「恩恵を受けたのはむしろ私達」。探究学習に“越境”した企業人のUPDATE体験
「社会に出て働くとはどういうことか」「実際の仕事では何を考え、どのように物事を実現していくのか」。
探究学習プログラム「クエストエデュケーション(クエスト)」は、次世代育成への関心が高い多くの企業の協力を得て、そこで働いている企業人の方々が関わっています。特に企業探究コース「コーポレートアクセス」では、生徒が企業人と一緒にアイデアを出し合ったり、議論したりしながら、商品開発や新規事業提案といった「企業からのミッション」に取り組み、その体験を通じて就業観や社会への関心を育んでいきます。
一方で、そのように生徒と関わることは、企業で働く大人に一体何をもたらしているのでしょうか。
今回は、2017年度以来、3年ぶりに2020年度から 企業探究部門「コーポレートアクセス」に参画されているカルビー株式会社の、人事総務本部 櫻井直人(さくらいなおと)さん、コーポレートコミュニケーション本部 駒田勝(こまだまさる)さん、新規事業本部 佐伯千香(さえきちか)さんに、クエストを通じて生徒たちと関わることの意義についてうかがいました。
探究学習に企業人として関わって
1年間、クエストをとおして生徒たちの探求に関わり、いかがでしたか?
佐伯さん:日本の未来は安心だな、と思いました。私が中高生だった頃にはこうした取り組みもなくて、もっとぼんやり生きていたけれど、今クエストを受けている子ども達は、あのピュアな状態で社会を見ることができる。本人たちにとっても、日本にとっても良いことだし、そうした子ども達の中からリーダーになる子が出て来ることを考えると、未来は明るいなと思いました。
櫻井さん:クエストに関わることができたのは、まず自分自身にとってとても良い機会でした。
最初の頃は生徒たちに「教えてあげなきゃ」「フィードバックしなきゃ」と思いながら接していた部分もありましたが、生徒たちやクエストに関わっているみなさんと時間を過ごしていく中で、「大人が正解を持っているわけではない」「歳が上だからえらいわけでもない」、そこで「どう一緒に答えを作っていくか」という姿勢を学ぶことができました。
あと、先生方とお話をしていて、「こんなに生徒の将来や教育に対して熱い想いを持っているんだ」と知って、純粋に感動しました。
駒田さん:私は純粋に、すごく楽しかったです。親でも先生でもない大人が行っても、生徒たちはどんどん話してくれる。カルビーのメンバーは接する人みんながお客様だし、いろんな人とコミュニケーションをとっていかなくてはと思いますので、クエストはとてもいい機会でした。職場の仲間にも「面白いからもっと学校訪問に行け」ってたくさん声をかけて、いろんな人に行ってもらいました。
1年間の探求の取り組みを通じて
カルビーがクエストに参加した理由
カルビーは2020年度から改めてご参画いただきました。クエストに参画することで、どのようなことを期待していたのでしょうか?
駒田さん:SDGsの推進や将来の課題を捉えるときに、「若い世代の人から学ぶ」ということが当たり前に必要な時代になっていると思っています。クエストを通じてそのような意識をチームのメンバーと共有していきたいと思いました。クエストの場は、先生も生徒も、企業人も「一緒にやっていこう」という、フラットな考え方が浸透しているので、学校訪問などでみなさんと関わりながら学ぶことがとても多かったです。
私のチームでは普段、カルビーの取り組みとして小学校を対象に「スナックスクール」という出張授業をやっているのですが、やっぱり「教える側」と「教えられる側」の関係性に固まってしまいがちなので、新しい在り方をとりいれることができました。
櫻井さん:年齢や立場を超えて、社外の方と何かを起こしたり、社外の方から学びを得るということは、カルビーの中でもひとつの大きなテーマだと思っています。最近、企業の人材育成の中でも「越境学習」という言葉がよく使われていますよね。
クエストでは、生徒達はもちろん、先生方や、他社の社員の方など、あらゆる立場の方から学びを得られることが魅力でした。昨年が私が関わった初年度でしたが、私自身も学びをすごく体感しまして、今年度さらに広げていきながら、徐々にカルビーの中でクエストに関われる人を増やしていきたいと思っています。
他社との関わりをとおして学ぶ
越境学習というお話もありましたが、クエストをとおして他の企業の方々との関わって学んだこと、印象的だったことはありますか?
