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【レポート】あの学校の探究が知りたい!#003 (聖光学院高等学校・三瓶航先生)

こんにちは!Qareerサポーターの谷早帆子です。
先日、株式会社クアリアが主催した高校教員向けの探究学習ウェビナー「あの学校の探究が知りたい!」に参加をしてきました。

第3回目の登壇者は、聖光学院高等学校の三瓶航先生。「地域社会をフィールドにして、一人ひとりが”ならではの問い”に向き合う探究学習とは?」というテーマで、総合的な学習の時間が一度もなかった状態から「進学探究コース」を始動された中での課題や苦労、それらを経て生まれた取り組みや生徒の変化についてお伺いしました。

今回は、一視聴者として参加しながら感じたことを交えて、聖光学院高等学校の探究学習の実態をレポートしていきます!




1.取り組みで目指していること

ご発表の冒頭、「探究という新しくて未知なものに向き合う、大変で苦痛で面倒臭い経験の先には、自分のことが今より好きになれる景色がある」と話す三瓶先生。
正解と不正解しかない指導とは異なったやりとりを通じて生徒との新しい関係性を築くことができたこと、世代や職業を超えた仲間ができたこと、そして何より福島をより好きになることができた三瓶先生は、「昔の自分より今の自分が好きだと堂々と言える」と力強くお話されていました。
生徒のみならず、”先生”も探究に向き合うことで変化できるという解釈の切り口が斬新で、強く印象に残ったメッセージでした。

2.探究学習開始以前の聖光学院高等学校

聖光学院高等学校では、2022年から探究を主軸にした「普通科進学探究コース」が誕生しました。コースの検討を行うにあたり、課題が3点あったと語る三瓶先生。

1点目が、地域との繋がりが希薄であること。ほとんどの生徒たちは学校と家の往復だけで地域に関わる機会はなく、また三瓶先生ご自身を含めた先生方も地域に何か関係を持っていたわけではなかったそうです。
2点目は、進路多様校であること。大学、専門学校進学、就職など多様な進路を選択する生徒がいることから、柔軟な教育活動が求められていました。
そして一番ボトルネックとなったという3点目は、指導経験がない状態での探究を主軸とした学科編成がされたこと。キリスト教の学校であることから総合的な学習の時間が「聖書」という時間に置き換わっており、総合学習の指導経験が三瓶先生ご自身一度もなかったそうです。

#001#002で取り上げた学校とは大きく異なる、先生曰く「崖っぷち」の状態から始動した聖光学院高等学校での探究学習。そんな聖光学院高等学校が現在行っている探究学習のカリキュラムについてご紹介していきます。

3.探究学習の概要とカリキュラム

続いて、各学年のカリキュラム設計について伺いしました。
総合的な学習の時間が一度もなかった状態からいきなり学校設定科目「探究」という時間を設定し、各学年週4時間探究の科目を実施しています。1年生では自己探究、2年生では進路探究、3年生では未来探究を行っています。

1年生: 自己探究

まず、個人探究に到達する前の1年生では、クラスやグループ単位で授業を行います
地域の方々に来ていただく、もしくはフィールドワークで地域に出向き、自分の将来の解像度を上げながら、職業への先入観を壊したり、違和感を得たりするような経験をしていきます。三学期になると、「地域のコミュニティスペースにて人が賑わうようなイベントとは?」のような課題を設定し、最優秀賞を獲得した生徒が実際にイベントを実現するなどの取り組みも行っているそうです。

2年生以降で取り組む個人探究に向けて、必要な視点や思考プロセスを得ることを着実に進めることができるカリキュラムだと感じました。

2年生: 進路探究

2年生からは個人探究が始まります。一学期に探究テーマを決定し、二学期以降はテーマに基づいて動きます。

聖光学院高等学校の特徴として、「生徒のテーマに近い専門性を持つ先生による学習支援体制」が用意されていません
ゼミ形式等による詳しい先生による指導体制を設けてしまうと、知識の是非で先生と生徒間に上下関係が生まれ、先生が描く探究の道筋に生徒が必要以上に引っ張られる可能性があると考えられたからだそうです。そこで、「一緒に学ぶ」「見守る」というスタンスを取ることで、先生も知らないことと向き合いながら、生徒が「やりたいことをやる中で学びを得る」ことを主軸に探究を進められているそうです。教員の得意分野の枠組みから外れても生徒が羽ばたけるように、包括的連携協定を結び、地域の方々にサポートをしていただける環境も整えられているそうで、地域社会をフィールドにした学びが生まるきっかけにもなっているのではないかと感じました。
もう一つ、聖光学院高等学校ならではの大きな特徴があります。それは、「他校の探究を見る」機会が用意されていることです。過去には、北海道や岐阜県の高校と課題感を共有し合ったそうです。

