思い出のテングザル・ポストカード
こんにちは、ぷるるです。
今日、部屋の片付けをしていたら、懐かしいものが出てきました。
私はかつて絵本創作の学校に通っていたことがあります。
学校ではちょいちょいイベントが催され、その一つに「ポストカード・コンテスト」なるものがありました。
１人５種類のポストカードを作成、１枚100円で売り、その販売枚数を競うという企画。
当時セミエビをモチーフに選んだ人が、他にいなかったからでしょうか。
思ったよりは売れて、嬉しかったです。
もちろん売り上げ上位の方々とは、画力も販売枚数も大きく違っていましたけどね。
でも５種類作ったうち、１つだけまったく売れなかったカードがありました。
今日はその、売れなかったポストカードの思い出を聞いてください。
この頃の私はよく休日に動物園へ赴き、スケッチを重ねていました。
平日は仕事がありますから、「ダーウィンが来た！」などの動物番組を撮って、画面越しに細かい点を観察しながら描いていたんです。
そんなある日、とある動物が私の心を強くとらえました。
テングザルです。
私はその日までテングザルの存在を知らなかったため、この造形にはかなり驚きました。
そして大笑いしました・・・。友達に速攻画像を送ったりして。
そこでさらに笑いが倍、みたいな。
でも彼らを描くうちに、やがてその表情が物憂げな事に気づきました。
目に宿る光は、まるで愚かな衆生を見守る仏の如し。
やがてサルのスケッチ中に、ある人物が浮かぶようになりました。
証券会社時代の上司、S次長です。
S次長は誠実かつ温厚で、店頭営業の女子社員からめずらしく尊敬されていた方でした（つまりほとんどの上司は・・・以下自粛）。
様々な種類の悩ましいお客様にも、（他の上司と違い）親切に対応してくださったからです。
しかS次長には、別の一面があったことを私は知っています。
私が（サボって）食堂へジュースを買いに行くと、次長も時々休憩されていました。
でも窓を見つめるその背中は実に孤独で、私はとうとう声をかけることができませんでした。
あの時の次長とテングザル・・・
スケッチを重ねるうちに、私の中では彼らが切っても切り離せなくなっていったのでした。
さらに。
スケッチの合間に調べたところ、テングザルは屈指の平和主義者だとわかってきました。
他のサルと食料を争わず済むよう、主食は葉っぱに変化。
自分たちより小さなサルにも場所を空ける、謙譲の精神。
私が彼らに仏性を感じたのも、あながち間違いではなかったようです。
しかし動物界は弱肉強食。彼らの平和主義はどこまで通用するのでしょう。
おまけに人間も、彼らに対してまったく優しくありません。
同様に株の世界も弱肉強食です。
ノルマ至上主義の証券業界において、優しさは時に仇となる。
心優しいS次長は、平社員では計り知れない重圧を抱えていたかもしれないのだ・・・。
私はいつしか、「これをカードにしよう」とごく自然に決意していました。
だからこそ、テングザルへ引きつけられたのだと。
私は何度も下絵を作り、色を考え、いろんな画材で試し描きをしました。
自分の力では全然表現が追いつかなくて辛い。苦しい。
でも絶対に諦めるもんか。心を絵にのせてやるんだ。
私のパワー、マックスチャージブレスユー！！！
イミフの勢いで完成したポストカードが、これです。
実際のS次長よりふっくら感を出しつつ、髪型だけは忠実に模写。
セミエビカードの倍は時間をかけました！
でも、１枚も売れませんでした・・・・。
そこで私は、折に触れてこのカードを友人に送りました。
少しでも喜んでもらえたら・・・そんな気持ちを込めたつもりです。
誕生日のプレゼントに添えて。
ちょっとした励ましの言葉をのせて。
クリスマスの贈り物に忍ばせて。
でも、このカードの存在に触れてきた友人もまた、
一人もいなかったのです・・・。
そんなカードが１枚だけ、まだ私の手元に残っていたなんて。
私はこのカードを額に入れて、壁に飾りました。
古い壁には、カードがしっくりと馴染んでいます。
世界があなたを欲しがらなくても、私はあなたを愛してる・・・
人に贈る前に、するべきことがあったのです。
私はこの時、テングザルと同じ表情をうかべていたかもしれません。
S次長とテングザルと私。
これからも共に生きて参ります。
完
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