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タナカ ユウヤ
2020年11月22日 00:52
「今までありがとう」少し前、そう置き手紙を残して、彼女が部屋を出て行った。釈然としないわだかまりを常に抱えながら、今日も電車は、仕事終わりの私を運ぶ。駅から出ると、風が雨のにおいを運んできた。もうすぐ降るな、そう感じた。夜の暗がりに押しつぶされて、窮屈そうにうなだれる街灯。風が吹くたびに身を寄せ合い音を立てる樹々の葉。ポケットに突っ込んだ手を、少しだけ強く握りなおし、家路を