大切な人
私たち3人の出会いは、大学での研究室。
配属当時は、絶対に仲良くなれないと思っていた2人だが、卒業後も連絡を取っている仲。
すごくチャラチャラとした印象の彼と常にゆるーい感じの彼女と私。
共通点といえば、ちょっと変わり者というところと、ストイックなところ。そして、どこか不器用で自分のことより他人のことを優先させてしまうようなこと。性格は対照的だけど、お互いに自分にはないところを持っていることが、一緒にいて居心地がいいんだと思う。
そんな3人で、久しぶりに集まった。見た目は変わってないけど、社会人だからちょっとだけ雰囲気が変わっている。卒業してからもう数年経つから。けど、会って第一声は私のあだ名を呼んでくれた。
職場では、基本苗字でしか呼ばれないので、あだ名で呼ばれるとなんだか学生の頃にタイムスリップした気分になる。
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卒業旅行は韓国に行った。研究室の同期はあと2人いるが、人間関係で色々とあり、卒業旅行に行ったのはもう1人を入れた4人。そして、この4人の男女構成は彼以外は女子3人。周りから見たら、不審に思われても仕方ない。
彼にとっては初めての海外旅行でどこかウキウキしており、恐らくそんなことは気にしていないだろう。
韓国料理を食べ、観光地を散策し。韓国の伝統衣装であるチマチョゴリも着てみた。いつもは履かないようなふわふわのスカートを履いて街を歩く。異国という空間にいるからできることかも知れない。そして、彼もなぜかスカートを履いている。もちろん、彼にそういう趣味があるわけではないし、男性用の衣装もあった。卒業旅行という空間だから、いつも通り調子に乗っているんだな。
浮かれた気分のまま、部屋では二次会。これまでの学生生活のことを話している。卒業する今だから言えること。あの時、本当はどう思っていたのか…
お互いに思うことはあったけど、今だから精算して新しい道にそれぞれ進もう。ちょっとだけお酒の力を借りつつ、2年間という大学院での時間は本当にいろいろなことがあったと。教員に盾をついたり、後輩に翻弄されたり、学会を途中ですっぽかしたり。決して褒められたことはしていない。
そんなことを話していると、すでに夜中の2:00。積もる話は尽きないのかもしれない。
だから、卒業旅行の思い出は?と聞かれると、韓国という地の観光を楽しむというよりかも、この飲み会の時間の方が私にとっては印象に残っているから不思議だ。
さて、チマチョゴリ事件の本当の理由は後から知ることになる。それは、付き合っていた彼女に対する彼なりの優しさだった。
正直彼女にとって、女子3人と旅行に行くということは良い印象ではないだろう。けど、せっかくの卒業旅行だから行っておいでといって送り出してくれたみたい。
だから、伝統衣装を着るときもあえてふざけて女装をしたのだ。異性として意識させないように。そして、ちゃんと1人の男性としてありたいのは、彼女の前だけであるから。
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3人の関係は、友達という言葉ではなんだか表現できないような関係。少なくとも私にとっては、この2人がいなかったら卒業することもできていないだろうし、生きることを諦めていたかも知れない。
研究室という閉鎖的な環境にいた時間が長かったからだと思っている。社会人として過ごす時間の方が長いけど、研究室ほど濃密な時間を過ごした関係の人は私にはまだいない。
久しぶりに再開した2人は、見た目こそ変わらないものの、それぞれの人生を歩んでいた。けど、会って数分で、研究室当時の会話のテンポに戻ることができる。
会話の内容はどうでもいいようなことが多い。けど、それでもただ時間を共有したいと思う人間関係なんだろうなって。
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コロナということもあり、またしばらく会えていない。研究室の生活には戻りたいとは思えないけど、あの時間があったからこそ今の私がいる。そして、場所は違えど同じようなことをしている仲間がいるということが、仕事をする上では心強い存在なのだ。