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日本には何人のハカセがいるのか

問題の発端

先日ツイッターで次のようなツイートに遭遇しました。

このツイート主のウギス氏は日本語や日本文化に造詣の深いラトビア人で、日本にはどのくらいの博士号所持者がいるのかと問うていたわけです。

このツイートに引用されている元データは、経済協力開発機構(OECD)による調査です。

調査報告書を見ていくと、下のようなグラフが出てきます(日本語のタイトルは私が追加しました)。OECD全体では約1.1%ということなので、平均して25-64歳の90人に1人くらいはハカセなのですね。

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このグラフを眺めていると分かりますが、1964年からOECDに加盟している Japan はどこにも入ってません。これはいったいどういうことなのか。

いきなりですが、結論を書きましょう。

25-64歳の博士号所持者総数の公開データを日本政府は持っていない!

です。終ワットル。閉店ガラガラ

あれだけ「大学院重点化ガー」「高学歴ワーキングプアー」「高度人材ガー」なんて偉そうに言ってたのに、文部科学省が作成した審議会資料などを見ても博士総数データはどこにも出てきません。

なぜ博士総数を把握してないのかは分かりません。モンカショウ ムノウナノカナ…
少なくとも、インターネット上に公開された検索可能な形でのデータは見つかりません。OECD の統計に日本の博士号所持者の割合は入ってないのは、信頼できるデータが存在しないからです。


ではどんなデータならあるのか

いろいろと検索してみたところ、代わりに出てくるのは、各年度ごとの博士号授与数調査の結果です。審議会資料などにも、基本的にこのデータが使われているようです。

このサイトに置かれたPDF資料を見ると、2006年から2018年までの課程博士・論文博士の授与数が載っています。

もっと古い情報が欲しければ、日本政府のデータベースを見るしかありません。「学校基本調査」のところに、1950年頃から現在までの調査結果のデータファイルが置かれています。

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528

このデータを使って年度ごとの博士号授与数を足し合わせれば、博士号所持者総数が出せるんじゃないかと思ったアナタ、クレバーなアタマをしておられます。以下この note でやりたいのは、まさにそういうことです。

もう少し検索して、使い勝手の良さそうなデータシートを見つけました。

これは文部科学省の科学技術・学術政策研究所による報告書です。
【図表3-4-6:博士号取得者数の推移】のところでリンクされている Excel シートに1981年から2017年までの学位授与数がまとめられています。

1990年代以前は10000人に満たない年間博士号授与数だったのが、90年代の大学院重点化政策で徐々に増えていき、2000年以後は年間だいたい16000人くらいに落ち着いたということがこの資料から分かります。


見つかったデータで計算しよう

さて、ここで計算したいのは「25-64歳の博士号所持者数」です。しかし、文部科学省の資料には、博士号取得時の年齢の情報はありません。仕方ないので、適当な仮定を置きましょう。

日本の教育システムでは、最短年限で博士号を取れるのは、大学入学の9年後です。18歳で入学したら27歳。
しかし現実には、浪人したり留年したり、心を病んだり、調査や実験に失敗したり、酒やゲームやツイッターに溺れたり、指導教員と不仲になったり、再び心を病んだり、そもそもの研究課題が悪かったりして、論文が書けなかったりします。

さらに、上の統計には社会人入学の博士号取得者も含まれています。というわけで、課程博士の修了者は平均30歳とでもしましょう。

あと、日本には論文博士というシステムがあります。特に文系分野では、研究者として就職し、一定の業績を上げてから博士論文にまとめるというのも過去には一般的でした。平均年齢は課程博士より上になるはずですが、どれだけ上なのかは分かりません。ひとまず35歳とでもしましょう。文部科学省のデータでも課程博士と論文博士は分けて集計されています。

30歳で課程博士を修了し博士号を得たとすれば、2018年の時点で64歳以下の博士号所持者は、1989年から2018年の間に博士号を取った人です。さっきのデータシートで計算すれば課程博士は33.4万人。

同様の計算を35歳の論文博士にあてはめれば、こちらは13.1万人少々になります。というわけで、合計すれば

2018年における25-64歳の博士号の既取得者数は推定46.5万人

です。


しかし問題はそれだけではない

上では太字で既取得者数と書きました。これは日本国内における所持者数とは必ずしも一致しません。どういうこっちゃ。

最大の要因は外国からの留学生です。博士号を取ったあとで出身国に帰ったり、別の国で就職したりする人は結構な割合で存在します。具体的なデータを日本学生支援機構(JASSO)が出しているのを発見しました。

2004年から2018年までの統計を見ていくと、この期間に授与された博士号の約16%が留学生に対するものであったと分かります。
また、同じ統計資料を見ると、留学生のうち博士課程修了後に日本に留まっているのは約44%であると計算できます。データのない2003年以前にも、これと同じ比率であったに違いないと信じることにしましょう。

さて、0.16 x (1-0.44) = 0.09 なので、博士号授与総数のうち9%程度が留学生によって日本国外に出て行っているということになるわけです。これに加え、博士号を取った日本人が海外留学して戻ってこないケースもあります。64歳を迎えずに亡くなる人もいることでしょう。

結局のところ、博士号取得者のうち日本国外に出ているのは、少なくとも1割、実質的には1割と2割の間ではないかと推定することにしましょう。かなり大雑把ですが、最終的には有効数字が1桁少々あれば良いのです。


で、結局どうなるの

さて、最後に25-64歳の総人口を調べましょう。この総務省統計局のページから2018年(平成30年)のデータシートを取ってきて、当該年齢の人口を全部足し合わせると約6320万人です。意外に少ない。 高齢化社会ですね。

この数字を使えば、25-64歳の博士号所持率は、
国外脱出者が1割とすると、46.5万人 × 0.9 ÷ 6320万人 で 0.66%
国外脱出者が2割とすると、46.5万人 × 0.8 ÷ 6320万人 で 0.58%

になります。というわけで、はい結論、

2018年における日本の25-64歳人口に占める博士号所持者の割合は0.6%

です。日本には150人から200人に1人くらいの割合でハカセがいる、ということが分かりました。

冒頭の図に書き加えるとこんな感じになります。

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あらー、OECD平均の半分くらいですねえ。
大学院重点化とか言ってハカセを量産したんじゃなかったんでしたっけ。
学歴社会って幻想だったのね。モンカショウ ヤッパリ ムノウナノカナ…

この数字の善悪は、皆さんでお好きにお考えください。ではごきげんよう。




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