櫻井さん:印象的だったのは、メニコンの方です。生徒たちへのフィードバックに本気で挑んでいて、圧倒されました。
生徒に対しても気を使いすぎたりせずに、改善すべきポイントをしっかり伝え、本質を指摘し、一緒に深いところまで考えていて、「鋭いな」と思うことがたくさんありました。子どもだからとか大人だからとか、その感覚を持たずに向き合っていると感じました。
昨年はメニコンや朝日新聞のみなさんと一緒に学校を訪問することが多かったのですが、彼らのこの取り組みにかける熱量や、生徒達に対する向き合い方には、学ばされましたね。
佐伯さん:私は他社の方とお話していて、社員の方から直接、その会社の理念を聞けたのが印象的でした。メニコンの方から、「ただ見えるだけではなくて、『見る喜び』を大切にしている」という話を聞けたり。他企業がなにを大切にしてなにを目指しているのか、実はなかなか知る機会はないけれど、それを直接聞くと「では自分たちはなにを大切にしているんだろう」と考えさせられたり、心にぐっとくるものがありました。
駒田さん:各社、組織ごとに持ってる空気ってあるじゃないですか。言葉では言い表しにくいけれど、会った瞬間に感じられるその組織独自の空気。私は他社の方とお会いして「真摯で真面目な会社だな」など感じたのですが、それを感じたことで「では、自分たちはどういう空気なんだろう」「親近感がある感じかな、身近な感じかな」ということを改めて考えられたと思います。
学校訪問で生徒たちと関わり見えたもの
1年間を通じて、学校に直接訪問したり、オンラインで生徒たちの発表を聞いたりしていただきました。学校訪問はいかがでしたか?
櫻井さん:僕は、最初の頃はすごく緊張していて、「何をフィードバックすべきか」みたいなことばかり考えていたんです。でも、カルビーの他の社員たちは、自然にそのままの状態で生徒たちと接している人が多くって。「それでいいんだ」と、気づいてからは、僕も自然体で参加するようになりました。
佐伯さん:毎回、「どういう話が出るかな」ってウキウキしていました。「何かを与えよう」「こう見せよう」みたいに固くなることはなく、「生徒たちからのボールをどう打ち返そうかな」ということにはワクワクしてました。
実際に学校訪問をしてみて、どのようなことを感じられましたか?
佐伯さん:「みんなすごいな」と思いました。
特に、中間発表で市川中学校に訪問した際、一番最後のチームで発表がすごい上手な男の子がいたんです。こっちをしっかりと見て「あなたに言っています」という気概を感じました。挑んでくる感じがよかったですね。やり取りも楽しかった。「絶対に届けてやるぞ」っていうガッツがあって、こういう子がカルビーに入ってきてくれたらどんどん変化が生まれていくだろうなと思いました。
駒田さん:私は百合学院高等学校に学校訪問にうかがったのですが、生徒たちとお話していて、本当に疑問に思ったことを素直に聞ける力のすごさを感じました。
ミッションに取り組む生徒たちが、「これどういう風に解釈したらいいの」ってものすごく自然に聞いてくるんです。私は朝日新聞のミッションに取り組んでいるチームにも参加したのですが、生徒に「このミッションの”成熟した若者”ってどういう意味ですか?」って聞かれて、どういう意味だろう、と自分も一緒に考えていました。
そのとき、一人で考え込まずに「どう理解したらいいんだろう」ということを素直に聞けるのがすごく大事だなと感じましたね。大人だと「これって聞いていいのかな」って一瞬考えるじゃないですか。そういった躊躇なく素直に質問できるのが素敵だなと思いました。
生徒たちと関わる中で、学ばされることもありますよね。
櫻井さん:そうですね。生徒たちをみていると素敵だなと思うことがたくさんあります。
クエストカップに出場したチームで、京都光華高校の「美人戦隊カルビーム」というチームがありました。その子たちはセカンドステージには出場できなかったのですが、セカンドステージに出場した、それまでライバルだった新潟県立津南中等教育学校の子たちに、学校のホームページから応援メッセージを送ったそうなんです。その話を聞いて、なかなか出来ることじゃない、すごいなと思いましたし、
新潟と京都でお互い名前も知らないような生徒たちが、クエストをきっかけに自ら交流できることはすごく素敵なことだなとに思いました。
もう一つ印象に残っていることとしては、複数の学校が集まって中間発表をする機会(クエストミーティング)があったじゃないですか。カップに出場した、近畿大学附属広島中学校福山校のチーム「Camabee」もそのとき参加していたのですが、彼らはそこですごく刺激を受けたようで。もともと彼女たちは紙芝居でプレゼンをしていたのですが、発表の形式をぐっと変えて、一気にパワポにしてきたんです。
自分たちの中でそれなりに完成したものを中間発表として持ったつもりだったのに、他の学校のクオリティをみて、「すごいひとたちいっぱいいるわ」っておそらく相当くやしかったり、刺激を受けたんじゃないかな。生徒たちが互いに影響しあって、変化していく姿を見れたのは、色々自分も考えさせられました。
駒田さん:こういうことって、私たちが知らないことでもいっぱい起こっているかもしれないですよね。
クエストカップ全国大会の審査
クエストカップ全国大会の審査では、多くのエントリーの中からカップに出場するチームを決める事前審査、およびファーストステージで企業賞の審査を行っていただきました。審査はいかがでしたか?
