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生活者見立て通信 編集部こぼれ話~#005 個性ある自分の演出にくたびれる「セルフブランディングプレッシャー」との新しい付き合い方~
QOのプランナーがマーケティングに関わる方にお届けしている「生活者見立て通信」。
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本連載は、生活者見立て通信編集部が、執筆に関わったプランナーへのインタビューを通じてこぼれ話を掘り下げる企画です。どのようにテーマを選び、見立てを練り上げたのか。どんな苦労や学びがあったのか―――レポートでは納めきれなかった裏話をざっくばらんに伺います。
第五回のテーマは「個性ある自分の演出にくたびれる「セルフブランディングプレッシャー」との新しい付き合い方」。今回執筆した寺西さん、秋山さん、松林さんの3人がインタビューに応えてくれました。
アバターが流行る理由、生活者が抱えるプレッシャーの正体
――今回のテーマに着目したきっかけを教えてください。
寺西:企業や個人がAI・アバターを活用する事例*を、松林さんがたくさん挙げてくださって。これまで取り上げたテーマとも違って、新しさや面白さが見出せるのでは?と考え、議論の出発点にしました。そこから、アバターの価値だったり、流行っている背景を拾ったりしていった感じです。
松林:背景を考える中で「生活者は世間からの「自己実現プレッシャー」に晒されていて、アバターによって身体的・精神的・社会的な負が解消されてるのではないか」という仮説をたてました。これをもう少し俯瞰して大きい潮流に組み込むとしたら、ウェルビーイングの文脈につながるのでは?ーーと、最初は話が進んでましたよね。
秋山:そうそう。その時は「セルフブランディング」という言葉は使ってなかったんですけど、入試や就活など様々な場面で「何者かにならねばならない」「自己実現しなければならない」といったプレッシャーって、あるよねと。
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松林:ただ、当初はそれ以上に議論が広がらなかったんですよね。それで、アバターやウェルビーイングに固執せずに改めて議論することになりました。
秋山:特にウェルビーイングは、これまでの見立て通信や他チームでもテーマになっていて、結構やり尽くされている感もありましたしね。早い段階で、別の切り口を考えることになりました。
その後は、結局「自己実現」ってどういうことだろうと議論して。そんな最中に、丁度社内で目標管理をする時期が重なったんです。 各々が目標や今後のキャリアを考えていたタイミングも相まって、「そもそも、自分が何者かも分からないし、何者になればいいかもはっきりしていない。何者になるかを決めたとしても、そのための道筋を決めるのも結構大変だよね」と盛り上がりました。ここから「セルフブランディングプレッシャー」というテーマに昇華されていった気がします。
*AI・アバターを活用する事例:ローソン×AVITA「AVACOM」、Gatebox「AI幹事」、VR Healthcare「メタバースこころの相談所」、など
プレッシャーに対処するため「生活者が求めるもの」から考え直す
――「どうテーマをずらすか、レイヤーを上げるか」を考える中で、身近な自身の目標設定で感じたことを掛け算して、いい塩梅のリアルなインサイトにたどり着いていったというのは面白いですね。
寺西:自己実現へのプレッシャーがあることへの納得感は3人ともありましたし、裏付けになるような調査データも見つかったので、方向性は合意していたんですけどね。例によって、そこから何を見立てるのか、生活者攻略のツボは何なのか、を詰めていくのに相当苦労しました。ずっと行き詰まってた記憶しかないんですけど(笑)。
松林:分かります(笑)。どうにかこうにか考える中で、「自己実現」へのプレッシャーから、 少しずつ「セルフブランディング」へのプレッシャーに変わっていった過程という意味では、「そもそも自己実現のプレッシャーって何だっけ」という問いから目を背けずに、みんなで頭を唸らせながら、議論し続けたのがポイントだったのかなと思っていて。
その中で「(個性は欲しいけど)悪目立ちして浮きたくない」みたいなインサイトもあれば、「そもそも自分の個性が分からない」みたいなインサイトもあるよね――と深めつつ広げつつ、まとめていきました。
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寺西:後は議論に行き詰まったら、見立てと生活者攻略のツボのうち、出口となる後者から考え直したりもしていました。具体例で「こんなのがあったら生活者としては助かるよね」みたいな話をしながら、見立てとの整合性を図るといった具合に。
例えば、「そもそも自分の個性が分からないから、遺伝子分析や自己診断ツールで個性を提示してもらえるとラクだよね」とか、スイッチが足元にあるから足で操作しないといけないといった「自分本来のズボラな行動にも言い訳になる理由があると嬉しい」といった話をした記憶があって。
