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【レポート】あの学校の探究が知りたい!#001 (立命館宇治中学校・高等学校 酒井淳平先生)

こんにちは、Qareerサポーターの南朴木 里咲です!
先日、株式会社クアリアが主催した高校教員向けの探究学習ウェビナー「あの学校の探究が知りたい!」に参加してきました。

記念すべき第1回目の登壇者は、立命館宇治中学校・高等学校 キャリア教育部長・研究主任の酒井淳平先生!実は私は立命館宇治中学校・高等学校の出身で、高校時代、酒井先生には大変お世話になりました。

「一人ひとりが自分の問いに向き合う探究学習をどう実現するか?」というテーマで、視察も多い探究先進校ならではの課題や苦労、それらを経て誕生したカリキュラムや工夫など、たくさんの学びを得たあっという間の時間でした。今回は、一視聴者として参加しながら感じたことを交えて、立命館宇治高等学校の探究学習の実態をレポートしていきます!


1. 取り組みで目指していること

ご発表の冒頭、「一人ひとりが自分の問いに向き合う探究学習をどう実現するか?」というテーマについて「正直、簡単にできたら苦労しません!」と率直に話す酒井先生(笑)。

では学校として何を目指すべきでしょうか?それは「実現が難しいからといって諦めるのではなく、探究学習の質の正規分布を右に並行移動する」ことだそうです。数学をご担当されている酒井先生ならではの表現ですね!

この目標、一部の生徒だけアウトプットがすごい!という状態を目指しているわけではないそうで、「上位層を増やし、下位層を減らすこと」に重きを置いているところに酒井先生の強いメッセージを感じました。


2. SSHとSGHに共通した課題

実は酒井先生は、立命館高等学校(酒井先生の前任校)でスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、立命館宇治高等学校でスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受けたご経験があります。両校とも先進的な教育を試みていますが、その中で浮かび上がった共通課題が「教員の多忙感」と「 一部の生徒だけの取り組みになる(なりがち)」の2点でした。

酒井先生のご経験によると、そもそもSSHやSGHでは、学内コースの中でも先進的な教育を取り入れているコースへ重点投資がされがちとのこと。その結果、特定の生徒には成果が出ます。それと同時に、「成果が出た活動をさらに広げよう」という声も上がってきます。もちろん成果が出たものに対して活動を広げていくことは大切でしょう。しかしこの声を実現することはそう簡単ではありません。

ここで大切なことは、「成果に繋がったポイントを、生徒や先生に属人化させたり、コースや学科で限定化させたりしないこと」です。「成果が出たポイントを学校全体の生徒の状況に合わせて実践に繋げる動きこそが探究学習を進めるチャンスであり、生徒自身が求めていた何かを発見する経験を得ることが探究の学びの本質」と、現場で生徒の探究見てきた酒井先生ならではの言葉が非常に印象的でした。


3. 立命館宇治の現在地

上記のような成功事例を活かそうという動きの中でも新たに課題は生じます。それは「探究はこうあらねばならない」に囚われ、生徒の興味関心や時間の使い方を無視した取り組みになってしまうことです。

では「生徒自身がそれぞれ自分ならではの探究をすること」を大切にするにはどうすれば良いのでしょうか?酒井先生がおっしゃるには、先述したような学びの仕組み化が大切で、その仕組みの中で学校から生徒に仕掛けていくことで生徒ならではの探究活動は実現するそうです。

この仕掛けとして、立命館宇治高等学校は、総合的な探究の時間を核とするカリキュラム改革に挑戦しました。結果的にこのカリキュラムは改革によって学校全体として探究的な学びを推進するための授業改善に繋がったと語られました。

このご経験を通して、どうしても学校はMUSTだけに囚われがちだからこそ、探究学習を推進するためには「MUST(何をすべきか)」「WILL(何がしたいのか」「CAN(何ができるのか)」の三つの接点を見つけることを大事にしたいとのことでした。

探究学習を考える上で大事にしたいこと

カリキュラムの思想

ではその生徒への仕掛けとして新たに取り組まれたカリキュラムとは一体どのようなものなのでしょうか?一言でいうならば「より多くのものを与えるのではなく、生徒が自ら動ける、コア(核)となる何かを育てたい」を目的にしたカリキュラムだそうです。

