ハワイ島の圧倒的な不便と圧倒的な温かさ(1)空港編
今、ハワイ島のコナ空港からこの記事を書いている。これからイタリアに向かう。先に出発した夫と合流して村から村をハイキングするツアーに参加するためである。そのことはおいおい書いていくが、昨日から今日にかけて得難い体験をしたのでシェアしたい。
実は昨晩、出発する予定であった。ところがギリギリになってロサンジェルスまで行くフライトがキャンセルになったというメールが来た。もう予約したタクシーも来てしまったので、他のルートでロスまで行けないか交渉しようと空港に向かった。
私は翌朝早朝にロスに到着し、昼過ぎにローマまでの直行便に乗る予定であった。乗り換え時間が10時間もあるのでホノルル経由でロスへ向かうか、シアトルまでの直行便に乗ってそこからロスへ向かうか、または全く別のルートにするか、その交渉をしようと思っていた
余裕を持って空港に来たつもりだがすでに長い行列ができていた。列に加わると人の話が耳に入ってきて、キャンセルの理由は、アメリカ本土から来るフライトが機材に問題のせいでキャンセルとなったので、飛ばす飛行機自体がなかったからだということがわかる。そんな時に備えての予備を用意しておくほど空港が大きくないんだろう。
それに加えてやはり離島の小さい空港というのは便が圧倒的に少ないから、他に振り替えるオプションが少なすぎるのだ。大きめの本土の空港なら他にもたくさんフライトがあるので、一便くらいキャンセルしても色々と振り分けて、その日のうちにほとんどの乗客を目的地につけるよう手配できる。でもコナから出るデルタの夜の便はロス行きかシアトル行きだけである。
さらに後から思うと、誰かをシアトル便に振り分けてしまうと不公平感が出るから、多分みんな翌日便に振り分けているようだ。その時はそんなこともわからず、シアトル便か他の航空会社の便に振り分けてもらえる可能性に望みをかけていた。
それにしても列の進みが遅い。並び始めてから2時間立っても5歩進んだかどうかである。基本、ホテルやタクシーのバウチャーを渡しているだけのはずなのに、なぜこんなに時間がかかっているのだろう?焦ってきて航空会社の人の声をかけると、ともかくこの列に止まれという。
面白いことに大抵の人は結構落ち着いていて楽しそうでさえある。家族や友達と一緒に旅している観光客が多いから、一日滞在が伸びてしかも宿泊代は航空会社持ちでラッキーと思っているのかもしれない。その中で私は一人、焦っていた。すると日系の人と思われる係の人が「どこへ向かうの?」と言う感じで声をかけてきたので少し雑談をした。きっと眉間に皺がよっていて心配してくれたのだろう。その優しさにちょっと心が和んだ。その後も何度か彼は声をかけてきてくれた。
もう一つ驚いたのはカウンターのエージェントたちが笑顔で客に対応していることである。多分、トイレ休憩も取らずに、中にはイライラしている客もいるだろうに本当にゆったりしているのだ。その笑顔は、日本でよく見る礼儀正しいお客様は神様的な笑顔ではなく、自然なものだ。もうちょっと焦ってほしい気もするが、それでもなかなか捌けないお客の列を前に、穏やかに対応できていることに感心した。
コナ空港は開放的な作りで屋根はあるが壁で仕切られていないので、夕方の気持ちの良い夕方の風が吹いてくる。なんだか私もゆったりした気分になり、「まあ、なるようになるさ」とリラックスしてきた。そして周りの人ともおしゃべりしたりしながら待っていた。
と言う話で終わるかと思ったが、待ち時間が4時間を超えると流石に私のイライラがまた戻ってきた。その日にロスに向かうことは諦めたが、デルタからのメールにはコナからロスの便は明日に振り返られていたが、ロスからローマに飛ぶ便は出てこないのだ。待ちながらデルタとITA(ロスから飛ぶイタリアの会社)、さらにこの予約をしてくれたトラベルエージェントに電話をしたが、たらい回しにされて終わった。明日、イタリアに向かえるかさえ怪しくなってきた。
結局、デルタのエージェントと話せたのは5時間近く経った頃だった。やっと話せたと安堵したのも束の間、若くてテキパキとした彼女に「イタリア行きの便はシステムの中にありませんね。私には何もできません。トラベルエージェントと話してください」と言われてしまった。もうイタリア旅行を諦めて、二週間休みを取っているから代わりに日本に帰ろうか???
トラベルエージェントは西海岸にいて夜中1時過ぎの時間である。一応、24時間連絡をとっていい電話番号はもらっているが、電話はせずに明日朝一番に対応してほしいというテキストを送っておいた。するとなんと電話がかかってきた。だが彼女はそれはデルタのエージェントができるはずだと言う姿勢を崩さないので、ともかくデルタのエージェントと話してほしいといい、やっとお客がはけたカウンターに戻って電話を渡した。
二人の間にどう言うやりとりが会ったか分からないが、ルートは違うが翌日イタリアに迎えることになった。列に並んで5時間後のことであった。もうイタリアに行けて嬉しいかどうかも分からない。
ともかく家に戻って寝ようと、タクシー乗り場に向かうがこのキャンセルのせいでタクシー会社もいっぱいである。そこでまた15分ほど待てという。多分、30分は待たないといけないだろう。タクシー乗り場にトボトボと向かうと、空港警察というユニフォームを着たおじさんがニコニコして立っていた。”Hi”と力なく声をかけると、「今日は大変だったね」と返してくれる。
そしておしゃべりが始まった。どういう経過でその話になったのか覚えていないが、彼は大の麺好きで自分で麺を打ち、”dashi”を工夫したスープを作るそうである。ハワイ系のようだが日本の落語家のような雰囲気のあるおじさんは、そんな話を楽しそうにしている。警察としての仕事は大丈夫なのかと思うが、時々カメラを監視しているであろう人から無線が入ってくると急にキリッとした警察官の顔になって対応している。それが終わるとまた漫才師のような人懐っこい顔に戻って彼の麺作りの話が始まる。他の人も入ってきておしゃべりの輪ができた。
カウンターを見ると仕事を得たエージェントの人たちもおしゃべりをしている。多分、彼女たちも最低6時間はほとんど休みなしに働いているはずなのにニコニコして楽しそうである。ハワイのシステムは機能不全だけど、人間関係は温かいもので満ちているのだと感動してしまった。夕方6時頃に着いて出たのは夜中の12時頃であったが、疲労の中にも一抹の暖かさがあった。
そして翌日ももう一つエピソードがあるのでそれは次の記事に書きたい。(ちなみに今は無事イタリアに着いている。)