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『伊勢物語』の思い出
こんにちは。
今回は、古典文学にまつわる思い出話をしようと思います。
高校時代に通っていた予備校の古典の授業で、どこかの大学の過去問を解かされた。
『伊勢物語』の「つくも髪」を読んで問題に答えなさいというものだった。
『伊勢物語』は、平安時代の歌物語である。短編集で「昔、男ありけり」という書き出しのものが有名だが、その過去問の話はちょっと違っていた。
簡単にあらすじを書くとこんな感じだ。
3人の息子のいる女がいた。女は「イケメンと付き合いたいわ」と思っていたが、直接言うのは憚られたので「夢にイケメンが出てきたの」と息子たちに話してみた。
それを聞かされた息子たち、長男次男はスルーしたが、三男だけは「きっと正夢になりますよ」的なことを言い女を喜ばせた。
そして、三男は狩りに行く途中のイケメンを待ち伏せして捕まえると、女のことを伝えた。
事情を聞いたイケメンは、なんと女の家にやってきて一夜を共にし帰っていった。
当然、その後付き合いが続くわけもないのだが、女は諦めきれずイケメンの家までやってきて家の中を覗き見たりしていた。
女が覗いているのを見たイケメンは歌を詠んだ。
「俺に恋するババアの幻が見える件について」
これを聞いたバb…女は逃げ帰り、イケメンを想う歌を詠んだ後泣きながら寝てしまった。
女を追ってこの様子を覗き見たイケメンは、女を哀れに思いその夜は一緒に寝たのだった。
普通は好きな相手とそうでない相手で差をつけるものだが、このイケメンは分け隔てなく扱っていて素晴らしい。
ナニコレェ…
たいして難しい話ではない。あまり出来の良くない高校生でも詳細はともかく、内容はなんとなくわかった。
が、最初から最後まで全く理解できない!
肉食系母、母に男を斡旋しようとする息子、ホイホイされる男、ストーカーをやらかす女、自分から手を出しておいて今なら炎上不可避の酷い歌を詠む男…っていうか、お前も他人の家を覗くのかよ!
やばい奴しかいない。
しかもこれを美談扱いで締めるというのは、全くもって意味不明である。
今と価値観が違うのだろうが、冒頭で長男次男が揃ってスルーしてるから、当時としてもちょっとアレな話だと思うんだけどなぁ。
そもそも、この話を高校生に読ませる意味とは?
などと考えていても仕方ない。とにかく今は問題を解かねばならない。
単語、文法、現代語訳とお決まりの問題が続く。
そして最後の一問は、「この話の内容にあっているものを、次の①~④の中から一つ選びなさい」という、これまたお約束なものだった。
似たり寄ったりの選択肢の中に、一つだけ異彩を放つものがあった。
「男も男なら、女も女だ。」
この手の問題には大抵、露骨なハズレ選択肢が仕込まれているものである。
ピコーン!ハズレ絶対これじゃん!
だが、多感で素直でなかった10代の私は思ってしまった。
わざわざこんなのを選択肢に入れたということは、問題を作った人もそう思ったんだろうな、と。
分かる分かるよ!その気持ち!
(勝手に)問題の作者に共感し盛り上がった私は、間違いを承知でその選択肢を選ぼうとした。
その時、脳内に響く声が。
「でも、それって、あなたの感想ですよね」
私の中のひ⚫︎ゆきが囁いたのだ。
そう、問われているのは感想ではない。
内容に沿ったものを選ばねばならないのだ。
ありがとう。しかし、私は同志(問題の作者)を裏切ることはできない!止めないでくれ!
「でも、それって、あなたの…
ええい!うるさい!フランスに帰れ!
私はひろ⚫︎きの静止を振り切り、爆死したのだった。
バカですね。
文章は読めたとしても、理解できるとは限らない。
それが、この一件で私が得た最大の学びだった。
単語とか、文法とか、現代語訳の作法とかを真っ当に学べばいいのに…
はい、バカです。
しかし、この話って結局なんだったんでしょうかね。
本気で男を持ち上げてるのか、何か他の意図があるのか…
その後いくつか訳を読んでみたりしたけど、すっきりしないまま今に至るのであった。
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