ウヨクよ、聖書はきちんと読みなさい
ある人物が書いていることが、安物ウヨクの典型なので、取り上げる。雑然と込み入った記述で、一貫性がなく、ただあちこちで通説に逆らう逆説がちりばめられ、ショッキングに見えるだけだ。そこに西洋コンプレックスとニッポン・ショーヴィニズムが臆面もなく盛り込まれる。
立花と同類。
元の文は長いので原意を歪めない範囲で圧縮する。
なお、ウヨクとカタカナで書いたのは、良心的で知的な真正右翼のひとたちへの礼儀として、両者を峻別するからである。
(冒頭のパラグラフ、修正しました)
* * *
<アメリカや イスラエルが パレスチナ人を 大虐殺しているのは パレスチナ人はアマレク だからだ。
アマレク人というのは、古代パレスチナに住んでいた遊牧民族で、旧約聖書では、ヘブライ人の宿敵としてしばしば登場する。
エジプトからカナンに向かうヘブライ人と戦い、ヘブライ人に負けた。
その後も、アマレク人とヘブライ人はたびたび戦い、モーセは、カナンの地に復帰した後も、アマレク人を絶滅させるよう命じた。>
という冒頭部分は、そういうことを言うユダヤ教徒がいるのかもしれないから、そういう意味でならいいだろう。ほんとうは、パレスチナの住民はおもにアラブ系、すなわちセム人種なので、アマレクとするのはユダヤ人の常にするデマなのだが。付け加えるなら、1947年の国連の「パレスチナ分割」決議、翌1948年のナクバ(大災厄 パレスチナ人殺戮)などより前、ユダヤ人国家創設の始まる前はパレスチナはユダヤ系もアラブ系も共存していた。
そして、<イスラエル人 や アメリカ人は これにもとづき、神様が パレスチナ人を 絶滅するように 命じられたから 虐殺は正しいと考えている> というのも、そういう人たちもユダヤ教とキリスト教の原理主義者のなかにはきっといるのだろうから、まちがいではないかもしれない。
だが続いて、<奴隷の存在を前提として書かれた聖書 「愛」を説く宗教であるキリスト教を信じる白人たちが、先住民を殺したり、黒人を奴隷にすることに心の痛みを感じなかったのはなぜでしょうか。> とあるのには首をかしげる。
古代には奴隷の存在は当たり前で、それを引きついだヘブライ人や西洋人もそんなものだ、というまでのことだ。愛を説く宗教が、などと言うが、「汝殺す勿れ」と言いながら戦争ばかりしているのだ。宗教なんてそんなものだ。
この人は、上記の文に続けて、こう書く。
< 旧約聖書で有名な「ノアの箱舟」のノアに、セム、ヤペテ、ハムの3人の息子がいた。ある日、ノアは酔っぱらって素っ裸で寝込んでいるのをハムに見られました。するとノアはハムの子供カナンについて「カナンは呪われよ/奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ」と告げました(創世記9章25節)。セムはユダヤ人とアラブ人の祖、ヤペテは白人の祖、ハムは黒人の祖と解釈され、黒人を奴隷とすることを正当化する根拠となったのです。 >
微妙な点が不正確なので、書き直すと、ノアは酔ってテントのなかで裸で寝ていたところ、ハムが入ってきたが、何もせずに出ていった。そのあと、セムとヤペテが入ってきて、ノアに毛布を掛けると、ノアは目を覚まし、ハムのしたことを知って「カナンよ呪われよ」と言った、というのが聖書の記述である。
ここで気づくのは、なぜ、ノアはハムが何もしてくれなかったとわかったのか、と言うことだ。セムとヤペテが告げ口したか、あるいはこの話じたいがでっち上げだからだ。
しかも、このくだりは、箱船の話の直後に出てくるのだが、このノアがフリチンで寝ていた話が出るより先に「ノアには三人の息子がいた。セム、ハム、ヤペテである。ハムはカナンの父である」と書いてある。
言うまでもなく「カナンはのろわれよ」と言わせるためだ。要するに、ハムなどはどうでもよく、始めからカナンが問題で、カナン攻略のためにその父の「非行」をでっちあげたのだ。
この一文を書いたひとは、あちこちの映像や記事を寄せ集めでそのURLを示しているが、肝心の聖書の文章をきちんと読んでいないことがわかる。
これに続いて、<西欧のキリスト教国は、聖地エルサレムを奪回する十字軍と称してイスラム教国を侵略し、多くの人々を殺しました。異教徒を「裁く」という思想です>などと書いているが、それ以前にユダヤ教がどうしてこんな神話をでっち上げたのか、考えるべきだろう。
もとが沙漠の貧しい羊飼いの民だったヘブライ人が、「乳と蜜の流れる国」と言われた地中海沿いの豊沃なカナンを奪おうとして、それをエホバが命じたと書きたかったのである。
すぐに続けて、<いわゆる「福音派」といわれる人たちですよね。彼らは聖書を読んでいて、聖書によると、キリストが再臨する時には聖地がユダヤ化するんだ、だからイスラエルを支持するんだと。>
などとあるのも、おかしい。なんで、ヘブライ人と福音派をごっちゃにしているんだろう。私だって、どっちの連中もいいとは思わないが、区別はすべきではないか。福音派が、近現代に興った英米系の宗派だ、くらいのことは、キリスト教にあまり通じていない人間でも知っている。
<神は、異教徒を皆殺しにせよ、と命じた。ユダヤ教ではサタンは神です。
「ユダヤ教では、サタンは神です。」
https://x.com/PoppinCoco/status/1850246248303059389
ユダヤ教は、ユダヤ人以外なら白人でも黒人でもどんな人種でも奴隷にすることを許している。
だから私たちは、断じて人種差別主義者じゃない!