全く異なった環境で探究学習に励む同年代との交流は、多くの刺激を得られることはもちろん、客観的に自分の探究テーマを捉えるきっかけにもなり、個人探究をより深めていくことができるのだと感じました。


3年生: 未来探究

3年生になると、1年間取り組んだ探究の成果を「伝える」経験をします。
在校生に加えて地域の方々に対して発表を行うことで、一学年・二学年の生徒は「自分たちが三年生になったらこういうことをやるのだな」と認識できるきっかけを作っています。

実際に、「来年一年間自分自身で探究進めるけどどうする?」みたいな話が日頃の生活の中で出てくるようにもなったそうです。先輩の背中を見て、後輩の探究心が育っていくという循環が素敵だと感じました。

4.生徒と向き合う上で意識していること

個人探究で一番大事にしていることは、「チャレンジすることを安心安全にトレーニングできる環境を作る」ということだと話す三瓶先生。ビリギャルの坪田先生の「やる気スイッチで成長するわけではなく、トレーニングで人間は成長するのだ」という話を聞き、探究も例外ではないと感じられたそうです。

では、チャレンジをトレーニングできる探究とはなんでしょうか?聖光学院高校では、「アクションを重視する探究学習」にすることで、チャレンジすることを促しています。情報収集といったこと以上に、自分がやりたいことを見つけて行動に移すということを一番優先事項に考えています。
行動をすることによって「本当に自分がやりたかったことなのか?」という問いに向き合う機会も得ることができるように思います。例えば、「美容系の専門学校に行きたい」という明確な目標が決まっていた生徒が、ハンドマッサージイベントの開催を実現しお客様にも満足いただいたけれども、当の本人からは「やっぱり美容系じゃないかもしれない」という気持ちが生まれました。なんとなく美容の専門学校に行ってそこで気づくのではなく、いま行動を起こすことができたから気づけたのは大きな価値であると思うと仰っていました。


5.Qareerの活用事例

Qareerの活用は、生徒にとってはまずは日々の探究の振り返りであり、先生にとってはその見取りです。生徒全員の言葉に耳を傾けることはできないため、生徒がその時期にどんなことをやったのかを把握するために活用しています。

そして活用の山場は、高校在学中に探究学習を経験し、進めるポイントを押さえているQareerサポーターからより細かいステップや新しい視点でのフィードバックをしてもらうことがあります
例えば実際の例として、介護が必要になる前の高齢者に元気になってもらい病気を予防するという取り組みを行う生徒がいました。その生徒は、Qareerサポーターから「地域や社会という外の視点も踏まえられると良いですね」とこれまで考えていなかった視点でフィードバックをもらい、「他者に対して、自分にできることは何か」を考え始め、リーダー講師を受けて実際にイベントを開催したいと新しいチャレンジが見つかる形に繋がったそうです。

このような機会を作りたいとQareerを活用しているとお聞きし、一サポーターとして嬉しくもありつつ、身が引き締まる思いでした。


6.これからの探究授業で大切にしていきたいこと

ご自身が"探究のあり方"を探究し続ける中でも、生徒が大きく成長する姿に一定の手応えは感じていらっしゃる三瓶先生。一方で、今はジレンマもありますとも仰いました。

それは、探究は目に見えないものだと言われながら、実際は数値化できるものを求められることに矛盾を感じられているそうです。コンテストで結果を残すとか、進路でどう活きるのかとか、学力がどう変化したかなどと問われる中で、それらをしなやかに交わしながら、今大事にしていることに対して突き進んでいるそうです。大事にしていることとは、全然話すことが出来なかった子が地域の大人と話せるようになる、地域の活動ができるようになるといった、一人ひとりの「その生徒ならではの成長」を見守ることだと仰いました。今わからないものでも、10年後、20年後に振り返ったときにこうこういうことだったのかとわかる教育をするために、覚悟を持って信じて取り組んでいきたいと語られていました。

