。すぐに同僚と共に教育と探求社が主催する都内のイベントに申し込み、探究プログラムを視察、体験。その期待値と内容を学校側へ伝え、「まずは一クラスで…」と海星での探究学習の導入が始まりました。
多様な意見が交わる場。「海星地域創生部」はSDGsそのものだ
一クラスから始まった探究学習は、生徒たちの好反応や教員側からの支持を得て、今や中学1年から高校2年までの5年間に及ぶ壮大な学習体系が確立されるようになりました。瀬川教諭は「新しいものを取り入れても、長続きしないのであれば意味がない。継続により海星の学びのベースが出来上がりました」と、これまでの探究学習の歩みを話してくれました。
継続できた理由として、プログラムにはフォーマットがあり、ガイドラインに沿って学習を深めることができること。授業に部活に…、毎日忙しい教員としての業務の中で一からプログラムを作るのは至難の業。型があることで大幅な時間短縮と労務軽減につながったそうです。
16年度からは四日市市とともに探究型SDGs学習を展開。さらなる海星独自のプログラムへと進化することを目指し、教育と探求社の協力の下、22年度から新たな探究プログラム「海星地域創生部」をスタートさせました。
中瀬教頭は、新探究プログラムの導入のメリットについて、「外部からの刺激」をポイントとして掲げています。
「メンター(指導者・助言者)として、地元企業の役員や社員、そして教育と探求社のコーディネーターが学習プログラムに参加することで、生徒だけではなく教職員にとっても学びが多い。
ビジネス的な視点からの考察、最新のSDGsの考え方など、たくさんの情報を学内に取り入れることができます。知らないもの、こと、人が現れると誰しもワクワクしますよね、空気が変わるというか、いい意味での期待感と緊張感が教室内に生まれます」
地域を巻き込んでこそ理解の深まるプログラム、学外の意見や考察の重要性がその質を高めているようです。多様な人が参加し、さまざまな意見を出し合う中でゴールを目指す。「海星地域創生部」そのものが、SDGsな活動だと言えそうです。
“考える”を培ってほしい。その力が未来を拓く
「もっと海星の探究学習に興味を持ってもらえるようにしたい」。瀬川教諭は、さらなるプログラムの発展を目指しています。校外での出前授業やイベントなどでも探究学習をベースとしたワークショップを開くそうです。
「あなたにとってなくなって困る会社とは?」。イベントなどで出前授業を行う際によくする質問です。“あなたにとって”が視点の答えでいい。だから答えはみんなの中にそれぞれある、と伝えています。
ここ数年で海星の探究学習に興味をもって入学してくれた子どもたちの数も増えてきました。「まだまだ活動を知られていないんで、より多くの人に海星での学びを知ってもらえるように広めていきたいです」
自分のなかで答えを見つけ、発信する。社会で本当に役立つ力を身に着けてほしい。正解があるようで、ない時代だからこそ、考える力が問われています。海星が取り組む独自の探究学習プログラムのさらなる発展に目が離せません。
(前編はこちら)