佐伯さん:事前審査はなかなか大変でした!意識していたのは、ミッションに入れた「ワクワク」という観点や、探究心だったのですが、資料だけでは子どもたちの熱意を十分に汲み取りきれないこともあり、本当に悩みながら選びました。文字や資料で見ると同じくらいだけれども、どっちかを優位にしなきゃいけないみたいな場面が出てくると、「何を基準にするか」と真剣に考えていましたね。きっとこれは子ども達にとってすごく大事な場面だから、自分の思い切りだけで決めてはいけないと、かなり悩みながら考えて決めました。
駒田さん:当日のファーストステージで企業賞を決めるときにも、すごく考えて。最後、候補を絞ったあとも、どのチームを選ぶのか、本当に最後の最後まで大変でした。もう紛糾しましたよね。決まらないかとすら思いましたね。
櫻井さん:決まらなすぎて、審査時間予定より過ぎてましたよね(笑)
最後に:学校教育に関わるとは
最後に、カルビーの皆さんにとって「学校教育に関わる」とはどのようなことでしょうか?
佐伯さん:そうですね…改めて気づかされたのは、「大人としての責任があるな」ということです。
私が子どもから大人になった時に比べて、ものすごく早いスピードで時代が変化してる中で、普通に企業で働いていると、子どもたちの成長を見守る立場として必要なアップデートが全くできなかったんだなということに気付かされました。よかれと思って言ったことが、古い時代の対応になってたりすることもありますし。
例えば、ある方が生徒に対して「男の子らしい、女の子らしい」みたいなコメントをされていて、それを聞いて私は「あっ、それ言っちゃいけないやつ」って思ったんです。それと同時に「言っちゃいけないやつ」って思ったってことは「今自分もそれ思ってたけど、言わなかったな」ってことに気づかされました。
分かっていたようで分かってないことって実はたくさんあって、子ども達に接することで、鏡を見てしまったような感じと言うか、自分ができていなかったことを実感しました。子どもたちと関わり続けて自分自身をアップデートすることは、大人としての責任だなと思います。
駒田さん:私は、自分の会社での役割としても、会社として全ての年齢の教育に関わりたいという思いがあります。商品のコマーシャルやプロモーションとしてではなく、学びという場で、常にカルビーの社員があらゆる世代の人と接する機会を作っていきたいと思っています。
昔から保育園、小学校への出張授業や大学生の研究などへの協力機会はありましたが、今回はクエストを通じて中学生、高校生と接することができて、すごくいい機会になりました。教育に関わる取り組みは継続することに意味があるとも思っています。「若い世代から学ぶ」を今後も会社として実践できるようにしていきたいですね。
櫻井さん:普段オフィスや在宅で仕事をしていると、お客様の考えていることに目が行きづらくなりがちで。会社の外に出て生徒たちと接することによって、「今の中高生ってこういうこと考えてるんだ」とか「こういう特徴があるんだ」といったことを知ることができるのは、純粋に仕事に活きると思ってます。
その意味では、事業への影響も少なからずあると思うし、カルビーとして教育現場に行くというのは、むしろ我々がすごく恩恵を受けることなんじゃないかなって思いますね。
以前、近畿大学附属広島高等学校 福山校に行った時に、先生から「自分は大学を出て、教員しかやってなくて外の世界を知らないので、皆さんに来ていただくのすごいありがたくて」とおっしゃっていただいたんです。けれども、逆に我々も普段会社の外で起きていることはよく知らないし、その中でも特に教育現場でどういう事が起こっていて、生徒達が何を考えているのか、ということをあまり知る機会がないので、こちらも本当に学ばせて頂いていると思っています。
「一緒に学ぶ」ということを、これからもやっていきたいですね。
駒田さん:全国の生徒の皆さん、先生方、一緒にサポートしている他社の皆さん、これからも一緒に学びましょう!
ありがとうございました!
学校コーディネーター 平岡和樹
この記事は教育と探求社のサイト「クエストエデュケーション」から転載しています。