「書」報せん 村田紗耶香『コンビニ人間』
1.お薬の内容(どんな本?)
名称:小説含有文庫本 村田紗耶香『コンビニ人間』文春文庫
成分:#コンビニ、#人間ドラマ、#芥川賞、#純文学
内容量:168ページ
製造年月日:平成30年9月10日 初版発行
ご注意:「普通」を疑うようになる可能性があります。
症状(こんな人におすすめ)
変わっていると言われる、新しい視点が欲しい、アブノーマルが足りない
2.あらすじ
「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ弁当を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日結婚目的の新入り男性・白羽がやってきて……。(裏表紙から抜粋)
3.効能・効果(書評・感想)
どうも、コンビニではないけど小売業で働いている空条浩です。症状の中にアルカラ感漂うフレーズがありますが(思い出しては聞いています)。
いやあ、この小説面白かった!! というのも、視点が面白いんですよね。主人公、古倉恵子の。
小さい頃から極度の合理主義によって周りから「変わっている」と言われ続けた古倉。マキャベリストっぷりが発揮されている描写は多くありますが、その中でもゾッとしたシーンがこちら。この描写加減、すごいっす。
赤ん坊が泣き始めている。妹が慌ててあやして静かにさせようとしている。
テーブルの上の、ケーキをはんぶんにする時に使った小さなナイフを見ながら、静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに、大変だなあと思った。妹は懸命に赤ん坊を抱きしめている。私はそれを見ながら、ケーキのクリームがついた唇を拭った。(P60)
妹の普通→古倉の普通→妹の普通→古倉の普通と、二人の「普通」が交互に示されていますよね。これによって古倉の「異質感」が際立っています。そしてクリームを拭う動作。何の変哲のない動作と古倉の思考「静かにさせる方法=ナイフ」という式を結びつけることによって、彼女にとってそれが当たり前であることを示している。その傍観者的態度に、狂気すら感じられます。
そんな古倉の観察眼は面白いです。例えばこんな描写。
同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボっているとか、怒りが持ち上がったときに強調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。(P34)
うっ、鋭い指摘ですね……。気を付けます、自分。
そしてもう一つこんな描写。コンビニ内にいわゆる「変な客」が来て、店長がそれを追い出したシーン。
ここは強制的に正常化される場所なのだ。異物はすぐに排除される。さっきまで店を満たしていた不穏な空気は払拭され、店内の客は何事もなかったように、いつものパンやコーヒーを買うことに集中し始めた。(P64)
これらの描写って、コンビニ内の出来事だけれど、僕らの日常にも当てはまりますよね。店員を社員や学友に、コンビニをオフィスや学校に置き換えても、似たようなことがどこかで起こっている。なぜかというとそれは、僕らの生きている世界がまだまだ「村社会」的だから。
「変わっている」と言われてきた古倉だからこそ、客観的に村社会を見つめています。感情という不純物をなるべく排して、冷静に。
古倉の観察眼と村社会の批判者である白羽、そして常識に馴染んでいる妹やほかの人々が登場して、この物語は問うわけです。
私とあなたが生きている今の世界って、どう思う?
今って、多様な考えが受け入れられる時代ですよね。だからこそ常識は共有できるものではなくなってしまった。ふわふわとしてしまっている常識を、プレパラートにはさめて観察できるようにしてくれる。そして世界とどのように向き合っていくのか、考える余地を与えてくれる。常識外れ、自分らしさ、変わっていると言われている人におすすめ! そんな小説でした!
お金が入っていないうちに前言撤回!! ごめん!! 考え中!!