生活者見立て通信 編集部こぼれ話~#004 お出掛けでも、巣ごもりでもない、「ゆるい外出」ニーズの兆し。~
QOのプランナーがマーケティングに関わる方にお届けしている「生活者見立て通信」。
本連載は、生活者見立て通信編集部が、執筆に関わったプランナーへのインタビューを通じてこぼれ話を掘り下げる企画です。どのようにテーマを選び、見立てを練り上げたのか。どんな苦労や学びがあったのか―――レポートでは納めきれなかった裏話をざっくばらんに伺います。
第四回のテーマは「お出掛けでも、巣ごもりでもない、「ゆるい外出」ニーズの兆し」。今回執筆した土師さん、磯矢さん、斉藤さん、瀨﨑さんの4人がインタビューに応えてくれました。
猛暑で減った外出。募る「日常への既視感」
――今回のテーマに着目したきっかけを教えてください。
土師:きっかけは、この夏の猛暑を過ごす中で感じた罪悪感でした。本当に毎日「外出のハードルが高すぎる!」と思っていて。例えば「美術館行きたいな」と思っても、どこも予約制で既に満員で入れないことが続いて、閉塞感を感じていました。でも、家にずっといても困らない環境が整っていたし、「これでいいか」と自分を納得させていたのですが、段々と同じことを繰り返す中で「日常への既視感」が募ってきたんです。罪悪感のような気持ちもふつふつと湧いてきてしまって。もしかして、同じ思いを抱えている人っているかもしれないと思い、事例やデータを探してブレストに持ち込みました。
瀨﨑:土師さんのお話を伺った時、自分の感覚にもあっていて、とても納得感があったのを覚えています。コロナ禍の在宅ワークや猛暑の関係もあって、ここ数年、全体的に移動量は減っているんですが、特に若者層を中心に外出の頻度が減って、70代よりも下回ったデータ(国交省・第7回全国都市交通特性調査)もありました。一方で、散歩の頻度が増えているデータ(笹川スポーツ財団 スポーツライフに関する調査2022)も見つかったんですよね。このギャップに引っかかりを感じて、みんなで「なぜだろう?」と深ぼっていきました。
磯矢:最初のブレスト後も、チャット上で議論が盛り上がりました。 気軽に思ったことは意見をあげたり、関連しそうなデータもみんなで出し合ったり。継続的にやり取りできたのは、今回の成功要因のひとつと言えそうです。
斉藤:そうそう。僕自身は巣ごもり派で、正直なところ家にずっといても十分満足なタイプ。それに、最近はどちらかといえば「動かなくてもできること」にテクノロジーやサービスが集中している気もしていました。 なんならVRで体験もできるし、ネットで動画配信を見たり、買い物をしたりできる。でも、そんな僕でも外に出ることはあって「それってなぜだろう?」と。みんな暇だから外に出るのもあるけど、たしかにずっと家にいると「何か引っかかる・満たされない心理」が「中間的な外出」の本質なのではないかとそんなやりとりをしていました。
ゆるい外出をする生活者は「小さな想定外」を求めている
――見立てをまとめる上では、磯矢さんが作成した概念図がいいスパイスになったとか。どのように見立てを整理していったのでしょうか。
磯矢:「うーん」って頭を抱えながらやるしかないんですけど(笑)。ただ、いきなり言葉だけで見立てをバンと出すのではなくて、一度概念図で示すとわかりやすいかなと。土師さんがある程度作ってくれていた図をベースに「ガチ外出」「ゆるい外出」「巣ごもり」と3領域の名前をつけてまとめていきました。
部内で行う中間発表前日に、チームで打ち合わせをしたんですけど、その段階の見立てはもっとだらだらとした文章だったんですよね。これじゃあ面白くないなと思ったので、改めて議論を持ち帰って、再度「いい言葉ないかなー」と思考を巡らせる中で「生活者は、日常の小さな想定外を求めている」という見立てに収斂していきました。
土師:臨んだ中間発表では、部内の反応自体はよかったものの「結局、ゆるい外出の本質的な価値って何?」と問われて。もう一歩シャープな見立てをつくるために、みんなでまた結構頭をひねりましたね。
磯矢:その時が1番しんどかったな(苦笑)。「ゆるい外出って結局コミュニティーの話?物理的な場所の話?」とか、ツッコまれて。
斉藤:あくまでも場所は解決策の一つでしかないので、「家の近くにこんな場所があったらいい!」という空間論にならないようにずっと気をつけてはいましたが、うまく伝わり切っていなかった部分もありましたよね。振り返れば、「ゆるい外出」を求めるインサイトは「ちょっとした非日常」だったり、「社会とのつながり」だという話はずっとしていたんですけど、どれも曖昧な言葉だったのもあって。
土師:瀨﨑さんが「言葉の定義をしっかりしよう」という指摘をしてくれて、ブラッシュアップできたのは良かったなって思います。
瀨﨑:「本質は何か」を言語化して、生活者が享受するベネフィットをわかりやすい言葉に開くプロセスは、抽象と具体の行ったり来たりで難しいなと改めて感じました。各々の視点を組み合わせて、最後まで作りきれたので、みんなで粘ったかいはあったかなと。
お互いを尊重しつつも、アイディアは厳しく検証
――今回4人で取り組んでみて、いかがでしたか?
土師:今までの見立て通信は2人組でやっていたので「こんなに意見の幅が広がるのか!」と、とても新鮮でした。着目した生活者動向に対する見え方が、十人十色でどんどん広がっていったのは、すごくいいなと。
磯矢:自分は、打ち合わせを設定したり、チャットで意見を引き出したりと、意識的にファシリテーションに徹したつもりだったんですけど、 あまり自分がやりすぎるのも良くないかなと葛藤する気持ちもありました。でも、このプロセスを全部1人でやっていたら、クオリティも高まらないですよね。このチームで様々な意見を出し合えてはじめて、いい見立てができたのかなと感じています。
斉藤:合意形成をする話と、みんなを尊重しつつも場合によってはアイディアを厳しく検証していくメリハリってすごく難しいなと思うんです。手前味噌ながら、このチームはそのバランスが上手だったのかなと。
瀨﨑:磯矢さんのファシリテーション以外にも、土師さんのアイディア、それにツッコミをいれる斉藤さんといろんな役割分担のバランスが絶妙だったのもあってうまくいったのかなと思います。僕は、初めて見立て通信制作に参加したのですが、各々の立場から意見を合わせて、アイディアを昇華させていくプロセスは次にも活かしたいと思いました。
【生活者見立て通信とは】
QOのプランナーが、定期発行しているレポート「生活者見立て通信」では、世の中の流行やトレンドに関する具体的な「事例・事象」を数多く紹介し、背景にあるインサイトについて独自の視点で「見立て」て、日々のマーケティング活動に活かす「ツボ」を提案しています。
*担当者:土師 ゆきの(Yukino Haze)、磯矢 宗治(Muneharu Isoya)、斉藤 諒馬(Ryoma Saito)、瀨﨑 雄介(Yusuke Sezaki)
*QOでは、ともに働く仲間を募集しています。