生徒のコアを育てる教員も「コア」を共通のキーワードとしながら、教員同士のつながりの場にしていくことを目指した結果以下のような形になりました。その中でも総合的な探究の時間(校内名称「コア探究」)では次の思いが込められています。

・生徒がマイテーマを持って大学進学をして欲しい
・将来、社会に出ていく際のキャリアの可能性を広げてほしい

各学年での探究の流れ

コア探究では、3年間で探究を6サイクル行います。1年生で探究の基礎を学びながら、「探究的に学ぶとは?」を体感していきます。2年生では自分自身のマイテーマを考えることに重心があり、3年生で集大成として取り組むことになります。

コア探究の3年間の流れ

各学年の取り組みについてもご説明をいただきましたので、キースライドを転載させていただきます。

1年生の流れ
2年生の流れ
3年生の流れ

4. 組織体制・推進体制

さて、探究学習を着実に推進するためには、学校としての組織的な運営が欠かせません

立命館宇治高等学校では当初、学年主任が学年自体の統括と同時に探究カリキュラムも統括し、「持ち上がり」方式で学年ごとに繋いでいました。しかし、その状況を見て「統括する組織が必要では?」という声が出たことを契機に、現在ではキャリア教育部が担当しています。1・2年生はキャリア教育部長が各学年主任・担当者と打ち合わせして進め、3年生はキャリア教育部が進める体制となっています。

この新カリキュラムの体制になり、酒井先生は「打ち合わせは大切な対話の時間」だと感じたそうです。

打ち合わせは、大切な対話の時間

酒井先生のご経験によると、探究学習はうまくいっている学校の取り組みをそのまま真似してもうまくいかないことが多いそうです。
だからこそ探究学習を丸ごと一般化させるよりも、組織に根付いた文化と人を見ながらその学校に合わせて探究学習をデザインしていくことが大切とのこと。

そのためにも現状把握と目線合わせの対話の時間は重要であり、それをきっかけに有機的につながることで結果として長続きしていくのではないかと、参加者に問いかけられていました。


5. 学習の中で大切にしていることと、Qareerの活用

立命館宇治高校では自分が取り組んできた探究学習を振り返り、次に繋げていく作業を大切にしています

探究学習において大切にしていること

具体的には自己評価→他者と対話→もう一度自己評価(自己と対話)の形で
振り返ることで探究サイクルを次のステージへ進めるのが狙い
です。

振り返りの進め方

では探究サイクルを次のステージへ進めるには何が大切なのでしょうか?
もちろん生徒自身の振り返りも大切ですが、酒井先生は「他者との対話において良質なフィードバックと出会いが大きなきっかけになる」と考えておられました。

必要なことは良質なフィードバックと出会いであり、そのために振り返りが重要

私がサポーターを務めているQareerはまさに良質なフィードバックと出会いができるサービスだと感じ、活用してくださっているそうです。特にその良質なフィードバックと出会いを体現しているQareerの機能が以下でした。

  • 生徒と教員の継続的なつながりの場
    生徒が探究で取り組んだことや印象に残ったことをSNSのタイムラインのイメージで投稿できます。先生は生徒の探究の進捗を見取り、いいねやコメントで応援することで継続的に支援することができます。(生徒同士でもいいね、コメントは可能です)

  • 生徒がQareerサポーターからフィードバックをもらう場(同校ではレポート提出を年2回実施)
    生徒が提出した探究のレポートに、高校在学中に探究学習を経験してきた大学生のQareerサポーターからフィードバックが送られてきます。生徒が自分だけに向けられたフィードバック内容を取り入れ、その後の探究に活かすことができ、先述の「良質なフィードバックと出会い」を可能にします。その後生徒とサポーターがQareer上でやりとりを続けられることが特徴です。


6. 今後の課題と取り組み

ご発表の最後に、今後の展望について伺いました。展望としては、 探究学習の向上に向けて「より良いフィードバック」と「学びのポートフォリオ化」をどう実現するかが今後の課題になると考えられていました。また、「教員自身も学び成長する集団」をどう作るかについても模索中とのこと。
教材は残せても、その想いや価値観は言葉でしか残せない」という先生の悩みは、まさに“人が育つ”教育現場だからこその課題だと感じました。現在は、さまざまな形でこれを実現できないかと試行錯誤している途中だそうです。