セルフブランディングプレッシャーにうまく対処するために、生活者は何が欲しいかみたいな話から考えたことも、突破口になった気がします。
自分なりの結論をもう一歩深めた先にあるのが「見立て」。情報の引き出しを広げて自己研鑽
――見立てを作るために、日頃心がけていることや、今回を経て得た学びがあれば教えてください。
松林:正直、相当悩みながらやっていたのが本音なのですが(笑)。あえて言うならば、これまでもリサーチャーという職業上、日常生活で気になったことや、違和感ある事象に関して、自分なりに「こういうことなのかな」って仮説を立てることは多かったんです。
でも、見立てに関しては、自分なりの結論を出して終わらずに、さらにもう一歩深めて考えるのが重要なのかなと。他に起きている別の事象と繋げたり、もしくは、想像も含めて1段飛ばして考えることが大事なのかなと感じました。
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寺西:私は、情報を多く集めること、かつ自分が思いつかない情報や視点を広げることが大事かなと思っていて。もちろんネットサーフィンもしますが、最近参加したセミナーの影響を受けて、Amazonの本のランキングを見たり、書店の平積みをウォッチしたりもしています。売れている本の情報からも、生活者のインサイトが見え隠れするので、大事な情報源だなと。
秋山:私も最近外部のマーケターの方とお会いする機会があったのですが、その時の「1日の中でも、生活者インサイトに繋がるネタや発見はいくらでもある。日々の暮らしの中で起きることや見聞きすることに目を向けて、自分なりに解釈して、引き出しにストックしておくことが大切」というお話が心に残っていて。それ以来、引き出しへのストックの仕方が変わりました。面白さや新しさを見出せそうな事例・記事だけでなく、暮らしの中で見聞きしたことを解釈して、生活者インサイトのタネに昇華しながら、「#商品開発」や「#飲料」などの紐づけられそうなテーマやカテゴリーのハッシュタグをつけて、LINEの自分だけのグループチャットのノートにストックするようにしています。
自分の中で、後から振り返って引き出しを分けられるようにしつつ、見立てを考える時には「この引き出し開けてみようかな」という選択肢ができたのは、よかったなと。まだまだ足りないんですけど、これからも続けていきたいなと思っています。
【生活者見立て通信とは】
QOのプランナーが、定期発行しているレポート「生活者見立て通信」では、世の中の流行やトレンドに関する具体的な「事例・事象」を数多く紹介し、背景にあるインサイトについて独自の視点で「見立て」て、日々のマーケティング活動に活かす「ツボ」を提案しています。
📝生活者見立て通信#005「個性ある自分の演出にくたびれる「セルフブランディングプレッシャー」との新しい付き合い方」_抜粋版資料(PDF)
※背景のインサイトや生活者攻略の“ツボ”等も掲載のある完全版をお求めの場合は、下記までお問い合わせください。
お問い合わせフォーム
*担当者:寺西 成美(Teranishi Narumi)、秋山 月子(Akiyama Tsukiko)、松林 紘将(Matsubayashi Kousuke)
QO株式会社 マーケティングプランナー
寺西 成美
WEBを中心としたリサーチ業務に携わった後、2017年に現職のQOに入社。
定量調査を主軸に、日用品、アパレル、官公庁など、幅広い業界やクライアントのマーケティングリサーチ業務に従事。
広告効果測定、市場実態の把握、インサイト抽出といった調査テーマに基づき、リサーチプランニングや分析を行う。
さらに、体系化されたマーケティング論理と、QO内で蓄積されてきたリサーチの暗黙知を基に、リサーチ手法の規格化や新たなリサーチソリューションの開発に取り組む。
QO株式会社 マーケティングプランナー
秋山 月子
2018年よりマクロミルのリサーチャーとして調査業務に携わったのち、2019年よりHMM(現QO)へ出向。
博報堂常駐リサーチャーとしてトイレタリー・化粧品・アパレル・食品業界を中心とする調査業務に従事したのち、2022年よりマーケティングプランナーとして博報堂ストラテジックプラニング局に出向。
トイレタリー・化粧品業界のクライアント様のマーケティングコミュニケーション・商品開発の領域を中心に、戦略立案・戦術立案・アイデア開発などのプランニング業務に携わる。
QO株式会社 リサーチプランナー
松林 紘将
2016年にQO株式会社(旧東京サーベイリサーチ)に入社。以降一貫してリサーチャー業務を担当。
外食業界を中心に流通小売、食品、教育、文具、地方自治体といった業界・クライアント対応の経験を積む。
各種の定量/定性調査手法、解析手法の経験をベースに、市場把握から上市後の評価検証等まで、マーケティングプロセス上の幅広い課題に対して、企画設計から分析・ネクストステップの提案まで一気通貫で対応する。
*QOでは、ともに働く仲間を募集しています。