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【レポート】あの学校の探究が知りたい!#002(岡山学芸館高等学校・木下秋先生)
こんにちは!Qareerサポーターの竹内結萌です。
先日、株式会社クアリアが主催した高校教員向けの探究学習ウェビナー「あの学校の探究が知りたい!」に参加してきました。
第2回目の登壇者は、岡山学芸館高等学校の木下秋先生。「大規模・複数学科・複数コースの学校で、一人ひとりの探究学習をどう支援するか?」というテーマで、大規模校ならではの探究学習の取り組みについて伺いました。実は岡山学芸館高校は私の母校で、その時の経験やウェビナーに参加しながら感じたことを交えてレポートしていきます!
1.岡山学芸館高校の実践
まず、岡山学芸館高校の実践ということで、必要なスキルやマインドを養っていくためのカリキュラム設計について伺いました。岡山学芸館高校は6つの科コースがあり、多様な生徒が混在しています。その点を踏まえて、シャッフルクラス、ゼミ制度などそれぞれの学年に応じたプログラムが導入されています。
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1年生:研究手法の習得
まず1年生では、自己探究や探究スキルの修得を通して、自分が何が好きなのかを知ったり、調べるスキルや表現スキルを身につけたりしていきます。
それだけ聞くとよくあるカリキュラムのように感じますが、ここに大規模校ならではの特徴があります。それがシャッフルクラスの導入です。普段であればそれぞれの科コースで授業を受けますが、課題研究の授業の時だけは、1つのクラスに6つの科コースの生徒が入り混じっている状態になります。このような形をとっているのは、対話スキルや多様性を養っていくためと語る木下先生。
それぞれのクラスで進める方が簡単ではありますが、シャッフルクラスで生徒同士が学び合う環境を作ることで、ひとりひとりが自分の個性や興味を自覚しやすくなり、課題研究をより深めていくことができるのだと感じました。
2年生:課題研究活動
2年生では自分の興味関心に応じて、以下のような7ユニット23ゼミに分かれていきます。ただの調べ学習ではなく、実践活動を必須としているため、国内での調査を行うのはもちろん、海外研修に参加する生徒もいるそうです。
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多様な生徒がいるということは、それだけ興味関心も様々だと思います。その中で、それぞれの生徒が自分の興味関心に合わせた探究をできるのはとても良い環境だと感じました。
3年生:まとめと振り返り
コンテストに応募したり、自分が進めた内容をブラッシュアップしたり、入試に向けて進路探究をしていくことがメインになってくる3年生。目標としては、3年間の学びを通して、自分が何が好きなのか、興味関心があるのかということを自己認識してもらうことだそうです。
最初に聞いた時、ゼミ活動を続けるという方向性もあるのではないかと思いましたが、頑張ってきた活動を進学や就職に活かしてもらいたいという気持ちがあると知り、たしかにそうだと腑に落ちました。ここで自分に向き合った時間がきっと納得のいく進路選択や将来に繋がっていくだろうと感じました。
2.カリキュラム設定の工夫
探究学習や課題研究においては、カリキュラムが一番大切だと語る木下先生。岡山学芸館高校では、生徒にどういった力を伸ばしてもらいたいか、そしてどう成長して欲しいかをカリキュラムによって教育活動に落とし込むことが必要だと考えているそうです。
ここでは、学期ごとにどんなことを、どんな目的で行っているのかを詳しく見ていきます!
