「終活なんかしないでよ」あたしは母にそう言った。
「まだ動けるうちにいろいろ整理しておかないと。」
たくさん病気を抱えた母が電話越しに言ってきた。
視界も狭くなったし視力も落ちたし文字が歪む。
指も曲がってお箸が持てなくなった。
おむつが欠かせなくなった。
10分歩くと座り込む。
薬の副作用で全身に痒みが走る。
「日に日に症状が悪化するんよね。オトンは書類関係のこと嫌がって全部私がやってきたからね。あと私の大量の服とか本とかも売れるなら売ってお金にかえないとねぇ。まだ少しは見えるうちにちゃんとやっておかないといけんのよね。」
「終活なんかする必要なか。オカンが死んだら生きたもんが整理するけん。終活以外の好きなことすりゃよか。
肉体尽きるまで好きなことして死んだ後は楽しくオバケになればよかよ。」
こんな会話は最初で最後。
オカンは「じゃあ、そうさせてもらうよ」と言ってくれたからニッコリ笑ったのがスマホ越しに分かった。
オトンはあたしとオカンの会話を聞きながら、
リビングの窓から見える庭の木々を見上げていたそうな。