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子鹿に道を訊かれる
アメリカの田舎に住んでいるので素敵なカフェやショーウィンドウを見ながら散歩ということはない。ただ自然は豊かでアメリカらしい雄大な景色を背景に、野生の七面鳥、ハゲタカ、キツツキ、うずら、鹿、野うさぎ、アライグマ、時にはクマに会うこともある。
今の時期は春に生まれた動物の子どもたちを見るのが楽しい。特に子鹿は本当に可愛い。春先だと「子鹿のバンビ」そのもので歩き方もぎこちなくて愛くるしい。今はずいぶんしっかりとしてくるが、やっぱりお母さん鹿からは片時も離れないようにくっついて歩く。「シングルマザーのお母さん、本当に頑張っているなー」といつも感心する。
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ところで先日、いつものようにのんびり散歩をしていると、後ろから鹿が猛烈な勢いで走ってくるのが聞こえた。振り返るとお母さん鹿が先頭を走り、その後ろを二頭の子鹿が追っている。多分、スピードを出した車に驚いてダッシュしたのだろう。そのまま三頭はすぐ脇の林に走り去った。
こんなに必死に走っている鹿を見たことがなくて、たまたま近くを歩いていた人と、「びっくりしましたね」と言葉を交わし合い、また歩き出した。
しばらく歩いていると、この度は「ポコポコ」と可愛い足音が聞こえてきた。なんと遅れをとった三頭目の子鹿だった。怖がらせたくないのであまり子供を見ないようにしながら撮ったのがこのビデオだ。(youtubeに初めてあげたので色々、改善の余地ありです)
https://youtube.com/shorts/HmEDMdRxBcw?feature=share
ビデオに見えるように、私の前を通り過ぎてお母さん鹿たちが走って行った林に向かった。「あー、よかった」と胸を撫で下ろしたのも束の間、その子鹿が私の方に戻ってきてしまった。「え、どうしよう!」と焦っているうちに、その子鹿は私の近くまで来て、「私のママたちはどこにいるの?」とでもいうような顔をして私を見上げる。本能的に頼れるのは私しかないと思ったのだろうか?
ともかくこの辺りの鹿は、奈良の鹿のように人に近づくことはない。想定外の事態に私も慌てて、「あっちに行ったよ」と林の方を指差すがそれが伝わるわけもない。「助けて」とでも言うように、つぶらな瞳で私を見つめている。仕方ない、心は痛むが子鹿が林に向かうように追い払った。子鹿は慌てて方向を変えて林の方に走って行った。
ドキドキしながらしばらく子鹿の走る先を見ていたら、お母さん鹿が反対側から姿を現し、無事に再会を果たした。「あー、よかった!」田舎暮らしでもドラマは尽きない。