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聴き継ぎたい名曲【4】

 筆者の独断と偏見で、聴き継いでいただきたい楽曲やアーティストを取り上げていきます。

 今回はMy Little Lover。言わずと知れた小林武史プロデュースのグループ。小林武史と言えば、Mr.Childrenのプロデュースが先だったが、akkoの情感溢れる透明感のある歌唱、藤井謙二のギター、小林のアンサンブルが良質な世界観を創り出している。

 当時は、小室哲哉プロデュースの全盛期だったが、小室のそれは、初期の斬新さがなく、焼き直しの紋切型を量産しているだけといった印象で、好きになれなかった。小林に感化された奥田民生プロデュースのPUFFYも、ある意味、民生独特のユーモラスな世界観の焼き直しを感じさせたが、小室のそれと違って民生のそれは、メンバー二人の個性を尊重し、二人のために創作している姿勢を感じさせた。どこか呑気で世の中を舐めてんのか、と突っ込みたくなる世界観だが、メンバー二人の民生を慕っている感じも伝わってきた。あっけらかんとした個性(天然の鈍さ?)と相まって憎めない。ほのぼのとさせられた。

 そうした中、My Little Loverは、一線を画して本物志向だったと思う。小林が途中からグループに参加したこともあって、「本気さ」を感じさせた。変に売れ筋を狙うのではなく、腰を据えて「こだわりの良質」を提供しようとしている姿勢があると思った。ほぼ同時代のthe brilliant greenにもその姿勢を感じるが、ブリティッシュ・ロックを基調としつつ、詩的でメロディアスな世界観が秀逸である。CDジャケットのデザインやブックレットも洗練されて凝ったものだった。1990年代のJ-POP全盛期にあって、時流に乗って「売らんかな」ではなく、信念をもって良質さを追求しようとする姿勢に好感が持てる。

 基本的にリリースされたアルバムは、シングルの寄せ集めにオリジナルが加わる形だが、それぞれ一貫したコンセプトを感じさせるから不思議だ。同じことは他のアーティストにも言えることかもしれないが、My Little Loverはこの傾向が顕著である。順番に見ていこう。

 1stアルバム『evergreen』。当初はakkoと藤井の2人組ユニットだったが、当時の二人は実際、初々しかった。一言で表現するなら、「若さ溢れる兄妹が醸し出す青春」。悩みながらも希望をもって成長していくような、明るくポップな世界観を展開している。その中から一曲。「Hello, Again 〜昔からある場所〜」。

 ドラマの主題歌にもなった初期の大ヒット曲。一人称が少年なのが良い。年下の男子にとって、当時の歌い手akko=少し年上のお姉さんが庇ってくれて、代わりに気持ちを伝えてくれているといった感覚にさせられる。

 2ndアルバム『PRESENTS』。小林がメンバーに加入して本腰を入れ始めてからのリリース。『evergreen』の世界観がガラッと変わり、静謐な中にも情感溢れる起伏があり、詩的で内省的な世界観が、どこかノスタルジックな気分にさせられる1枚。タイトルが示す通り、心のこもったラブレターのような、贈り物の様相を呈している。その中から一曲。「回廊をぬけて」。

 この曲を聴くと、母校の慶応大学で1~2年生のときに通った日吉キャンパス時代を思い出す。通学で利用した東横線、そこから眺めた田園調布の風景、連想される石造りで白塗りのコテージーー。そうした心象風景が既視感(déjà vu)を伴い、とりわけ郷愁を誘う。

 3rdアルバム『NEW ADVENTURE』。ジャケットのどこか幻想的で透明感のあるイメージと楽曲の世界観が見事に調和している。タイトル通り音楽的な冒険を感じさせる。アレンジもより一段と凝ったものに仕上がっており、相当なエンジニアリングを感じさせる1枚。この頃が最盛期で、CMやドラマの採用曲が入っている。その中から一曲。「Days」。

 akkoの歌唱には本物の癒しがある。ヘッドフォンで聴いていると、耳元で囁かれているようなアレンジの曲もあり、当時、相当精神的に参っていた筆者は、随分、その声に救われた。この曲は、サビの部分が最高だ。その歌詞と相まって、当時の筆者に響いた。絶望の淵から、生きてみようと思った。

 続いてリリースされたのが『The Waters』。収録されている「STARDUST」は『NEW ADVENTURE』の収録曲だが、完全なコンセプトアルバムなので、全体のイメージに調和させるアレンジが加えられている。プログレッシブさで言えば、『NEW ADVENTURE』をさらに進めた感じで、The Beatlesの『ホワイト・アルバム』のような実験的な要素も加わっている。個人的には、この謎めいた感じが好きだ。大河の一滴として川となり海となり、心地よく身を任せ、深く広大な世界、母なる自然(Mother Nature)へ還っていく世界観だ。
 
 その中から一曲。「THE WATERS」。

 一曲目のこの曲は、このアルバムの水先案内人。コンセプトを方向付ける舵取り役を担っている。

 この後、徐々にakkoのソロ・プロジェクトへ移行していくことになる。同世代として、応援したい。

▼バックナンバー
聴き継ぎたい名曲【1】
聴き継ぎたい名曲【2】
聴き継ぎたい名曲【3】


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