まず、「言うまでもなく、カリキュラムの実現には先生方の協力が不可欠」と語る木下先生。今一番多いゼミは40人の生徒がいるため、先生も2人体制で行っているゼミもあり、以下の図のように現在47名もの先生が課題研究に携わっているそうです。ちなみに3年生は進路探究なので、基本的に担任の先生が担当します。岡山学芸館高校の常勤の先生は100人程度とお聞きし、その中で約半数の先生が関わっているということにとても驚きました。
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このような体制で進めながら、以下のような年間の流れが組まれているそうです。
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1年生:オリジナルのコンテンツを共有して授業展開
上の図の通り、2年生では自分自身で問いを立てて課題研究を進める必要があります。そのため、1年生では、2年生を見据えて課題研究のお試しのようなものをしっかりとやってもらいたいと語られました。
とはいえ、前述したシャッフルクラスで行うため、入学直後から同じクラスではない生徒が沢山いる環境で学びます。そのため、1学期では協働性を育んだり、グループワークをしたりすることが中心となります。例えば、今年度は学校で配られる手帳のデザインを皆で一緒に考えたそうです。そのプログラム内でニーズの調査やどういったものを提供したいかのすり合わせを行い、アンケートの手法などを身につけていきます。
2学期はそれらの学びを活かして、仮説検証型の課題研究を行っていきます。例えば、「音楽を聞くと勉強の効率は上がるのか?」という問いに対して、「どんな音楽だったら効率が上がるのか?」「どんな音楽だったら効率が下がるのか?」のようなイメージで、自分ごとにしながら考えていきます。
その後は自分を知るための自己探究を進め、2年生でやりたいことを考えていくといった流れになるそうです。異学年での交流をしながら、先輩たちの話や発表を聞いたり、ゼミの先生と話し合ったりして、自分自身が何に楽しみを感じるのか、そして何を学んでいきたいのかなどを、生徒たち自身で考えていきます。
そして、3学期は決められたものではなく、自分自身で問い立てに挑戦していきます。岡山学芸館高校では、この段階でQareerを活用しています。自分自身で考えた問いについて、Qareerに探究計画として提出をすると、Qareerサポーターからフィードバックが返ってくるため、自分自身の考えの良かった点、もうちょっと気をつけた方がいい点というのが分かります。このような経験を経て、2年生に繋いでいきます。
2年生:各ゼミの裁量で授業展開
2年生は、ゼミ形式で進んでいきます。各ゼミ共通で「これをしなさい」と言ったものは多くなく、ゼミの先生方の裁量で授業展開をしていくそうです。
共通の取り組みは以下くらいとのこと。
・1学期の間にQareerに研究計画を提出して、フィードバックをもらう
・6月にユニット内で交流会を行う
・2学期以降の中間進捗報告会、最終発表会に参加する
そもそも週1単位、つまり年間で30コマしかない中で進める課題研究。ダラダラとやりたいことを決めていくのではなく、6月のタイミングではある程度の研究の方向性を決めることを目指しているため、上記の点だけは共通事項を定めているとのことでした。
2学期は、計画に沿って行動していき、9月と11月に中間報告会を行います。木下先生は、「2ヶ月から3ヶ月間に1回といったペースで報告をしていくと、だんだん方向性が定まってくるので、ペースメイクとして報告会をやっている」とおっしゃっていました。
3学期は探究をまとめていき、1月末に研究発表を行います。個人探究も含め、190ものグループが発表するそうです!ゼミの選択肢が多い分、グループも多くなってきますが、それら全てに対応しているところに学校全体で力を入れて取り組んでいることが感じられました。その中で評価をして、評価の高かったグループは2月中旬に外部の会場を借りて、他学年の生徒や保護者の方、一般向けに報告会を行うそうです。その後成果物の提出をして、メインの2年間が終わるといった流れになります。
3.課題研究の変遷
岡山学芸館高校は、2015年からSGH(スーパーグローバルハイスクール)に認定され、課題研究をスタートしました。上記プログラムに至るまで、様々な改革を行いながら進めてきたと語る木下先生。ここではセミナーでお話してくださった変遷を振り返っていきます!
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2015~2017年:手探り時代
アクティブ・ラーニングが叫ばれるようになっていた時期。シャッフルクラスを導入している今とは違い、各週2コマで、かつそれぞれのクラスで行っていました。先生方も生徒も慣れない中、手探りで進めていた3年間だったそうです。
2018~19年:シャッフルクラスの導入
4年目になり先生方にもスキルが溜まってきて、「別にクラスを分ける必要はないのでは?」ということで、様々な科コースが入り混じるシャッフルクラスがここで導入されました。
2020~2021年:進学コースの導入と全科コースのシャッフルクラス
2020年度からは当時対象でなかった進学コースにも、課題研究の授業が導入されました。またその翌年度には進学コースの生徒も他の科コースの生徒と一緒にシャッフルして、全生徒が1年時のシャッフルクラス、2年時のゼミを受講することになりました。
