作家をまるごと読もうと決めた日の、加山雄三。
今年は作家単位で本を読もうと思っています。
つまり著作全部を読んだり、その作家のルーツ書籍を読んだり、ということです。
このような本の読み方が、私は苦手でした。
でも「加山雄三さん」により、気持ちがころりと変わったのです。
自分の変化にまさか若大将が関わるとは・・・人生って本当に想定外の連続ですね。
これまで私は、そのアーティストのファンだからといって、作品のすべてを読むことはありませんでした。
だからファンでも読んでいない作品があるし、たった1つの短編しか好きじゃない作家もいます。
例えば、トーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」は”人生の3冊”に入るけれど、他の作品には興味が持てない、といったように。
小説や音楽、漫画や絵画などのアートは心が動くことがすべて。
どんなに作者が好きでも、作品がピンとこなければNOを言う。
それが創作に対する誠意だと思っていたんです。
そして、こんな自分の読み方を気に入っていました。
しかし!
しかし今年の大晦日。
私の考えは、「加山雄三」によってどどーんとひっくり返されたのでありました。
2022年の午後10時、私は両親に付き合ってぼんやり紅白を見ていました。
すると特別企画として加山雄三さんが登場。
紅白通算4回目となる「海 その愛」を歌われました。
曲は古いし、山ほど聞いたし、加山さんにも興味もないし・・・私はひんやりした気持ちでいたのですが。
全身で歌う加山さんにぐんぐんと引き込まれ、気づいたら両親と肩を並べ、前のめりで歌を聴いていました。しかも涙ぐんじゃって。
加山さんは私の親世代の大スター、その人気は凄まじかったと聞いています。
そんな人が軽くびっこをひいて登場し、滑舌の悪さを残した発音で歌を披露することは、なんという勇気でしょうか。
加山さんは最後まで堂々と歌いきり、満面の笑みを浮かべました。
私はその姿に、表現者としてのプライドを感じ、胸がいっぱいになったのだと思います。
若い頃や美しい頃はもちろん、人気の衰えや老いへの抗い、そして完全に老いた姿。丸ごとの自分を見せる「加山雄三」というスターの生き様に。
でもそれは私に『加山雄三の人生基礎知識』があった故の感動でもありました。
加山さんは大スターだったので、テレビを見ていると彼の人生情報がちょいちょい入ってきたのです。
例えば、父の借金を全部肩代わりしたとか、スキーがプロ級とか、弾厚作というペンネームで作詞作曲していたとか。
全然望んでないのに、勝手に。
しかし、この「いらん知識」は2022年の紅白で全部つながり、花開き、感動を得ることになりました。
そして私に「ああ、作家の全集を読む意味ってこれか。体系的に読む喜びとはこれか!」と、心からの理解を授けてもくれたのです。
これまで本の感想を書いてきましたが、いつも違和感がありました。
その理由が掴めなかったけれど、今ならよくわかります。
体系的に本を読んでこなかった私では、その作家の一部しか知ることができなかったのでしょう。当然に理解の深みが違ってきます。
ウィキペディアなどで他の作品や作家のことを知っても、私の血肉となっていない情報をつぎはぎした書評では、書く意味がありません。
春夏秋冬の全部を体験しないで、季節を語ることはできなかったのです。
これまでの読み方で、私は1作品にどっぷりひたる楽しさを味わうことが出来ました。
これからは作家の書き様丸ごとを読み受け取ることを、たっぷり味わいたいと思います。
ところで・・・
実は一人だけ出版されたすべての書籍を読んでいる例外がいます。
村上春樹さんです。
村上さんだけはイマイチでも何でも、読まずにいられないんですよね。
じゃあ村上春樹について書いたら?って話ですけど、あまりに思い入れが強すぎて、逆に何一つ書くことができず。
あとファンもアンチも濃すぎて怖いってのもあります。
まあ、私も十分濃いファンなんですが。