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黒人の旅行書グリーンブックでは、ガソリンスタンドの物置がホテルだった
<バーアテンダント>
映画「グリーンブック」(2017)を観て、驚いたことがある。
”グリーンブック”という有色人種向けのガイドブックがあったことを
初めて知った。
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奴隷が解放された南北戦争後1936年から、公民権法が成立した1964年まで使われていたそうだ。
当時は、有色人種を公然と差別してもいいという”ジム・クロウ法”があり、
ホテルもガソリンスタンドも別、国立公園の入口まで違っていた。
野球選手や芸能人にとっては、旅行先での無用なトラブルを避けられ、
グリーンブックは悲しいほど役に立った。
映画「グリーンブック」は、1962年の実話を脚色したものです。
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ジャマイカ系ピアニストが、イタリア人運転手を雇って、
グリーンブックを使った8週間のコンサート・ツアーに出た。
NYに戻ってきた時には、二人の距離が縮まり、友情に変わり、
お互いをたたえ合う関係になっていた。
”理解と敬愛が、人種差別をなくす”という美しい教訓に触れる。
2018年のアカデミー作品賞に「グリーンブック」が選ばれた。
しかし、ピアニストの遺族からは「ツアー後も二人は打ち解けていなかった。映画は、事実ではない」と指摘があった。
事実を曲げて、”綺麗事”にしないでほしいとのクレームだった。
エンターテイメント性を優先するハリウッドへの警鐘とも言える。
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話はわき道にそれるが、アフリカ人留学生の話。「あからさまに一番ひどい人種差別を受けたのは、アメリカの黒人学生からだった」と言っていたのを思い出す。”俺たちはアフリカから来たが、お前たちと違って、文明社会にいる。お前たちのように、猿と同じ暮らしはしていないぜ”とアメリカ黒人の顔に描いてあったと言う。弱者同士でも優劣をつけたがる。理解を深めれば、相互信頼が芽生えるという「グリーンブック」の算数ではない。心理学であり、文学だ。
一貫して人種問題をテーマにして、”綺麗事”にしないのが、スパイク・リー監督。
娯楽中心のアカデミー作品賞を、何度も逃してきた敗因でもあった。
2018年「グリーンブック」の対抗馬になったのが、スパイク・リー監督の
「ブラック・クランズマン」(2018)だった。
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白人優越主義のKKKに、黒人チームが大胆にも潜入捜査する。事実と知っていたのにフィクションだろう、と何度も途中で思ってしまう。
奇想天外というより、決死の実話だった。
相手も疑う。何度も試される。怖い。潜入が成功。資料をFBIに渡して、KKK支部の幹部が逮捕。出し抜かれたことを知ったKKKのトップが、激怒。黒人の人権擁護団体のデモに、KKKを衝突させる最悪の事態へ。
最後に、トランプ大統領の報道映像が出て「人権擁護団体にも、反対する団体(KKK)にも良い人々がいて、悪い人々がいる」と、本当に良い人々には救われないコメントが流れて映画は終わる。
トランプのような、高みの見物をする偽善者ではないスパイク・リー。
だから、ハリウッド流の”綺麗事”に、アカデミー作品賞の道を譲った。
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ブレンドがいい。ほのかな甘味に、ライムの酸味がバイトする。スパイク・リーの映画にぴったりだ。
無口なバーアテンダントが、キリッと冷えたダイキリを差し出してくれた。
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