このお話をお聞きした際、自分自身の高校生時代の探究を思い出しました。それは、成果が見えやすいものに縋りたくなってしまい、自分の興味関心から外れた探究をしてしまった経験があります。

数値化されるもの以上に大切なものがあるというスタンスを持ちながら向き合ってくれる先生方がいることは、生徒が真っ直ぐに自分自身の興味関心へと突き進む勇気を得られる何よりの学習支援なのだと感じました。


7.終わりに -ご発表をお聞きして-

ご発表を最後までお聞きして、「生徒が行動を起こすことを主軸として考えている」という三瓶先生のお話が印象に残りました。

Qarrerサポーターとしてフィードバックをする立場では、「なぜそのテーマを設定したのか」「その意見の客観的データはあるか」といったような論理的思考が必要な問いを投げかけることが多いです。そんな中で三瓶先生が仰ってた「アクション重視の探究」の重要性。私自身も探究を始めた当初は「これ楽しそう」「とりあえずやってみたい」という気持ちを第一に動いていたことを思い出し、まずは素直な感情とともに行動に移してみることの重要性を再認識しました。

私の場合は、いつの間にか行動に移すこと自体が「目的」へと変わってしまい、探究活動から得たことや自分の変化に向き合えなかったことが”後悔”として今まで残っています。そのため、行動に移しながらも、生徒が探究で得た知見/経験を認識し、その生徒らしい形で昇華できるようなサポートをしたいと感じるきっかけになりました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


Appendix.当日のQ&A

最後に参加者の方からあがった質問に対しての三瓶先生のご回答をまとめていきます。

Q. 一人ひとりがテーマをどのように決めていますか?
A. 「やりたいことがないです」という子もやはりいるので、そういう時には「なんでその進路に進みたいと思ったのか」というところから、何か自分のテーマを見つけて、とりあえず行動してみるという動きを促しています。
机上で考えて1発でテーマを決めることより、やりながら合うテーマを探していく方が適切と考えます。


Q. 生徒とのコミュニケーションで後悔されたご経験はありますか?
A.「見守る」ことは非常に難しいです。特に難しいのが、「放っておく」と「見守る」の区別が、生徒に伝わらない時があることです。
そこは自分で見つけてほしいと見守る姿勢を教員側にこちらを持っていても、生徒側は「放っておかれているな」と思ってしまうのがあるのと、生徒からは「先生が向かいたい道に進むことが正解になる時があった」といった声を寄せてくれていた子もいました。やはり、「自分がやりたいことをとことんやってもらう」ことが重要だと実感しました。


Q. 地域らしさをどう生徒に伝えていますか?
A. 地域らしさを"意図的に"生徒に伝えようとはせず、フィールドワークを通じて自分たちの住んでいる街を再度見る経験や、地域の大人たちと関わる経験を用意しています。その上で、結果的に自分が生まれ育った福島や学校がある伊達を個人探究のテーマとしてフォーカスする生徒が増えました。
宮城県から来る生徒もいますが、その子も学校がある伊達市の地域で活動したいという想いを持ってくれました。
良いことなのか悪いことなのか分かりませんが、探究を通じて地域と繋がったことから、福島にある地元の大学で学んで地域のために何かをしたいと考える生徒が増えたのと同時に、将来的には公務員になりたいという意志を持つ生徒も増えてきているように感じています。

大切なことは、「探究学習を通じて自分自身のやりたいことを見つけたり、大事にする価値観を自覚すること」です。地域はそのための重要な手段であり、地域の方々は強力な学びの支援者です。
一方で、「地域を知ること」「地域で学ぶこと」自体が学習目的ではないということは意識する必要があると感じています。


Q. 学校の壁を越えて日常生活にまで探求し続ける学生の特徴はあるか知りたいです。
A. 探究の授業が4時間あって、もちろんこの4時間しかやらないっていう子もいますし、土日に積極的に地域のイベントに参画していくような子もいます。ただ、4時間しかやらないと言っても、他の高校からしたら4時間ってすごく大切な時間だと捉えています。
もちろん、授業時間外で積極的に活動していたら嬉しいですが、そうは言っても学校での学びですから、まずは授業の時間でしっかり取り組むことが大切だと考えています。

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