2022年:毎週1コマ体制の導入
これまでは隔週2コマで行っていましたが、台風や行事などの影響で月に一度しか授業ができないと、内容を覚えていないということもあり、毎週1コマで進めていくことにしました。
木下先生は「授業コンテンツをオリジナルで作り続けているからこそ、2週間に1回作るのと、毎週1回作るのでは全く違った」とおっしゃっていました。大きな決断ですが、それがあって毎週1コマ体制が今も続いているそうです。
2023~2024年(現在):1年生と2年生の授業・ゼミを同日開講
元々1年生と2年生は別の時間帯でしたが、2023年からは同日開講に変更しました。これによって、関係する先生が増え、現在では50数名の先生が課題研究に関わるようになりました。木下先生が関わり始めた頃は、関係していた先生が10名程度で、そこから考えると大規模になったと語られました。
冒頭の通り、私は岡山学芸館高校の卒業生です。もちろんこの課題研究に取り組んだ経験がありますが、その時よりも多くの先生が関わるようになったことにとても驚きました。このことは、生徒にとっては課題研究についての理解がある先生が多いことで、相談したり、視野が広がったりするきっかけになるはずで、卒業生としてもとても良いことに感じました。もちろん多くの先生を巻き込む意思決定は学校として勇気のいることだと思いますが、ここを乗り越えることで、学校として大きく進む分岐点になると感じました。
課題研究の変遷を語りながら、木下先生は以下のように仰いました。
「決して順風満帆に今の形があるわけではなく、紆余曲折していきながら進んできました。この10年で様々な改革を行ってきましたが、今の形もあくまで暫定的なもので、毎年改訂を加えながら、生徒や先生により合ったものを探りながら進めています」。
お話を聞きながら、大規模校ならではの難しさもありながら、その時々でより良くするための判断をしてきたからこそ、今の形があるのだと感じました。そして今の形を維持するだけではなく、これからも生徒や先生方に合わせて、積極的に改善していこうという姿勢がとても印象的でした。
4.Qareerの活用事例
大規模・複数学科・複数コースという環境の中で、どう一人ひとりの探究を支援していくのか。その支援を実現する一つとして、岡山学芸館高校ではQareerを活用しています。どう活用しているのか、期待していることをお話いただきました。
1.eポートフォリオとして記録の蓄積
2.WEB上での、先生から生徒へのフィードバック提供
3.外部者 (Qareerサポーター) からのフィードバック提供
1.eポートフォリオとして記録の蓄積
探究の計画やまとめがデジタルデータとして残ることによって、先生も生徒も振り返りができます。つまり、2年生の時に何をやったかを、3年生の受験期に振り返る。そして2年生のゼミ担当先生と、3年生の担任先生が共通とは限らないので、Qareerを用いて3年担任の先生がゼミでの活動を把握する。そのような目的で活用しています。
2.WEB上での、先生から生徒へのフィードバック提供
Qareerでは探究の報告や振り返りを投稿できるようになっています。そしてその投稿に対して、先生方がコメントできる機能があり、授業外でも生徒と探究に関するやりとりができます。1コマ45分の中で完結しなくても、「それは素晴らしい!」「今後はこういうことを調べてみようか」というちょっとしたコメントができることで、生徒と先生のコミュニケーションがとりやすくなったとおっしゃっていました。
3.外部者 (Qareerサポーター) からのフィードバック提供
外部者であるQareerサポーターからのフィードバック提供があることで、こういう視点があるのか、こう考えれば良いのか、と日常で得られるものとは違うフィードバックが生徒に提供できます。また、教員の負担軽減という点でも期待通りの結果が得られていると語っていました。
ちなみに、私自身もQareerサポーターとしてフィードバックをしている中で、学校側の活用方法や先生がどう思っているかなどを聞く機会は貴重でしたし、「学校外のQareerサポーターからの視点は先生方の学びにもなっている」とおっしゃってくださって、とても嬉しい気持ちになりました。特に印象的だったのは、コメント機能があることで授業外でもサポートができるということ。多くのゼミ、生徒がいるため、先生方も毎週1コマだけで全員を支援していくことが中々難しいと思います。そんな中で、Qareerを活用しながら、授業外でコミュニケーションをとることで、ひとりひとりへの細やかなサポートが実現できているのと同時に、生徒にとっても継続的に取り組むきっかけになるだろうと感じました。一方、昨今の先生方の多忙化は大学生間で話題になることも多く、際限なく先生方がフィードバックすることも現実的ではないですし、それを生徒が求めているとも思えません。
探究学習の良い支援の形について、ぜひ先生方やQareerサポーター同士でも深めたいと感じました。
5.大事な精神:完璧を求めない
木下先生が終盤お話しされて、とても印象に残ったこと。それは「大事にされている精神としては『完璧を求めない』こと」とおっしゃったことです。