>
となると、もういけない。
異教徒をなんでも皆殺しにするなら、ヘブライ人は西洋人を皆殺しにすることにすらなってしまう。いくらエホバがひどい神でも(私もそう思うが)、少なくとも、創世記では、そんなことは言っていない。ヘブライ人に、垂涎の的であるカナンを与えればそれでよかったのだ。
サタンは神、というのは、たった1つの、ユダヤ教のラビの服装をした人物が写っている映像を根拠にして言うのだ。ならば、反ユダヤ主義者がでっち上げたエセ情報である可能性をまず考えなければならないはずだ。
サタンはもと天使だった。それが堕落したのである。それを、ユダヤ教の神にまでして、どうする。(サタンも神の作ったものだから、神は惡だと言うのなら、話は通じるが、まじめなユダヤ教やキリスト教徒はうなずかないだろう。うなずけるわけがない。私は、そういう彼らに同情はする。まさかサタンが神じゃいくらなんでも・・・)
このひとがそんなことを言うのは、上記にすぐ続けて、
<西側とは 虐殺国家のこと
欧米の 西側というか G 7の仕掛ける戦争は キリスト教とか ユダヤ教 など聖書の国以外は 滅ぼすのが基本・・・・>
などと書きたいからだ。
G7がいいとは言わないが、これでは荒唐無稽だ。滅ぼしたら利用できない。難民が大量に発生する。いいことはひとつもない。
<ガサの虐殺 インディアの虐殺、豪地域のアボリジニの虐殺、アジア中東アフリカ全土で植民政策、パレスチナの虐殺、他の人種を人間じゃないとして
G 7の中で キリスト教国でないのは 日本だけですけど・・・・!?
ユダヤ金融資本のアメリカに 戦争に負けて、 植民地になったから仕方ないのかな・・・・!?>
東洋で、隣の国を植民地化しようとした国は日本だけですけどね。中国は近隣と戦って領土争いもしたが、ベトナム、朝鮮を含め、完全に奪ったと言えるのはチベットとウィグルくらいだ。もともと商売人の国だから、世界中に事業者、労務者、売春婦まで住みつかせて、実利を得て、それを本国に送金させたりしている。いまじゃ152の国を巻き込んで、一帯一路ときたもんだ。
案の定、このひとは、中国脅威論にかぶれている。
<⚫︎西側諸国は何世紀にも渡り他の民族に対し自由と民主主義をもたらしていると言っているがそれは嘘であり正反対である。
⚫︎民主主義の代わりに弾圧と搾取、自由の代わりに奴隷化と強制です
⚫︎一極的な世界秩序は嘘と偽善に満ちている
⚫︎西側諸国は現在でもドイツ、日本、韓国を実質的に占領し支配しているが、それを「同盟国」という耳障りの良い言葉で誤魔化している。
https://x.com/R0903307151A/status/1846359586812620803
https://x.com/i/status/1846334415141851179 >
これが、このひとの言いたいことだったのである。
西洋の偽善性を批判するのはいいが、たらいの湯を流して赤ん坊も捨てるような話だ。西洋人が自分たちの域内で民主主義、人権を推進してきたことには、それなりの大切な意義があるし、それを学んだ植民地国のひとたちこそ、それを武器にして、支配と戦ったのである。いい加減にバカにしていいことではない。
植民地の人間でも、能力のある者は取りたてて宗主国で勉強させて、恩義を感じさせ、植民地支配のよき手先にしようとしたら、そのひとたちが優秀だったから、愛国心のためにその学識を利用して、独立運動の支柱になっちゃった。飼い犬に手を噛まれましたな。インド人で英国で法律を学んで独立インドの憲法を書いた不可蝕民出のアンベドーカルなどは典型。日本で明治初期に欧米に渡った明治の建国の父たちもそうだ。
一極支配などと言うが、窮極の一極が国連だ。それは18世紀のカントの『永遠平和のために』に淵源をさかのぼることができる。そうしなければ、たんに第二次大戦戦勝国である英米などによる支配を世界に押しつけることになる。それでは他の諸国がついてこない。(奴隷制の代表みたいな古代エジプトも、奴隷が自由民になる途はあったのだ)。
現に、国連には安保理ばかりでなく総会が設けられたのであり、事務総長は歴代、非米英仏ではないか(*)。第二次大戦後、そのもとで、紆余曲折はありながら、いまやグローバルサウスと言われるほどに、他の諸国が力を得つつあるときに、中国を敵視して、米国にいちばん媚びているのが日本ではないか。その先棒をかつぐようなやつは右翼の面汚し。だから私は右翼への敬意にそむかぬために、こういう手合いをウヨクと書く。私が右翼と書くのは民族派に限られると言っていいだろう。
このひとは、自分の主張を補強するつもりか、申命記やサムエル記、タルムードのいかがわしい引用と、<アメリカは、イスラエルに忠誠を誓わないと二大政党からは出馬できず、独立系で出馬しても潰される構造となっている>というコトバで、この文を結んでいる。何をか言わんや。
* 現在の国連加盟国は190を越えるが、国連設立当時は99ヶ国だった。事務総長の国籍は、北欧、オーストリア、ポルトガル、ビルマ、韓国、ペルー、ガーナ、エジプト。