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「好きか嫌いか」では括れない、でも確実に心を掴まれる1冊┃向日葵の咲かない夏

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

新潮社書誌情報より抜粋

私が大好きな読書系YouTubeサイト「ほんタメ」の中で、MCのたくみさんが、何度も紹介していたミステリー小説。

ミステリ好きとしては読んでみたいなと思っていたものの、なかなか手が伸びずにいた1冊でもある。なぜなら、たくみさんが「イヤミス」だと言っていたから。
イヤミスとは、“嫌な気持ちで終わるミステリー”の略で、最後まで読んでもスッキリしない本を指すことが多いよう。

元々母の影響で、小学校高学年ぐらいから西村京太郎、山村美紗、内田康夫、各先生の本を読んできた私は、「スッキリ爽快!」なミステリーが大好物。なぜわざわざミステリーを最後まで読んだのにも関わらず、モヤモヤした気持ちを抱えなければいけないの??と思っていたんですよね。

それでも読もうと思ったのは、あまりにも何度も、たくみさんが「好きな小説」として紹介していたことと、道尾秀介先生の『カラスの親指』がめちゃくちゃ面白かったから。

読んだ感想をひと言で言うなら「好きか嫌いかで言ったら、嫌いよりかもしれない。でも確実に忘れられない1冊になった本」です。

そこはかとない気持ち悪さを感じるのに、ページをめくる手が止まらない

そもそも、小学4年生が夏休みの前日に友だちの死体を見つける…
これだけで相当気持ち悪い。多くのミステリーは大人、あるいはせいぜい大学生が主人公のことが多いように思うのです。(某「迷宮なしの名探偵」マンガとか、某「じっちゃんの名にかけて」マンガとかは別)

しかもその亡くなった友だちが、1週間後に別のものに転生(?)して、自分の目の前に現れるなんて、私が読んできたミステリーとは全く違う。
さらに言うなら、主人公(ミチオ)と一緒に犯人を追いかける妹は、まだ3歳。殺人事件の犯人を兄と一緒に追いかける3歳って何???
そして3歳のミカちゃん、「本当に3歳?」と思うほど、舌足らずなところも赤ちゃん言葉も一切なく、何なら思考も大人のそれに近い。

夏休みの楽しげな空気も、暑い中、太陽に向かって咲く向日葵の明るさも全くない!うまく説明できないんだけど、何となくジワジワと身体を何かが這うような気持ち悪さ。でもページをめくる手が止まらない。
これぞ道尾秀介先生の真骨頂だと思います。

怪しい人はたくさん出てくるのに、決め手にかける

小学4年生のミチオ、3歳のミカ、そして転生した友だちS君。
どう考えてもまともな推理はできそうもないのに、子どもとは思えない思考力と行動力を駆使して少しずつ前進していく3人。

途中で怪しい人たちが次々と出てきて、「この人が犯人?」「あれ、こっちの人?」と思うのだけれど、どの人も決め手にかける。
怪しい人全員に動機らしきものがあり、「今度こそ、この人か?」と思うと、スッと身を躱されて袖を掴み損なう感覚がずっと続きます。

だから「誰が犯人か?」を早く知りたくて、ますますページをめくる手が止められない。

最後の1行が終わっても物語は終わらない

スッキリ終わるミステリーって、最後の1/3ぐらいで犯人がわかり、あとは犯人がなぜ、犯行に及んだのかが語られることが多いですよね。
『向日葵の咲かない夏』も最後の1/3とは言わないまでも、いくつかのどんでん返しを経て、S君の死の真相に辿り着きます。

この死の真相もなかなかにインパクトがあり、嫌な気持ちになるのですが、それでも「あぁ、そういう結末か…」とスッキリとは言わないまでも、ちゃんと着地したなという感じました。

あとはエピローグを待つばかり…なんて思っていたら、最後の最後に最大のどんでん返しがありました。
「そんなことってある?」と言う気持ちと、「あぁ、だからなのか」と言う物語中でずっと感じていた違和感が腑に落ちた感じと。
イヤミスっていうほどでもないなと思っていたんだけど…

最後の1行で、「うわぁ、これはないわ」と。
確かにイヤミスでした。私が読んできた中で、多分1番のイヤミス。(元々、イヤミスを読んでる数も少ないけど)
『向日葵の咲かない夏』で検索をかけると、結末について色々な考察がなされているけれど、個人的にはどこにも救いがない終わり方だと感じました。
それと同時に、多かれ少なかれ、誰しも心の中にこういった側面があるんじゃないかなぁとも。少なくとも、ここまであからさまじゃないけれど、私の中には確実にある。

読み返せないかもしれないけれど、忘れることもできない1冊

正確には覚えていないけれど、「ほんタメ」の中で、たくみさんが「高校時代に友達にこの本を勧めたところ、友だちが減った」という話をしていました。
うん、わかるよ。私も高校時代に友だちからこの本を勧められたら、友だちをやめるかは分からないけれど、確実に「大丈夫?」と思うから(笑)

それどころか、高校時代だったら途中で挫折していたかもしれない。
高校時代って、まだまだキレイなものだけを見ていたいし、未来に希望を持っている頃だと思うのです(今の高校生は分からないけど、私はそうだった)
そんな中で、ここまで救いのない話を勧める友だちがいたら、心配せずにいられないよ。

オトナになったからこそ、私は最後まで読めたと思ってます。それでも、もう1回読み返すか?と言われたら、素直に頷けません。
好きか嫌いかと聞かれたら、「嫌い」に近いかもしれません。だけど忘れることができない、心を掴まれる1冊になったのは事実。

自分が好きなテイストの本じゃなくても、心を掴まれる忘れられない1冊になるのは、道尾秀介先生のストーリー作りの秀逸さだなと思うし、だからこそ読書って楽しいなと思いました。

「イヤミス」が好きな方はもちろん、気持ち悪いけれど、心を掴まれるような読書体験をしたい方も、読んでみるといいんじゃないかなと思います。読む人を選ぶ(好き嫌いという意味で)本だと思うので、全力でオススメできなくてごめんなさい。

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