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普段生物の先生をされている木下先生。カリキュラム作成において、イメージしているのは「動的平衡」だと語られました。ガチガチに力強いものを作っても、いつか風化して壊れてしまうので、壊れつつも再生できるというまさにDNAの複製の形をイメージしているそうです。「これをしなければならない」というものをあまりガチガチに固めてしまうと、一人でやる分には良いけれど、やっていくには他の先生方の協力が必要不可欠ですし、課題研究に興味のある生徒ばかりではないので、緩やかな作りというのが大切になってきます。一言で言うのなら、完璧を求めない。
例えば授業のスライドは1年生の先生方に共有しますが、達成すべき内容だけは外さなければ、アレンジは全然自由にしていただいていいと伝えています。また、2年生の成果物も複数用意していきます。10年やっていくと、やってくる生徒層も変わってくるので、毎年改訂を加えています。最近で言うと、情報の授業が導入されてデータサイエンスやプログラミングに興味を持っている生徒も多くなってきたので、それに関連した新しいゼミを設立するとか…。毎年少しでも良いので改訂を加えて、緩やかに、しなやかにしていくことが重要だと語られました。
6.私の感想
10年目を迎える岡山学芸館高校の課題研究。
ここ数年は、以前よりずっと探究学習への注目が集まっていると感じます。私自身、もちろんそれは素晴らしいことだと思っていますが、一方で探究活動の”正解”のようなものが高校生を悩ませているようにも感じます。Qareerサポーターとして日々全国さまざまな学校の探究を見る中で、多くの前例や成功例があるからこそ"型"に当てはめて考え方や行動を縛ってしまう生徒がいることがもったいないとも思っていました。
そんな中で、木下先生がおっしゃっていた「完璧を求めない」姿勢。緩やかに、しなやかにしていくことが重要だという言葉がとても印象に残りました。毎年改訂を加えるのはとても大変なことですが、生徒も、教職員も、社会も年々変わっていくからこそ、その変化に柔軟に対応できるカリキュラムづくりは、どの学校においても参考になると思います。
木下先生のお話を伺って、私自身も高校時代の探究活動を振り返り、改めて探究活動をする意味を考えるきっかけになりました。Qareerサポーターとして、こうすべきという”正解“ではなく、それぞれの高校生に寄り添ったフィードバックを届けられるように頑張っていきます!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
Appendix.当日のQ&A
最後に参加者の方からあがった質問に対しての木下先生のご回答をまとめていきます。
>一人ひとりの探究を充実させるにはどうしたら良いですか?
充実させるという点では、やはり細かな進捗確認が大事だと思います。細かな進捗確認をするためには、先生方の朝の時間、昼の時間、放課後の時間を犠牲にするという考え方もありますが、時代に逆行しているので、それはQareerの「生徒の投稿に対するコメント機能」を活用しています。また多様な生徒がいますので、生徒の状況を捉えた上で、最後は生徒、先生とも納得するような判断、特に生徒が納得する判断が必要になってきます。そのため、丁寧に進捗確認、状況を見ながらコミュニケーションすることを意識しています。
>組織マネジメント的な部分を具体的に伺いたいです。
探究を担当する先生は学校全体のことをよく見ている先生だと思うので、たわいもない話をされる機会は多いと思います。その中で簡単に話を振っていくと、各先生の良さが出ると思っています。例えばゼミで言ったら、国語の先生だったら言語コミュニケーションゼミみたいな決め方ではなく、どんなことだったら強みかというのを話して、日本語の教師の免許も持っていて、国語の先生の免許を持っているということは、日本語というものについて深い知識がある。だったらこういうゼミだったらいいんじゃない?と提案しながらすり合わせていき、全員を配置していきます。
>受験実績の話や、保護者や生徒からどんな見られ方をしているのかを伺いたいです。
受験実績について、本校ではもともと総合型選抜や学校推薦型選抜という選択肢を割とプッシュするので、実績は下がりませんでした。むしろ、上がったという方が近いかもしれません。例えばSGH認定校だからこそ出せる大学というのが結構あったのでそこを積極的に狙っていきました。補足すると進学指導部と課題研究部がタッグを組んでいった成果だとも思っています。
こうした経緯があり、保護者あるいは先生、そして生徒から選ばれる学校になってきたなと感じます。
>課題研究担当として、個人的なこだわりがあれば教えてください。
ずっと走り続けているので、できるだけ負担を増やしたくないというのが一番です。自分自身が一番頑張るのはもちろんなんですけども、お願いをして授業をしていただくということもあるので、できるだけシステムの面で解決できるのであれば、それを積極的に取り入れたいと考えています。
ただ、本校の良さは当初からオリジナルコンテンツをやっていたことなので、授業内容に関しては外部のものは一切入れていません。システムを取り入れていきたいけれど、オリジナルコンテンツはぶらしたくないという微妙なせめぎあいをしています。
システムの面で解決というのは、年間の成果報告みたいなのを一回すればいい話なのですが、そこまでに向かうのに定期的に方向性修正みたいなものをやった方がきっと生徒もやる気があって、先生方も他のゼミの発表を聞くことで学びを得られるということがあるので、6月、9月、11月っていう形で報告をすることにしています。常に、負担を減らすために何ができるかなというのを一番に考えているのが大きいです。