学び成長する教員集団づくりに向けて

探究での取り組みにおいては、今後もMUSTは意識しながらもWILLを大切にみなさんと探していきたいです」と締めくくり、酒井先生からの事例紹介は終了しました。


7. 私の感想

実は私は、立命館宇治高等学校が改革した新しいカリキュラムの第一期生です。当時のコア探究の中でもとてもよく覚えているのは、先生方が「評価されるためのテーマ設定をしなくていい。自分が本当に好きなこと、興味のあることをテーマにしなさい。」と毎回口を酸っぱくしておっしゃっていたことです。周りの同級生を見ていてもこの言葉をきっかけに、マイテーマを見つけ、大学卒業も近づいてきた今現在でも取り組んでいる友人を見かけます

私の個人的な意見ですが、探究学習は表面的に取り組んで終わらせるのではなく、「なぜ自分がこのテーマに取り組むのか」という意義を見つけ出し、テーマを自分ごととして捉えることが目指すべき姿だと思います。まさに「マイテーマ」の発見ですね。

しかしマイテーマを見つけることは容易ではありません。Qareerを通じて全国の高校生の探究活動をサポートしている中でも、テーマ設定や探究計画が目先の課題や短期的な目標に留まってしまう生徒さんをよく目にします。その結果、「自分は何がしたいのか」「どこまで実現したいのか」といった長期的な視点や目標にまで意識が向かず、取り組んでいくうちに迷子になることも少なくありません

ではどうすればマイテーマを見つけられるのでしょうか?私は、酒井先生が大切にされてきた次の言葉が極めて重要と考えます。

MUST・WILL・CANの接点を見つけること

この3つの接点を見つけることで、よりメタ的にロードマップとして自身の探究学習をデザインできるようになり、結果として探究学習を超えて人生の軸となる「マイテーマ」発見につながるのではないでしょうか。

そして、学校として生徒を支援するには次の2つが大事だとも感じました。

・マイテーマの設定と、設定を支援するための仕掛け
・振り返りで探究を次のサイクルへ

今回のセミナーで立命館宇治高等学校が大切にしている探究の考え方、これまでの経緯と今後の展望、そして何より酒井先生が取り組んでこられた想いが参加者の皆さんやこのnoteを読んでくださった皆さんに伝わったのではないかと思います。

私自身、酒井先生に探究のあるべき姿を伺ったことで、QareerのサポーターとしてのMUST・WILL・CANの接点は何なのかを考える大切なきっかけになりました。今後もさらに良質なフィードバックと出会いを提供できるよう頑張っていきます!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


Appendix.当日のQ&A

最後に参加者の方からいただいた質問をもとにQ&Aをご紹介させていただきます。

>探究のゴールはどこに設定するべきでしょうか?
生徒がマイテーマを見つけた上で、そのテーマに関わる面白い大人に出会ったり、一歩でも外に出て学校外で学ぶことだと思います。
また最終的な成果物や発表のクオリティよりもやはりマイテーマとの出会いに重きを置いています。大学進学後、様々なチャンスは転がっていますが、掴めるかどうかは自分次第です。マイテーマを持っている子は普段からアンテナを張れるのでチャンスをきちんと掴める子になれる、そういう探究を目指しています。

>高校生自身がマイテーマを立ち上げるにはどうすれば良いでしょうか?それを可能にする現場とは?
熱中できるかどうかが鍵になると思います。熱中するには興味関心のあることを見つけ、探究につなげることが大切です。
「総合的な探究の時間という強制力」「授業や日常で教師が撒いた種」
どこで出会うかはわからないけど、どこかでヒットして生徒が興味関心を見つけられるのではと考えています。そして「好きなものに対する自分のオリジナリティを考える時間、機会、場」ができることでうまく探究を進めていける子が増えると思います。ここで教員はそれが何であろうと生徒の好きなものを認めるのが大切な関わり方です。
一方で、ただ対象が好きな「消費者」のままにするのではなく、いかに他の人に価値を提供できる「生産者」になれるかの視点で生徒と伴走する姿勢は必要だと考えます。

