寒い夜には、ゴフスタインの絵本を。
こんにちは、ぷるるです。
このところ、寒い日が続きますね。
私には、こんな晩にふと読みたくなる絵本があります。
M.B.ゴフスタイン作「おばあちゃんのはこぶね」です。
窓から外をながめているのが、主人公のおばあちゃん。
幼い頃に父が作ってくれた木の箱舟(画面左端の黒い船)を通して、おばあちゃんが91年の人生を振り返るお話です。
おばあちゃんにとって、箱舟は親友でした。
幼い頃は一緒に遊び、結婚先にも連れてゆき、箱舟は子どもたちのおもちゃに。
やがて巣立ちの時が来て、夫も先に逝き、おばあちゃんは一人になりました。
けれど、さみしくはありません。
どんな時も、この箱舟だけは変わらず隣にいてくれたから。
おばあちゃんの思い出を山ほど乗せて・・・
絵も文も実にうつくしいのですが、読んだ後はいつも切なくなります。
ただお話がとても「静かに進む」ので、胸が痛むことはありません。
寒い日に暖かいスープをゆっくり飲んだ時のように、じんわり優しく切なさが広がるからです。
そして気づくと自分の懐かしい思い出が、ふうっと心に浮かび上がっているのです。
先ほど「静かに進む」と書きましたが、その秘密は余白にあると思います。
絵と文章、それぞれにたっぷりと。
静けさとは、空間から生まれるものですから。
そう、私が寒い日にこの本を思い出すのは、静けさという共通点があるからかもしれません。
寒い日って、音がひそやかになりませんか?
ある寒い夜、私はゴフスタインさんのテイストを真似てみたくなりました。
使うのは黒一色。余白をしっかりとった絵。
たぶん、自分なりの「静けさ」を描きたかったんだと思います。
私はこれを描いてみて、ゴフスタインさんがどれだけていねいに、バランス、線の太さ、黒を使うポイントなどを考えていたか、よくわかりました。
画面に静けさをもたらすことの難しさ。
ほんの少しのズレで、雰囲気が変わってしまうから。
それは文章についても、同じだと思います。
どの言葉を使うのか、そして残すのか・・・選んで選んで。
ああ、だからこの絵本は長くいろいろな国で読み継がれるのかと、しみじみ納得したものです。
ところで私は「箱舟」と漢字表記しましたが、本当は「方舟」なんです。
おばあちゃんの父親が作ったのは、「ノアの方舟」。
つまりこの絵本のベースには、カソリックの心が流れているのです。
私はキリスト教信者ではないし、ノアの方舟も概要しか知りません。
もしかしたら汲み取れていない部分があるかもしれない。
でも創作物とは世に出たなら、読者に委ねられるものだと私は思っています。
10人10冊の「はこぶね」がある。
だから今日書いた記事は、私の「おばあちゃんのはこぶね」なのです。
この本を発行した末盛千枝子さんは、絵本編集者としてたくさんの名作を世に送り出しています。
そんな末盛さんが自らが出版した絵本と人生を語ったこの本も、本当に素晴らしいものでした。
末森さんとゴフスタインさんは似たところがあったのではないか。
私はなんとなくそんな気がしているのです。
ところで私はゴフスタインの絵本を、大人になってから読みました。
でももし子どもの頃に読んでいたら・・・どんな気持ちだったかな?と、時々考えるんですよ。
私には「子どもの自分にあげたい絵本」というものが何冊かありますが、「おばあちゃんのはこぶね」は、間違いなくその1つです。