タナカ ユウヤ
実体験を出来るだけ面白く読んでいただけるように、稚拙ながら文章にしてみました。
生活していて気づいたことや感じたことをタラタラと。
ある言い回しを使いたいがために書いたり、自分の気持ちを比喩に落とし込んで書いたりしたものをここに仕分けています。 小説風にすることで無責任になれます。
とんでもないタイトルにしてしまったが、初めに断っておきたい。 この話は長いが、劇的な結末やその後が気になるような展開はない。 なので、この話の最後の"オチ"の一文を、先に書いてしまう。 「その気持ちを、さっきまで握られていた左手に乗せ、私は力強くタバコの空き箱を潰した。」 個人的な過去の恋愛談を、それとなく「読み物」にしてここに綴る。 大学生の頃、仲の良かった友人と「空きコマ」が被ったので談話室でいつものようにダラダラと他愛もない話をしていた。 その時の彼の一言、「それ
前提として、私は街で見知らぬ女性から話しかけられたことがない。いわゆるナンパ、逆ナンという文化に触れたことがない。 そんなイベントが一度でもあれば本望であるが、紛れもなく経験がないのだ。 これはそんな私が経験した、ある昼過ぎの出来事である。 昨日までの晴天を押し退けるように薄くこぼされた鈍色の空は、その奥で煌々と輝く太陽の光を遮っていた。 現場での仕事が終わり、そこから駅に向かう途中のコンビニにタバコを吸うために立ち寄った。 広い駐車場の端に追いやられた灰皿は、まるでタ
東京での暮らしにも少しずつ慣れた5年目、約2年ぶりに実家の戸を開けた。 決して両親と絶縁状態にあった訳ではなく、昨年末は父がコロナになり急遽帰省ができなくなってしまったからだ。 久々に会った家族は、とても自分のそれとは同じとは思えないスピードで"老い"に襲われていた。 父は以前よりもシワが、母は顔にシミが増え、祖母は驚くほど小さく見えた。 慣れ親しんだその他人に、私は少しだけ気まずくなり彼らを直視出来なかった。 食卓に座れば自動的に運ばれてくる料理を、ぶっきらぼうに胃に
終電の一本前、仕事で憔悴しきった私を自宅の最寄り駅まで運ぶ電車が、ホームを煌々と照らしながら入ってきた。 伸びる人影はそれほど多くはなく、こちらもまた疲労を肩に担いだサラリーマンが幾人と、それをさらに強調するかのように酒の臭いをまとった騒がしい若者が少し。 私にもあんな時期があったことを、あたかも遠い過去のように思い出しながら電車が止まるのを待つ。 彼らとの年齢の方が近いはずなのに、中年のサラリーマンを見ている方が今は親近感が湧く。 学生の頃、「はやく社会人になりたい」と曇り
ぽつり、ぽつり、部屋の窓が濡れてゆく。 雨だ。 昔から何故か、雨に心を動かされるクセがある。 こうして、もう何日も書いていなかったnoteを更新しようと思ったきっかけも雨のおかげだ。 別に雨が好きなわけではない。 もっと言うと嫌いだ。 多くの人が感じているように、「天気が悪い」というだけで気分は下がるし、濡れるし、洗濯物は乾かないし、髪の毛は湿気を含んでまとまらない。 ー私の知り合いに、雨が降っている状態あるいは晴れていないことを「天気が悪い」と表現することに疑問を持
お互いの趣味がカメラということもあり、君とは一眼レフのカメラを持ってよく出かけた。 春夏秋冬、それぞれの季節とそれに合わせて少しずつ雰囲気を変える君を逃さないようにシャッターを切った。 いつか、2人で海に行ったことがある。 三脚なんて持って行って、海を背景にああでもないこうでもないと、2人並んだ写真をたくさん撮った。 はしゃぐ君を見て、これが永遠であると信じて疑わなかった。 季節が移ろうに連れて、お互いの考え方や感情も変化していった。 カメラで外面ばかりを追いかけていたせ
ある夜、仕事終わりに友人からこれから飲みに行かないかと誘われた。 彼は普段から一人でも飲み歩くタイプだが、人と飲んだ方が楽しいからという理由で暇な私をよく誘ってくれる。 翌日は休みの予定だったので快諾し、2人で夜の街へ溶けることとした。 飲み屋街を歩き、適当なお店を探す。 まずは一軒目。雑多な雰囲気の居酒屋へ入った。時間は21時。 秋口だったが、その日は暑かったので火照った身体に流れ込む冷えたビールがうまい。 くだらない世間話と仕事の話をつまみにし、一軒目は簡単に済ませた
深い話が展開されそうだ。 「人は人生を繰り返し最後は猫になる」 なんて興味がそそられるタイトルだろう。 これが何の気無しに入った書店の、どこのコーナーに置かれていても手に取るだろう。 小説、ありそう。 エッセイ、ありそう。 自己啓発、逆にありそう。 どのジャンルでも面白そうだ。 前置きがだいぶ長くなってしまった。 本題に入ろう。 昔、お世話になっている先輩からこんな話を聞いた。 「人は死ぬと、生まれ変わって人生を周回する。そしてその過程の中で人として完成され
土曜日の朝、仕事のためスーツに身を包み玄関を出る。 今日はお客さんと会う日だ。 客先までは片道1時間程度。 電車に乗り、喧騒を消すように耳にイヤホンを挿す。 ドラマ版『孤独のグルメ』が好きで、電車の中でもよく観るのだが、これがいけなかった。 昼過ぎに客先を出て、まだ少し時間に余裕がある。 その瞬間にふと、自分が空腹であることに気がつく。 そうなってしまうと、私の中の孤独のグルメが、いや、井之頭五郎が、いいや、松重豊が暴れ出す。 格闘映画を観たあとに自分が強くなった
「今までありがとう」 少し前、そう置き手紙を残して、彼女が部屋を出て行った。 釈然としないわだかまりを常に抱えながら、今日も電車は、仕事終わりの私を運ぶ。 駅から出ると、風が雨のにおいを運んできた。 もうすぐ降るな、そう感じた。 夜の暗がりに押しつぶされて、窮屈そうにうなだれる街灯。 風が吹くたびに身を寄せ合い音を立てる樹々の葉。 ポケットに突っ込んだ手を、少しだけ強く握りなおし、家路を急ぐ。 もう、夜風が冷たい。 もう少しだけ待ってくれれば良いのに、街にのしか
就活生の頃、母から「頑張ってね」という言葉に添えられたネクタイを貰った。 青と白。ストライプ。 とてもシンプルなデザイン。 扱いに慣れておらず、うまく結ぶのに時間がかかる。 鏡で見ながら丁寧に結び方を覚えていく。 これから私は社会人になる。 これまでの怠惰な学生生活を抜け出すのだ。 鏡を見る視線は、いつの間にか手元から自分の顔へと移っていた。 無意識にテカテカした自分の顔に、思わず笑ってしまった。 そんな話をしてくれた彼は、一年後にそのネクタイで首を吊った。 「ごめんな