「コア探究」で目指していることは、生徒が消費者から生産者になることです。
つまり、ただ知識を受け取るお客様として学ぶのではなく、社会に新しい価値を創り出す存在として学ぶということです。これにより、自分らしくよりよい社会を創る力を得て欲しいと考えています。当然より良く社会に関わっていくという視点で、キャリア教育としても重要とも考えます。

Qareerホームページ 事例紹介より <https://qareer.jp/index_voice/ritsumeikanuji>

>生徒としても教員としても(リソース時間、機会)を割くのがなかなか難しいです。
大事なのは探究を宿題にさせないことです。立命館宇治高等学校では、授業内でできることをタスクとして課しています。成果として論文を書かせることは必ずしも必要ではありません。最低ラインとして授業内で収まる形でのアウトプットを想定しています。必修科目だからこそ最低ラインをきちんと保つのは大切だと思います。

教員目線では生徒と伴走するうちにスイッチが入るとお互い勝手に熱くなるので、そこで最低ラインを超えて生徒とともにリソースを割いて取り組んでいく形が理想です。

>教員に対して、生徒数が圧倒的に多い中での伴走の仕方を教えてください。
無理すべきではないです。教員が細かく生徒の指導をしていくのは理想かもしれないですがここで無理をするべきではないと思います。
ただ生徒の成果を教員が認めて終わりにするのではなく、学びを深めるため、例えば生徒同士でやりとりすることを増やしてみるなど負荷を変えない形で環境を整えるのが我々教員の仕事ではないでしょうか。

>生徒の変容について、お感じのことを教えてください。
大学で活躍している子が圧倒的に増えてきたと立命館大学職員からよく聞くようになりました。感覚的には大学に進学したときにマイテーマを持って活動的になっている子が増えたと思います。

>Qareerを使って生徒が最も変化したことはなんですか。
教員による指導の差がQareerで是正され、一気に探究が進んだケースが増えました。プロジェクトに取り組んでいる生徒については、普段から教員以外とも関わることが多いのでアクションが進む子が増えています。

>探究での担当教員同士での目線合わせはどうしていますか?
「探究担当者を学年の中でうまく配置する」もしくは「分掌をする」この二つが大切だと思います。学年内の担当がリードするか、学年外の分掌がリードするかは学校の風土に合わせて選んでいくのが良いでしょう。また日常の会議でいかに探究について話し合う時間を組み込めるかも重要です。

>探究に乗ってこない生徒にどう接するべきでしょうか?
探究に限らず、教員はまさにこの層にどうアプローチするかが大切です。
乗ってこない生徒に対しては最低限の課題を用意するなど、どこかで火がつくのをデザインすることを意識すると良いと思います。

立命館宇治高等学校では様々なことを頑張っている生徒が多いので、そういった生徒に影響を受けて火がつく子も多いです。私は自己効力感*を大切にしているのですが、やはりここでも自己効力理論が活かされ、やる気の輪が広がっていると思います。

自己効力感
「自己効力感」とは、困難な状況に直面しても、「自分ならそれを達成することができる」という自信や期待のこと。
自己効力感を高めるには、
「自分自身の成功体験である直接的成功体験」
「他者の経験を見聞きすることで疑似体験をする代理体験」
「ポジティブな言葉を言い聞かせる言語的説得」
「睡眠や気分転換を行い、体調や感情を整理する生理的・情動的喚起」
という4つの要素を意識していくことが必要とされる。

マイナビキャリアリサーチLabより <https://x.gd/nE3MV>

>生徒・保護者の声はどうですか?
アンケートや探究の振り返りの時間をもとに「探究活動をしていなければ、マイテーマを持ってチャレンジすることや学外での取り組み、出会いはなかった。自分の可能性を広げることができた」という生徒の声が多いです。また「評価もつかないしどうすれば良いかわからなかったけど、好きなことを好きにやっていいとわかってから探究が面白くなった。」という声もありました。保護者の方は幸い協力的な方が多いので、保護者絡みのプロジェクトが立ち上がることもよく聞きます。

>学外活動の制限・ルールはどう設定していますか?
公欠問題については、なるべく発生しないようにというルールがあります。しかし、どうしてもという時は会議で起案して承認を得る体制になっています。

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